ASEANの成長戦略で注目される高度な数学教育

世界各国の15歳を対象に行われるPISA。OECDが3年ごとに実施する国際学力調査だ。2000年に32カ国だった参加国は年々増加しており、2018年には79カ国となっている。そのPISAの数学で、アジア諸国が上位を独占しているのをご存じだろうか。中でも強い存在感を放つのが、2位常連のシンガポールと、2012年に17位となったベトナムである。

この2カ国の数学教育には共通点がある。それは、関数電卓の使用を前提としたカリキュラムが組まれていることだ。関数電卓とは、あらかじめ関数が組み込まれ、複雑な計算ができる電卓のこと。日本ではあまりなじみのないツールだが、世界的に見ると欧米を中心に関数電卓の使用が主流になっている。学校での授業はもちろん、日本の大学入学共通テストに相当する卒業試験で使用されている。卒業試験での使用が認可されている国では、必然的に生徒の使用率も高い。

こうした中、最も使用されているのが、カシオの関数電卓だ(同社調べ)。カシオの関数電卓を購入する中学生・高校生は毎年、世界100カ国で2300万人にも上る。

カシオ計算機の関数電卓「fx-991MS」

しかし、関数電卓を購入しても、正しい操作方法を知らなければ、授業や試験で活用することができない。そこで、カシオは世界各国で教員向けのトレーニングや教材提供といったGAKUHAN活動を30年以上前から行ってきた。欧米ではすでに関数電卓とその操作方法が浸透しており、近年その軸足はASEAN諸国をはじめとした新興国へと移りつつある。その背景にあるのが、各国の成長戦略にも関係が深い理数教育への意識の高まりだ。

カシオ計算機
事業戦略本部 教育BU 関数戦略部 学販営業企画室
星登 氏

カシオの教育BU 関数戦略部 学販営業企画室の星登氏は、ASEAN諸国における教育の変化のうねりをこう説明する。

「ASEAN諸国の各国で行われているのが、カリキュラムの改革です。中でも数学教育は、公式の暗記のような受け身の授業から、能動的な学びへと変化しつつあり、関数電卓をはじめとしたテクノロジーを活用することで効率化を進め、問題解決能力を養う数学教育を目指しています。さらに、こうした国々では国家戦略として産業人材の育成に力を入れています。そこで重要となるのが理数科能力の向上であり、その土台を作る高度な数学教育なのです」

関数電卓が変えたタイの高校生の数学への意識

こうした変化が追い風となり、ASEAN諸国でも、授業での関数電卓の活用に注視する国が増えている。しかし、学校ではその操作方法を知らない教員も多い。そのため、カシオではその国の環境や状況に合わせたGAKUHAN活動を展開している。

その1つであるタイの高校で、授業中に関数電卓などテクノロジーを活用するカリキュラムが施行されたのは2018年のこと。しかし、関数電卓の普及率はまだまだ低い。そこで、カシオは教員向けの関数電卓トレーニングを行ってきた。

さらに、2020年からはバンコクの西バンコク地区でプロジェクトを開始。これは、関数電卓を使った授業プランをカシオが提供するというもの。授業プランは統計や三角関数など単元ごとに用意されており、このプランを使えばそのまま授業が行えるという充実した内容となっている。このプロジェクトに参加したのは、西バンコク地区にある約70校のうち、32の高校だ。プロジェクトは2021年3月まで行われ、その中間報告では関数電卓の導入による生徒の変化も明らかになった。

カシオ計算機
営業本部 海外営業統轄部 教育企画推進部 市場開発課
後藤彩花氏

このプロジェクトを担当した営業本部 海外営業統轄部 教育企画推進部 市場開発課の後藤彩花氏はこう説明する。

「中間報告では、関数電卓を使った授業や小テストを受けた後の生徒の試験結果は、過去に受けた試験と比較して21%も結果が向上したことがわかっています。また、生徒の「数学を勉強したい」というモチベーションは23%向上し、さらに生徒の74%が関数電卓を使った学びに満足していることがわかりました。

タイでは都市と地方の間に教育格差があるのが現状です。まずは教育への意識が高く、環境も整っているバンコクから始めていますが、関数電卓を広めることで、タイの教育格差是正に役立つことができたらうれしいですね」

もともと教育に興味があったという後藤さんは教員免許を取得しており、タイでのGAKUHAN活動への思いをこう語った。

「教室で目の前の生徒の成長を見守る教員という仕事はすばらしいと思います。その一方で、タイという国のカリキュラム変革に伴う教育の変化を後押しできるこの仕事に、大きなやりがいを感じています」

フィリピンの数学教育を支えるGAKUHAN

そして、ASEANでもう1カ国、国と連携したGAKUHAN活動が行われているのがフィリピンだ。その活動内容は、関数電卓の導入支援に加え、オンライン授業のサポートなど、多岐にわたっている。その中には、コロナ禍における学校教育への支援も含まれている。

カシオ計算機
営業本部 海外営業統轄部 教育企画推進部 市場開発課
ビレガス・ラッキ・メリアム氏

フィリピンでは新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、2020年3月に学校が休校となった。8月に再開する予定が延長となり、10月までずれ込んだ。こうした事態を受け、カシオはフィリピン教育省のポータルサイトに教員向けプログラムを公開した。これは関数電卓をパソコンやタブレットなどのデバイス上で表示し、実際に計算ができるエミュレータソフトを使ったオンライン授業を行うためのもの。この教員向けプログラムを7月から12月まで毎週1回ずつ、合計20回にわたって公開した。

営業本部 海外営業統轄部 教育企画推進部 市場開発課のビレガス・ラッキ・メリアム氏は、フィリピンにおける取り組みをこう説明する。

「フィリピンではコロナ禍の休校期間が非常に長く、生徒さんは在宅学習を余儀なくされました。しかし、オンライン・オフライン共に在宅で使用できる学習コンテンツが不足していました。そこでカシオでは、教員向けプログラムに加えて、生徒さんが自分で使えるコンテンツも用意することにしたのです」

エミュレータソフトを使えば、オンライン授業でも関数電卓の操作方法をわかりやすく教えることができる

これまで教育省の生徒向けポータルサイトにアップされた動画コンテンツは6本。高校生を対象にエミュレータソフトを使って作成されたもので、生徒はブラウザを通じてこれらの動画にアクセスできるようになっている。さらに、テレビでも教育省の教育番組にカシオが提供した2本の動画が採用された。こちらもエミュレータソフトを使ったもので、高校生を対象としている。

こうした取り組みの結果、エミュレータソフトのダウンロード数は前年度に比べ3倍にまで上昇。オンライン授業でエミュレータソフトの利用が進んでいる。フィリピンにおけるGAKUHAN活動の手応えについて、ご自身もフィリピン出身のラッキ氏はこう語った。

「フィリピンはPISAのスコアも低く、まだまだ改善しなければならない点もたくさんあります。だからこそ、GAKUHAN活動を通じて教育改善に貢献できることにやりがいを感じます。結果が出るまで時間はかかると思いますが、頑張っていきたいですね」

すでに関数電卓を取り入れ、PISAでも上位の成績を上げているシンガポールとその教育をASEAN諸国も注目している。その知見を生かしたGAKUHAN活動は、ASEAN諸国はもちろん、中南米やアフリカでも生かされていくはず。新興国で起こる数学教育の変化のうねりは、今後さらに大きなムーブメントになるだろう。

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