調査でわかった学生のオンライン講義の評価

対面講義を希望する学生よりも、オンライン講義を希望する学生のほうが多い──。

こんな調査結果が発表されたのは、今年の10月のこと。東洋大学現代社会総合研究所 ICT教育研究プロジェクトが行った「コロナ禍対応のオンライン講義に関する学生意識調査」の結果である。

東洋大学経済学部の松原聡教授を中心に行われたこの調査。その目的は2つある。1つはオンライン講義に対する学生の評価を分析すること。もう1つは、コロナ禍の対応として始まったオンライン講義の経験が今後どう生かされるかを探るというものだ。

この調査に協力したのは、全国の中堅大学15大学の文系学生1426人。対面講義とオンライン講義の比較ができるよう、対面講義の経験のない1年生を除外して2〜4年生を対象にアンケートを行った。

注目したいのは、「この講義をもう一度、受講経験がなくはじめから受けるとすると、今のようなオンライン講義と対面型講義のどちらがいいですか?」という質問だ。その回答では、「強くオンラインを希望」16%と「ややオンラインを希望」24%を合わせたオンライン希望者は40%となり、「強く対面型を希望」16%と「やや対面型を希望」17%を合わせた対面型希望者の33%より多かったのだ。

また、「オンライン講義の中で、従来の対面型講義と比較して、学習効果が上がったと思う講義はどのくらいありましたか?」という問いでも、オンライン講義に軍配が上がった。「多くある」10%と「やや多くある」28%を合わせた「多くある派」は38%で、「やや少ない」13%と「少ない」10%、「ほとんどない」12%を合わせた「少ない派」の35%を上回ったのだ。この調査では、教員向けにもアンケートを行っているが、オンラインを希望が50%、対面を希望が25%と、オンラインが対面を大きく上回った。

オンラインによって減る負担と、増える負担

では、学生たちはオンライン講義のどんな点に魅力を感じているのだろうか。オンライン講義のよい点として最も多かったのが「通学時間がかからない」82%というもの。オンラインによって通学時間の負担減となったといえる。

2番目に多かったのが「自分のペースで学習できる」68%という点だ。大人数の対面型講義の場合、一人ひとりの理解度を確認するのは難しい。そのため、理解できていない学生がいても講義は進んでいく。一方、録画動画を視聴するタイプのオンライン講義なら、わからなくなったところまで戻って動画を確認したり、わかるまで繰り返し見ることができる。

上記の2つの回答に続くのが「自宅で学習できる」66%、「教室移動がない」61%だ。ほかにも「私語がない」34%、「復習が何度もできる」34%などがよい点として挙げられている。こうしたオンライン講義のよい点として挙げられたものは、対面型講義への課題にもつながると調査チームは見ている。

とはいえ、オンライン講義にも課題はある。教員とのコミュニケーションについて、57%の学生が「減った」と回答しており、オンライン講義でいかに学生とのコミュニケーションを取るかという課題が明確になった。

また、オンラインが劣る点として、アンケートでは「自宅だとほかの誘惑に負けそうで授業に集中できない」43%、「(ネットワークやデバイスの不具合等で)音声や動画が途切れて聞き逃すことがある」39%、「ほかの受講生とのディスカッションや交流が少ない」34%なども挙がった。

オンライン講義の形式は「オンデマンド方式で動画中心」「リアルタイム動画配信」「オンデマンド方式で文書による課題提示と提出」の3つに大別される。中でも、「オンデマンド方式で文書による課題提示と提出」では、ほかに比べて学生にとって過大だと感じられる課題が出されていた可能性も指摘されている。

さらに、スマホやタブレット使用者に比べて、パソコン利用者のほうが予習や復習に時間をかけていることがわかっている。学生のICT環境によって学習時間に格差が生まれているといえるだろう。

それぞれの強みを生かしたハイブリッド型の模索も

オンライン講義への希望や評価は高いものの、学生が対面型講義を希望している科目もある。演習科目では学生の45%が対面型を希望しており、オンラインの29%を上回っている。これは、教員やほかの受講者との密接なコミュニケーションを取りたいという希望があると調査チームは見ている。

大学生活には、サークル活動や学友との交流など、講義以外の活動の意義も大きい。オンライン講義が続いたことで、ほかの学生の学習の進み具合や就職活動の進み具合がわからず、不安を抱えている学生もいることがわかっている。加えて、教員も不慣れだったために対面講義ほど理解が進まなかったという学生や、学費に対する指摘も上がっている。

萩生田光一文部科学大臣は、7月21日に行われた定例記者会見で「遠隔授業を継続する場合においても、効果的な対面授業との併用等を検討していただきたいと考えております」と発言。「後期も全面オンラインで」と決めてしまうのではなく、状況に応じた柔軟な対応を各大学に求めた。

9月15日、文部科学省が発表した「大学等における後期等の授業の実施方針等に関する調査」に大学の授業実施方針について取り扱った項目がある。7月1日時点の講義の形式は「遠隔と対面の併用」が60.1%、「全面遠隔」が23.8%、「全面対面」が16.2%だったのが、後期授業の方針については、80.1%が遠隔と対面の併用を予定しており、全面対面が19.3%、その他が0.6%と、ほぼすべての大学が対面を予定していることがわかった。

萩生田文科大臣は10月16日、「この調査において、対面授業の実施割合が全体の半分未満となる予定と回答した大学等(約380校)を対象に、大学等の名前を含めて結果を公表することを前提として、後期における実際の授業形態や、授業形態について学生が理解・納得しているのかなどを調査をし、現状を把握したいと考えております」と述べている。

文科省も、大学生の学びの機会をしっかりと確保しようと乗り出す中、各大学はどのような選択を行うのか。コロナ禍によって突然始まったオンライン講義によって、オンライン講義と対面型講義のそれぞれのメリット・デメリットも明らかになった。この知見を生かし、オンラインと対面型それぞれの強みを生かしたハイブリッド型など、新たな大学の姿を模索していく必要があるだろう。

(写真:iStock)