5Gによる遠隔教育の効果とは

Before CoronaとWith Corona。「令和2年版情報通信白書」では、今後、人の生命保護を前提にサイバー空間とリアル空間が完全に同期する社会へと不可逆的な進化を遂げる、と予測。ICTが果たす役割も、産業の効率化や高付加価値化を目指してきた感染症発生以前とはフェーズが異なると分析している。

新たな生活様式や多様な働き方が浸透する個人。データの最大活用とオンライン化を前提とした柔軟かつ強靭な企業。そして、デジタル基盤とデジタル技術の活用を前提とした分散型社会。個人、産業、社会、それぞれのレイヤーで大きな変化が起こり、新しい価値の創出につながっていく。そこでは、5Gをはじめとするデジタル基盤、IoT、ビッグデータ、AIといったデジタル技術の存在感が高まっていくことだろう。

振り返ると、日本の移動通信システムは1979年の1G導入以降、約10年おきに世代交代を繰り返し、機能が進化するとともに利用者数も拡大させてきた。今年3月からは5Gの商用サービスを開始。IoT時代の基盤として、さまざまな産業での実装が期待されている。

例えば山岳登山者の見守り実証試験。ドローンから撮影した4K映像を、山岳救助本部と救助隊員に5Gでリアルタイムに伝送することで迅速な現場の状況確認と登山者の状態把握を可能にする。また、高速道路で実施したトラック隊列走行の実証試験では、5Gの超低遅延性を活用した10m間隔の車間距離制御を実現。ほかにも、クレーン作業で運転台から死角になる場所を4Kで撮影した高精細映像を5Gで送信することによってオペレーターの安全な作業を支援するなど、さまざまに想定される事例を積み上げている。

もちろん、教育領域の事例も取り上げている。その1つが遠隔教育と教師支援。5Gの超高速、大容量かつ超低遅延の特徴を生かし、映像を活用した双方向かつリアルタイムでのインタラクションが実現すると紹介している。

拠点間の遠隔授業では、地域の制約を超えて専門性の高い指導者の授業を提供することが可能となり、教育機会の地域間格差の是正策として有効であると指摘。また、遠隔教育によって地域と都市部との交流促進も期待している。

一方、5Gの利用者である個人の期待はどうか。総務省(2020)「データ流通環境等に関する消費者の意識に関する調査研究」の中から教育関連項目を抜き出すと、「高解像度で低遅延な環境で映像を双方向でつなぐことにより、遠隔地からの講義や臨場感のある外国語学習をリアルタイムで受けられる機能」について、20代は55.5%が無料であれば利用したいと回答。有料でも利用したいと回答した割合も10%に達した。「通信教育や子どもの稽古事などの教材(映像を含む)を学校や学習塾などから送ってもらえる機能」について、20代、30代、40代いずれも、無料であれば利用したいと回答した割合が50%を超えている。この調査を実施したのは新型コロナウイルス感染症が拡大する前。いわばBefore Coronaでの意識を反映したものだ。With Coronaでは、異なる結果が出ているかもしれない。

超スマート社会の3つのキーワードとは

10年ごとの世代交代を当てはめると、次のタイミングは2030年が想定される。白書も2030年代には、サイバー空間とフィジカル空間の一体化が進展し、フィジカル空間で不測の事態が生じた場合でもサイバー空間を通じて国民生活や経済活動が円滑に維持される強靭で活力のある社会が実現すると展望している。

そうした社会をつくるキーワードとして、包摂性、持続可能性、高信頼性を列挙。そして、私たち一人ひとりが準備をする必要性を挙げている。まず、データの価値を理解し、活用できるよう整備を行うこと。次に、現状に満足しないよう「空気を変える」こと。3つ目が個としての能動的な生き方を選択することだ。

8月に刊行された『令和2年版文部科学白書』でも、GIGAスクール構想に紙幅を割いている。教育とEssential TechとしてのICTはますます切り離せない関係になっていくことだろう。ICTを活用しない企業戦略や新しいテクノロジーが考えられないように、これからの教育を考えるに当たっても、ICTの基本的な知識は必須の教養になっているのではないだろうか。(写真:iStock)