今年はオンラインで開催される異例の大会に

今年で61回目の開催となる「国際数学オリンピック」は、当初7月8日から19日までロシアのサンクトペテルブルグで開催される予定だった。だが、新型コロナウイルスの世界的な流行により延期となり、今年は9月19日から28日にオンラインで開催される異例の大会となった。

この「国際数学オリンピック」に出ることができるのは、国内でたったの6名だ。毎年1月から始まる「日本数学オリンピック」を勝ち抜き、日本代表にならなければ出場はかなわない。こちらの対象は高校生以下のため、毎年多くの高校生、中学生、そして少数ではあるが小学生も参加する。

今年の挑戦者は4767名。同時に開催される「日本ジュニア数学オリンピック」(対象は中学生以下)挑戦者の2773名の上位5名と併せて日本代表候補の6名を選ぶから、確率にしてわずか0.08%の狭き門である。

2020年の「国際数学オリンピック」日本代表に選ばれた6人(提供:数学オリンピック財団)

残念ながら日本代表に選ばれなかったとしても、「日本数学オリンピック」で上位50%に入れば、特別選抜入学試験制度等の特典が受けられる。東京大学や京都大学、大阪大学、東京工業大学など、国内有数の大学のAO・推薦入試で大会の成績が活用できるというから、そのレベルの高さがわかるだろう。

例年、「国際数学オリンピック」に出場する代表選手の顔ぶれを見てみると、開成や灘、洛南といった日本トップレベルの進学校出身者が多いことに気づく。

「学校全体で力を入れているところが多く、進学校となると学年全体で挑戦する学校も珍しくありません。経験がないと個人で上位に入ることは難しく、数学クラブがある学校は、先輩から後輩にノウハウを教えているようです」と話すのは、「日本数学オリンピック」を主催し、「国際数学オリンピック」に選手を派遣する公益財団法人数学オリンピック財団の宮下義弘氏だ。

日本の順位は105カ国中18位だが…

では、いったいどんな問題が出るのか。「国際数学オリンピック」の出題分野は、整数・代数、幾何、組み合わせ、離散数学だ。世界中の参加国から問題を集めて、最終的には開催国が出題する問題を決めるという。出題傾向は、4つの分野の組み合わせが多く、どれも「どこから手をつけていいのかわからない」(宮下氏)といった発想力や解き方の切り口を求められる超難問ばかりという。

問題数は3問、制限時間は4時間半。2日間にわたり合計6問を解いて結果を競う大会だ。今年の日本の順位は105カ国中18位。5つの銀メダルと、1つの銅メダルを獲得した(大会全体の受賞者数は金メダル49名、銀メダル112名、銅メダル155名、優秀賞173名)。

全体の結果は、以下のとおりだ。1位中国・ロシア、3位米国、4位韓国、5位タイ、6位イタリア・ポーランド、8位オーストラリア、9位英国、10位ブラジル、11位ウクライナ、12位カナダ、13位ハンガリー、14位フランス、15位ルーマニア、16位シンガポール、17位ベトナム、18位ジョージア・イラン・日本……だった。

日本は1990年の中国大会から参加をしていて、2009年の2位が最高位だが、いずれの年も22位以内の好成績を残している。ここ数年とくに強さを見せているのが中国、韓国、米国だ。

「日本は毎年、全国で予選をやって代表選手を選んでいるのに対し、中国や韓国は国を挙げて人材を育てていて、小さい頃から国家でエリートを養成し、代表を選んでいます。また米国も国として力を入れています。

日本でも代表選手が決まった後に強化合宿で指導は行いますが、そうした国に比較すれば不利と言わざるをえません。そこで日本では、6人全員の力をいかにそろえられるのかがポイントになるのですが、例年の順位にばらつきが出てしまうのが現状といえます。ですが『国際数学オリンピック』が国の教育力を社会、対外的にアピールする国際競争の場となる中で、18位というのは十分に健闘した結果といえるのではないでしょうか」(宮下氏)

大会直前には合宿が行われた(提供:数学オリンピック財団)

数学オリンピックは、下位層の底上げではなく、上位層をより多く、より高くすることを主たる目的にしている。イノベーション重視の社会的要請を受けて、その担い手となる上位層を育てようというわけだ。具体的には、数学に関して優れた才能を持つ若者を見いだし、その才能を伸ばすことを目指しているという。実際、「東大や京大に進学し、研究者となり大学教授として活躍する方も出てきている」と宮下氏は話す。

「国際数学オリンピック」は、数学や科学に興味を持つ若者の間の交流を盛んにすることも目的としている。例年の大会では、世界中の子どもたちが、互いに数学の難問を出し合う姿が恒例の光景だという。23年の「国際数学オリンピック」の開催国は日本だ。コロナが収束して、そうした子どもたちの姿をまた見られるようになることを祈るばかりである。

(注記のない写真はiStock)