授業で動画を活用するメリットとデメリット

デジタルハリウッド大学大学院 専任助教 石川大樹
(写真:吉濱篤志)

ICT教育の一環として注目されるオンライン授業だが、コロナ禍で初めて実施したという学校は多かったことだろう。皆さんは一度体験してみて、そのメリット、デメリットについて、どう感じられただろうか。動画教材開発のスペシャリストであるデジタルハリウッド大学 助教の石川大樹氏は次のように指摘する。

「まず最大のメリットは、いつでもどこでも機材さえあれば、通常の授業を継続できることです。子どもたちにとっては、好きなときに好きなペースで学習できる、そして、わからない部分を繰り返し学習できる点は大きなメリットだといえます。一方、デメリットは、学習者の自己管理が必要になるので、対面授業より子どもたちへの負担が大きいこと。とくに小学校低学年の場合は、保護者のサポートが欠かせないでしょう。とはいえ、最近では話すだけで文字を入力できる機能もあるなど、低学年でも順応性は高くなっています」

授業で動画を活用する3つのメリット
1. いつでもどこでも機材さえあれば、通常の授業を継続できる
2. 好きなときに好きなペースで学習できる
3. わからない部分を繰り返し学習できる
※デメリットは学習者の自己管理が必要で、対面授業より子どもたちへの負担が大きいこと

 

他方、今回オンライン授業を体験したことで、改めて対面授業の大切さを感じた教員も多かったという。ただ、対面授業が始まったからといって、オンライン授業をやめてしまうのはもったいない。石川氏も、今後はポイントを絞って動画を活用するなど、対面とオンラインの授業を連携させることを提案する。

実際、動画の学習効果は対面授業にも引けを取らないという。

「教室で授業を受ける場合、板書をノートに写しているだけでは、なかなか理解が深まりません。一方、動画の場合は『耳で聞く』と『目で見る』をうまく融合させることが可能です。音声と同時に、ポイントで適切な画像を見せることで、2回聞くよりも1回動画を見たほうが覚えられるといった理解を深める効果が期待できます」

ほかにも、人がやっていることを見ると、自分もできたように感じるミラーニューロン効果が期待できたり、なかなか授業では恥ずかしくて発言できないような内向的な子どもは動画のほうが学びやすいという。

授業動画を作るときの8つのポイント

では、自分で授業動画を作りたいと思ったとき、どのように作成すればいいのだろうか。初心者でもできる方法について石川氏は次のようなヒントをくれる。

「まず初心者の方は、スマホで自分の授業を録画するところから始めてみてはいかがでしょうか。そのときは、なるべく授業のポイントを押さえて短くすること。通常の授業が45分でも、人間の集中力は15分周期といわれているので、動画向きに授業を構成し直して長くても15分程度にします。

さらに『自分で調べてみよう』など、カメラ目線で問いかける場面を設けること。そのときも“みんな”にではなく人気のあるYouTuberがやっているように“画面の目の前にいるあなた”に話しかけるようにする。演技が上手な先生ばかりではないと思いますが、これを押さえるだけでも、相応のクオリティーの動画ができるはずです」

そして何より重要なのが、授業の構成だ。全体の構成を台本にして、子どもたちを授業に引き込むための仕掛けを作らなければならない。教えるものを整理して絞らないと、動画では伝わらないという。そのうえで押さえるべき簡単なコツがある。

まず冒頭で、動画で話す内容を宣言する。さらに『今日のポイントは、この3つ』というように内容を3つくらいに絞って話すこと。そうして授業で教えるべきことをはっきりさせておけば、子どもたちは何が重要で何を聞けばいいのか、より意識的に動画を見ることができます。一度に話す時間も5分程度にし、子どもたちに調べさせたり、話し合わせたりする時間を多くすることも大切です。いわば、先生はファシリテーター役に徹し、子どもたちに考えさせる時間をメインにする。先生は教えるのではなく、授業をコーディネートする側に回ったほうが子どもたちの集中力は高まります。あくまでも動画は子どもたちの気づきを喚起させる場だと考えるべきなのです」

またパワーポイントを使う場合には注意が必要という。話す内容をすべてパワーポイントに入れる人が多いようで、あまり多くの内容をパワーポイントに盛り込まずに、視覚で見せて聞かせる動画ならではのメリットを生かす意識を持つといいそうだ。

話すときも、ゆっくり話すことが肝心です。例えば、ラジオは耳で聞いているだけで、内容をきちんと理解することができます。それは“間”と“話すスピード”に秘密がある。そのテクニックを盗むためにも、ラジオのDJの話し方を参考にしてみてはどうでしょうか。普段話すスピードの7~8割程度で話してみる。そして、少し間を空けて、強調すべきところは繰り返し話す。そのために話すポイントを絞る。そうすればこれまでと違った授業ができると思います」

動画の作り方と活用 8つのポイント
1. 授業のポイントを押さえて15分程度にまとめる
2. 動画の冒頭で話す内容を宣言する
3. 内容は3つくらいに絞って話す
4. 一度に話す時間は5分程度、ゆっくり話す、間をつくる
5. カメラ目線で問いかける場面を設ける
6. 先生はファシリテーター役で、子どもたちに考えさせる時間をメインにする
7. パワーポイントを使うときは多くの内容を盛り込まない
8. 単一指向性マイクと、リングライトを使うと質がグッと上がる

 

子どもたちに動画を撮らせてみることも、1つの方法だ。対面授業の事前知識として使ってもいいし、その動画を授業で使えば“自分事”として子どもたちはより積極的になれる。あるいは「秀吉は、この後どうなったのか」というように、あえて教えないのもテクニックで、次の授業に対する期待感を高めたり、記憶に残す効果があるという。

ここでは、石川氏提供の「悪い動画の例」と「いい動画の例」も紹介しよう。見比べればハッキリとわかるが、基本的なポイントをおさえるだけで、内容は見違えたものになる。

では、動画は何で作るのか。石川氏は「決して重装備は必要ない」と話す。お薦めするのは、教育関係者の間でも利用している人が多いという無料動画ソフトの「OBS Studio」だ。あとは、ちょっとした機材もポイントになる。ノートPCにつなげられるUSBの単一指向性の「コンデンサーマイク」を使えば、ノイズをカットしてくれて音がクリアに。“顔出し”のときは、PCにクリップで留められる「リングライト」をライティングに使うだけでグッと画質が上がるという。

いずれも簡単に、かつ低価格で入手できるというから、一度試してみたいところだ。だからこそ、まずは初歩的なところから実際にやってみることが大事だと石川氏はアドバイスする。

「完璧でなくてもいいのです。今は完璧さよりもスピードが求められる時代です。そもそも授業に正解はありません。まず自分なりに作ってみる。重要なのは、自分ができそうなところからやってみることです。そうしてノウハウを磨いていけば、それほど時間をかけることなくクオリティーの高い動画を作成することができるはずです」

デジタルハリウッド大学大学院 専任助教 石川大樹(いしかわ・ひろき)
大手キー局にて番組制作を担当。2004年デジタルハリウッド入社以来、数多くの新規事業に携わる。その経験を生かし、現在は同社まなびメディア事業部にて映像教材や教育メディアの開発、映像教材の教育効果と若年層へのプログラミング教育手法を研究しながら、デジタルハリウッド大学ならびに大学院で講義も行っている
(写真:吉濱篤志)

(注記のない写真はiStock)