BYODのマルチOS、マルチデバイスの意味

35年以上前から国際教育に力を入れてきた清教学園は、「英語の清教」とも言われている

清教学園はキリスト教主義を根底にした男女共学の私立中高一貫校だ。国公立大学や難関私立大学に現役で合格する学力だけでなく、部活動も高い実績を誇る「文武両道」の学校として知られる。「英語の清教」と呼ばれるグローバル教育に加え、充実した設備を活用したICT教育にも定評がある。

注目すべきニュースもある。同学園では2021年の新入生(中学1年生)から、BYOD(私物端末の使用)の形で、1人1台のPCなどの持ち込み環境を実施するというのだ。同学園法人事務局 ICTコーディネータの高橋安史氏はその経緯を次のように話す。

「これまでは高等学校のみでBYODによる1人1台の運用を行ってきましたが、昨年の一斉休校を機に生徒が1人1台持っていることのメリットが再認識され、急遽、中学への展開が決まりました」

学校法人清教学園
法人事務局
ICTコーディネータ
高橋 安史

同学園が、ICT環境の整備や授業におけるICT活用に取り組み始めたのは00年ごろのこと。当初は教職員向けに情報端末を貸与することから始まり、14年には全館でWi-Fi環境の実現に至っている。また、情報科教室や校内のスタディーホールなどにはノートPCが常備され、生徒が授業や自習で端末を共有できるようになった。特筆すべきはその後のBYODによる1人1台環境の実施だ。

協働学習やプレゼンテーションの力を磨けるスペースとして、新設されたラーニングコモンズでは、Wi-Fi完備の先進的なICT空間のなか、貸出用のChromebook200台を常備している

「2017年度から高校生については私物の情報端末を持ち込んで授業に活用するようにしました」(高橋氏)

その端末の種類や仕様の条件も幅広い。端末はノートパソコン、タブレットいずれでもよく(スマートフォンを除く)、OSもWindows、macOS、iOS、ChromeOSのマルチ対応だ。CPUやメモリ、内蔵ストレージについても推奨条件はあるが、指定されているわけではない。

端末の種類や仕様は同じほうが管理しやすいことは間違いない。そうしない理由として高橋氏は「生徒がどのような使い方をしたいかによって端末の選び方も変わります。自分の発想で自由に使いこなしてほしいと考えています」と話す。

中3は探究学習で約1万字の論文

マルチOS、マルチデバイスという状況下では、種類もスペックも異なるさまざまな端末を持っている生徒が一同に授業を受けることになる。そこでの苦労はないのだろうか。同学園の情報科教諭ICT教育部部長の勝田浩次氏は次のように紹介する。

「もちろん、WindowsとMacではショートカットキーの使い方ひとつをとっても、違いがあります。そのため、教える側からすると、教える際にマニュアルを何通りも作らないといけないなどの苦労があるかもしれません。しかしそれよりも、生徒たちが多様な端末に触れる機会を提供したいという思いの方が強いです。ショートカットキー のような違いも含めて、生徒が、自分にとっては何が使いやすい端末なのかを考えることも学習の1つだと考えています。生徒同士で操作方法を教えあう光景もよく見られます。生徒たちは自分たちでどんどん学んでいきます。例えば、アンケート作成サービスの使い方をある生徒に教えると、どんどんそれが広まり、最終的には学園祭の出し物のアンケートを自分たちでフォームを使ってとるといったことまで発展していきました」

学校法人清教学園
情報科教諭
ICT教育部 部長
勝田 浩次

生徒たちの学習能力は大人が考えているよりずっと高い。PCに触れるというだけでなく、PCをノートや筆記用具のように使えるようになってもらうためにも、生徒たちの自主性を確保している。

見学者が全国から訪れるという清教学園の総合図書館「清教リブラリア」では、知的好奇心を広げる新鮮な蔵書が67,000冊も取り揃えられている

ほかにも、生徒たちの興味や関心により自ら学びたくなる環境が、清教学園にはそろっている。6万冊以上の蔵書数を誇る図書館には3名の司書が常勤し読書を楽しむ生徒や探究学習に打ち込む生徒のきめ細かなサポートを行っている。探究学習では1人ひとりがテーマを設定し、文献の収集や取材などまでを行い、中学3年生にもなると約1万字の論文を作成するという。ここでもPC操作スキルを習得させるとともに、クラウドへの保存なども当たり前のように利用している。

コロナ禍におけるオンライン学習も効果的に実施

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響により全国的な休校もあった。清教学園も緊急事態宣言発出から6月中旬まで休校を強いられている。だが、勝田氏は「奇しくも、これまで培ってきた取り組みが生きることになりました。受験を控えた高校3年生も含め、保護者や生徒にも評価してもらえる学習機会が提供できました」と振り返る。

では、その成功の要因はどこにあったのか。

「単に、通常の授業をオンラインに置き換えるだけでなく、新たなオンライン『学習』の仕組みを、教職員、生徒と一緒になってつくろうと考えました」(勝田氏)

校内全館でWi-Fiがつながり、タブレット端末だけでなくコンピュータも重視するという考えから、MacBook AirとMacBook Proもそれぞれ50台ずつ配備

オンライン学習の目的として、「学習機会の保障」、「生活習慣を整えること」、「不安の軽減」の3つを掲げたという。注目すべきは、オンライン学習でありながら、生徒は毎朝、オンラインで開かれるホームルームに参加してから学習を開始するようにしたことだ。オンラインならではのコミュニケーションを体験するとともに、生徒たちの不安の解消にもつながったようだ。

むろん、教員の間でも、ICTのリテラシーが高い人とそうでない人の差がある。それぞれの習熟度に応じたサポートや、取り組みを固定化させるのではなく、自由度を持たせることを心がけたという。

「オンライン学習のスタイルは教員に任せ柔軟にしました。私の友人の受け売りですが、『全員がいつもよりちょっとだけ優しく』をキーワードにして、教員同士で教え合ったり、疑問点や意見を交換できたりする場を設けました。ICT活用が得意な教員のうち、ほかの教員に先駆けてオンラインでお試し授業を行い、ほかの教員が見学できるようにしてくださった方もいました」(勝田氏)

これらの取り組みの結果、通常登校再開後も、オンラインのコンテンツを活用した授業を継続する教員や、ミーティングをオンラインで行う教員が増えてきたという。

教室では、放課後も生徒が自由にPCが利用できる環境が整っている

「最初に先生方にPCなどを配布した時『退職するまでこの箱は開けない』と宣言された方もおられました。その方も、今では日常的に使っておられます。私はそれで良いと考えます。いつ、どこで、どんな道具を使うかは、その人が決めることです。そこに『使わねば』という本質に反する意図を持ち込むから、本来的でない状況が発生するのだと思います」(高橋氏)

「先進的なICT教育」を掲げる清教学園だが、すべての生徒・教員が肯定的に取り組んでいるわけではないとのこと。しかし、そのような様々な意見と地道に折り合いをつけてきたからこそ、これまでのICT教育環境の整備が進んできたに違いない。

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