海外では関数電卓を使った授業が主流に

日本では理数系の大学生が使うものというイメージが強い関数電卓。しかし、世界各国では毎年、2300万人もの中学生・高校生がカシオの関数電卓を購入しているのをご存じだろうか。学校教育で関数電卓を取り入れている国は100カ国にのぼる。米国や欧州、オーストラリアなどの中学・高校ではほとんどの生徒が関数電卓を使っているほどだ。

ちなみに、関数電卓とはさまざまな関数が組み込まれており、複雑な計算を行える電卓のこと。その関数電卓が、なぜこれほど世界中の学校で使われているのか。背景にあるのが、世界の数学教育の変化だ。1つは、計算の作業や公式の暗記といった受け身の学びから、能動的な学びが重視されるようになったこと。複雑な計算をテクノロジーに任せれば、問題解決能力や考える力を養うことに集中することができる。もう1つの変化は、統計やプログラミングといった単元の強化。これらを学ぶうえでは、テクノロジーの力が不可欠なのだ。

関数電卓「ClassWiz fx-991EX」

こうした変化を受け、授業はもちろん、日本の大学共通テストに該当する卒業試験でも関数電卓が使用されている。欧米で30年以上前から始まったこの流れは近年、ASEANや南米、アフリカ諸国にも広がっている。

世界的に学校教育で関数電卓の使用が主流となる中、販売台数で世界トップを誇るのがカシオだ(同社調べ)。実は30年以上前から学校教育のサポートで「GAKUHAN」と呼ばれる活動を行ってきた。その内容と目指すところを、事業戦略本部 教育BU事業部長 太田伸司氏はこう説明する。

「関数電卓は、使い方がわからないと、せっかく購入していただいても活用できません。そこで、学校で使用が認められている国の先生を対象に、関数電卓のトレーニングや授業で使う教材を提供しています」

世界中の教員と生徒の声を開発に生かす

カシオ計算機
事業戦略本部 教育BU 事業部長
太田伸司氏

トレーニングや教材の提供とともに求められるのが、現場のニーズの把握とこまやかな対応だ。

「教育要綱やカリキュラム、表示の仕方などは国によって違いがありますし、アメリカやドイツなどは州ごとにも異なります。こうした地域ごとのニーズや現場の声を積極的に取り入れるため、毎年8月に各国の先生を招いた『グローバル・ティーチャーズ・ミーティング』を行ってきました。さらに、近年はより細かなニーズを探るため、地域ごとのミーティングも行っています(いずれも2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため休止)。こうした活動を通じて強く感じたのは、日本と海外で授業の進め方が異なるということ。海外の先生は生徒に関数電卓を使ったトライ・アンド・エラーを経験させたり、生徒自身に考えさせようとする傾向が強くなっていますね」

過去のグローバル・ティーチャーズ・ミーティングの様子

こうしたネットワークから得た情報に加えて、開発担当者が積極的に各国の教育現場に足を運んで得た知見も十分に生かされている。

「私も開発畑の出身なのですが、開発者が直接各国の学校に足を運ぶことで得るものは非常に大きいですね。例えば冬場にヨーロッパの学校に行った際、14時でもう教室が真っ暗で、表示が見えにくいことに気づきました。そうした細かい気づきが製品開発に役立つのです。何よりうれしいのは、生徒さんと交流できること。開発者が学校を訪れるのは珍しいようで、いろいろな質問をしてくれるんです。この仕事をしていていちばん楽しい瞬間ですね」

PISA2位のシンガポールで90%のシェア

使い方や教育コンテンツを提供しながら現場の声に耳を傾け、新たな製品として還元する。こうした循環を作り上げることで、世界の数学教育に貢献してきたカシオ。その関数電卓には、ほかにはない大きな強みが3つある。

1つ目は、電池が長持ちすること。2つ目は動作が素早く正確であること。3つ目は各国の教育要項に合わせた少量多品種に対応できる構造であること。

「弊社の関数電卓は明るさが十分でない学校の教室でも、太陽電池で十分に動作します。関数電卓は、試験でも使用していただくものなので、生徒さんにとっては電池が長持ちし、かつ素早く動くことはとても重要なこと。この要求を満たした上で、少量多品種に対応できる秘訣は、太陽電池で読み出せる日本のフラッシュメモリを使っていること。このフラッシュメモリは後から書き換えられるため、国や地域ごとの細かいニーズに対応できるのです。寿司店で注文表に自分が食べたいネタにチェックを入れるように、その国や地域で求められる機能にチェックを入れて関数電卓をカスタマイズし、出荷できるのです」

グラフ関数電卓「fx-CG50」

類似製品が次々と現れる中でも、GAKUHAN活動を通じた製品への信頼度の高さから、教員と生徒の双方から強い支持を得るカシオの関数電卓。そのため、カシオ製品を1人2台所有する国もある。例えば米国では、中学入学時に安価な関数電卓を購入するが、高校入学時にグラフも表示できる1ランク上の関数電卓を購入する生徒も多い。

また、シンガポールでは、学校用と自宅用に購入する生徒や、「万が一、落としても試験で困らないように」と2台購入する生徒もいるという。

シンガポールでは2008年に小学5年生から学校で関数電卓が使用できるようになった。シンガポールの学校で使う関数電卓には、数式を教科書通りに表示する機能が求められる。そこで、カシオではいち早くそのニーズに合わせた専用機をリリース。その性能の高さが評価され、近年は90%のシェアを維持し続けている。(同社調べ)

ちなみにOECDが3年ごとに実施する国際学力到達度調査(PISA)の数学では、関数電卓の使用を前提とした問題が出題されるようになっている。そして、PISAの数学で2009年から2位以上をキープしているのがシンガポールだ。関数電卓は今や、数学教育先進国では必須アイテムだといえるだろう。

コロナ禍で注目されたオンライン対応

カシオ計算機
事業戦略本部 教育BU 関数戦略部 学販営業企画室 室長
唐牛孝輔氏

欧米では早くから導入されてきた関数電卓。欧米でのGAKUHAN活動について、カシオの教育BU 関数戦略部 学販営業企画室 室長の唐牛孝輔氏はこう話す。

「欧米などでは先生や生徒さんが関数電卓を使いこなせるようになっています。こうした中、イギリスでは2017年に高校のカリキュラムが変更になりました。ほかのヨーロッパ諸国でも数年に一度はカリキュラムの変更があることが多く、変更に伴うニーズをいち早くつかんで対応しています。また、最近では、関数電卓の活用事例やオンライン動画を配信しているほか、エミュレータを導入するためのサポートも行っています」

エミュレータとは、関数電卓の機能をパソコンなどのデバイス上で使うためのソフトのこと。これまでも、プロジェクターや電子黒板を活用した授業で教員が関数電卓の操作法や計算の過程などを見せながら教える際は、生徒に見えやすいよう、エミュレータを使用するケースが多かった。コロナ禍によって学校教育のあり方そのものが変化しており、エミュレータにも注目が集まっている。

コロナ禍以前から、教育の現場でカシオの「エミュレータ」(画像左)は活用されてきた

前出の太田氏が言う。

「コロナ禍で世界の学校教育は『対面授業の続行』『オンデマンドなど一方的な配信授業』『双方向のオンライン授業』『休校』のいずれかに分かれました。日本やアジアは状況に応じて対面授業が復活していますが、アメリカなどはアフターコロナも双方向のオンライン授業が続く可能性があります。今後はハード製品だけでなく、その国の状況に応じてオンライン製品の提供も増やしていく必要があるでしょう」

30年以上にわたるGAKUHAN活動を通して世界中の教員と信頼関係を築き、関数電卓の浸透と世界中の数学教育に大きく貢献してきたカシオ。教育のデジタル化がますます加速する中、カシオの教育事業が担う役割は今後さらに大きくなることだろう。

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