【前編】台湾の超天才「唐鳳」が語るデジタル教育の本懐 より抜粋

――新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の感染拡大に対し、台湾の取り組みが世界で高く評価されています。教育現場においては、日本では休校措置がとられ、入学式など通常の予定を進められないうえに、休校中の授業をどう進めればいいのかといった混乱も生じました。台湾では学校教育など、どのように進められましたか。

唐鳳:総合的には、新型コロナによる影響を受けた程度は、他国よりも小さかったと思います。ビデオ関連のテクノロジーが発達したので、不鮮明な画質や、途中で音声が途切れるといった5年前や10年前にはよく悩まされた問題もなくなりました。パソコンを開いて接続すれば、お互いがはっきりと見えることは、もはや普通ですからね。

――デジタル技術やオンラインを活用して教育を支援するということは、日本でもつねに言われていることです。ところが、実際の現場では、どのように導入して、どのように活用すればよいのかという点で、先生たちも子どもたちも試行錯誤をしています。教育現場のデジタル化のために、その具体的な方法や方向性をどう考えていけばよいでしょうか。

唐鳳:「デジタル化」ということが指す内容は、実にさまざまなものがあります。例えば、ビデオチャットや2つの教室を合併させる「ダブルルーム」、1人の先生が担任する教室にいて、専門課程の先生がほかの教室やスタジオといった離れた場所にいて授業を行う「ダブルティーチャー」といったやり方は、いずれも空間という制約を取り除くために行われるものです。別の空間にいても、同じ時間を共有していますね。

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【後編】
台湾デジタル大臣「唐鳳」を育てた教えと環境
 より抜粋

――前回は、唐鳳さんが考えるデジタル教育の本懐についてお聞きしました。ここからは唐鳳さんの個人的なことについてお聞きします。唐鳳さんは幼い時から読書家だったと聞きました。座右の書、影響を受けた本というのはありますか。

唐鳳:最も影響を受けた本があるにはあるのですが、とても推奨しにくいですね。合計16万項目ある『再編国語辞典』なんですよ。辞典の良いところは、自分が直接的な体験をしていなくても語意を理解できるという点です。

以前、私は仲間と一緒に『萌典』(https://www.moedict.tw/)という辞典を作りました。これは台湾の文部科学省に当たる教育部が、日本語の「萌え」と「萌える」(芽生える)という意味を兼ねて作ったものです。ここでは、紙の辞書のように時間をかけて調べるのではなく、さまざまな機能を設計し、提供することで中国語(華語)や台湾語、客家語、さらには台湾の原住民(注1)の言葉などをすべて同じインターフェースに収めて調べることができます。

つまり1つの言葉を学ぶときに、多くの異なる言葉を同時に学べるようにしたわけです。そうすることで、自分たちの言語、文化のみで考えるというこれまでの考え方を崩し、言語、文化の枠を超えた学習環境を実現しました。これはとても大事なことです。

誰もが多くの文化に精通することは不可能ですが、自分の身の回り、例えば台湾においても、これほどまでに多様な文化が存在していることを、まず『萌典』で知り、その事実に慣れていけば、おのずと心を広く持ち続けることができるのではないでしょうか。

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