教育現場での活用も期待できそうだ

カルチュラル・ジャパンの機能は、ユーザーの探究心を刺激するはずだ。例えば、「織田信長」で検索をすると、関連する古書や古文書、版画、絵画などが表示され、作成された時代区分や場所、収蔵機関などで絞り込むことが可能。本能寺の変を描いた絵画を掲出すれば、類似する画像や似たようなタイトルのアイテムも一覧で把握することができる。1つの検索結果から、さらに条件を変えながら絞り込み、あるいは広げていくことで、思いがけないアイテムにたどり着くことがあるかもしれない。

事実、発見もあった。「江戸幕府が作成を命じた天保国絵図の近江国について、国立公文書館所蔵の正式版とは別に、おそらく前年に作成された下図と思われる地図をスタンフォード大学図書館が所蔵していたのです。2つの地図を並べて比較してみると、記載内容の微妙な差異から新たな発見がありました」。こう語るのは、カルチュラル・ジャパンの立ち上げメンバーの1人、国立情報学研究所教授の高野明彦さん。「この下図が米国にあることも知られていませんでした。誰でもこうした発見が可能になるでしょう」と続ける。

海外の博物館や美術館までも対象とするカルチュラル・ジャパンならではの特徴が、ここにある。約100万件のうち約77万件は国内機関のアイテム。残り約4分の1は、大英博物館やメトロポリタン美術館、アムステルダム国立美術館のほか、EUにおける文化遺産のデジタルアーカイブ「ヨーロピアーナ」、米国デジタル公共図書館「DPLA」など世界各国のデータベースから日本や日本人に関連するアイテムの情報を集約している。

画像はカルチュラル・ジャパンのトップページ。ここが、探究への入り口となる

時代や空間を超え、同じテーマのアイテムを比較検討することで、より深い学びにつなげることができる。そうしたデジタルならではのメリットを享受するための工夫が、細部に施されている。

現在、世界中の博物館や美術館などで導入が進んでいる画像共有のための国際規格IIIF(International Image Interoperability Framework)に対応しているアイテムならば、各種の画像ビューアーで閲覧可能。自分の目的に合ったビューアーで、高精細画像の拡大表示で細部に迫ることができる。もちろん、1つひとつのアイテムに作者や所蔵機関、作成年代などの基本情報を付加し、著作権や使用条件を記したリンク先も表示している。

セルフミュージアム機能で自分だけのコレクションを

さらに、である。カルチュラル・ジャパンでは、お気に入りのアイテムを集めて、バーチャルな個人美術館をつくることができる。しかも、単に画像をリスト化して表示するのではなく、実際に美術館に行ったような感覚でアイテムを観覧できる、手の込んだ仕掛けがなされている。

テーマごとに複数の部屋をつくり、展示するアイテムの順序もユーザーが決める。セルフミュージアムと呼ばれるこの機能は、子どもでもすぐに使いこなすことができるのではないだろうか。セルフミュージアム機能は、国立情報学研究所特任准教授の阿辺川武さんがこのサイトのために新規開発した。

一方、国立国会図書館を中心に国内の美術館・博物館などのデジタルアーカイブと連携した検索サイト「ジャパンサーチ」も、今夏に正式版がリリースされた。実は、高野さんはジャパンサーチの開発にも深く関与している。「ジャパンサーチは、内閣府のデジタルアーカイブジャパンという政策に基づく国のプロジェクトです。一方、カルチュラル・ジャパンは、IIIFに精通した東京大学助教の中村覚さん、リンクトオープンデータの第一人者である神崎正英さんをはじめ、6名のプロフェッショナルが、手弁当で参加して自発的に開発したサイト。学術的に深い情報を集約するジャパンサーチと、画像検索に特化したカルチュラル・ジャパンの両サイトがあることで、ユーザー層も広がるでしょう」と高野さんは期待する。

「私たちは、自分が直面している目の前の状況ばかりを考えがちですが、時には、同じ場所の100年前を振り返ったり、50年後に想いをはせることも必要でしょう。長い年月引き継がれてきた文化に触れるのは楽しいことです」と語る高野さんは、「文化の記憶は、各時代の最新メディアを使って引き継がれてきたことを忘れてはなりません」と続ける。教育現場だけではなく、大人の知的好奇心にも応えてくれそうだ。(写真:iStock)