高校生のインターネット・リテラシーは高い水準で推移

総務省が、毎年1回、高校1年生を対象に実施しているインターネット・リテラシーテスト。2019年度も57校、7252名がテストを受けた。

「インターネット上の違法コンテンツ、有害コンテンツに適切に対処できる能力」「インターネット上で適切にコミュニケーションができる能力」「プライバシー保護や適切なセキュリティ対策ができる能力」を可視化するテストの正答率68.7%は、過去4年間の平均68.8%とほぼ同等だった。

「制度創設時に期待していた正答率70~75%に近く、高いレベルで推移していると評価できます」と赤堀氏。「シニア層と比較しても高いリテラシーを持っているのではないでしょうか」と続ける。利用状況を見ると、高校生の97.5%がインターネット接続機器としてスマートフォンを保有。最もよく利用する機器もスマートフォンが92.5%に達している。

「例えば、この4年の間にスマホの機能や高校生の使い方が劇的に変化したとは言えません。いわば、自動車と同じで基本的な機能が同じですから、求められるリテラシーもドラスティックに変化することはありません。そうした意味で、7割近い正答率で推移している結果もうなずけます」と赤堀氏は語る。

結果が変化した項目もあった。テストではインターネット・リテラシーの能力を下記のとおりに分類している。

1. インターネット上の違法コンテンツ、有害コンテンツに適切に対処できる能力
 a. 違法コンテンツの問題を理解し、適切に対処できる。【違法情報リスク】
 b. 有害コンテンツの問題を理解し、適切に対処できる。【有害情報リスク】
2. インターネット上で適切にコミュニケーションができる能力
 a. 情報を読み取り、適切にコミュニケーションができる。【不適切接触リスク】
 b. 電子商取引の問題を理解し、適切に対処できる。【不適正取引リスク】
 c. 利用料金や時間の浪費に配慮して利用できる。【不適切利用リスク】
3. プライバシー保護や適切なセキュリティ対策ができる能力
 a. プライバシ一保護を図り利用できる。【プライバシーリスク】
 b. 適切なセキュリティ対策を講じて利用できる。【セキュリティリスク】

この中で、4年前と比較すると「不適切利用リスク(過大消費、依存、歩きスマホ、マナー等)」「有害情報リスク(不適切投稿、炎上、閲覧制限等)」の正答率が相対的に下降している。が、赤堀氏は前向きに数字を捉えている。

「これら2つの項目は、いわば実質的な被害につながりにくいリスクともいえるでしょう。もちろん炎上を起こしてしまうと精神的なストレスがのしかかることはあるでしょうが、金銭的な被害に遭うわけではありません。マナーについても同じです。マナーを守ることは大事ですが、失敗経験を積むことでより賢い利用法が身に付いていくのではないでしょうか」

スマホを遠ざけ、禁止項目ばかりではリテラシーは向上しない。「高校1年生という常識的な知識を持つ年代が、その知恵を生かしていくためにも経験を積むことが重要です」と赤堀氏。これからのネット社会で生きていくためにも、小さな失敗やある意味で痛い目に遭うことでしかわからないことが役立つといえるだろう。

実際、「セキュリティリスク(ID・パスワード、ウイルス対策等)」の正答率は相対的に上昇している。「これらは、実質的な被害に直結するリスクのため、その危険性への認知度が高まっているのでしょう」と語る赤堀氏は「デジタルネイティブは、スマホやインターネットの酸いも甘いもわかっているのでは」と指摘する。

スマホを遊びの道具から文房具へ

しかし、である。「むしろ大きな課題は、こちらの数値にあります」と赤堀氏は懸念を示す。テストの全体正答率を、スマートフォンの平日1日当たりの利用時間別に分析すると、利用時間が長いほどおおむね正答率が低下する傾向にあることだ。どういうことか。

スマートフォンの平日1日当たりの平均利用時間は、2時間~3時間と答えた割合が25.1%と最も多かった。中でも約8割が1日当たり2時間以上利用していると回答。2018年度調査結果の約7割から増え、長時間利用の割合が増加した。休日のスマートフォン利用時間は6時間以上が29.7%と最も多く、しかも、前年度の19.2%から大きく増えている。1時間未満と1時間~2時間と回答した数値を合わせても約7%にしかならない。

一方、PISAの調査で明らかになったとおり、平日に学校外で学習のためにデジタル機器を利用している生徒の割合は、OECD平均を大きく下回る。例えば、コンピューターを使って宿題をすると回答した割合はわずかに3%。約22%というOECD平均に遠く及ばない。が、チャットやゲームの利用はOECD平均を上回っている。

「日本の高校生たちにとってのスマホは遊びやコミュニケーションの道具であり、学習の道具にはなっていません。自ら情報を探しに行き、集めた情報をまとめて発表する。スマホを学習の道具として使っていれば、長時間使用する人こそリテラシーも上がっていくのではないでしょうか。テスト結果の数値は小さな差かもしれませんが、ここに大きな課題があると言わざるをえません」と赤堀氏は語る。

加速するGIGAスクール構想をはじめ、ICTを教育で活用する機運が高まっている。「これからは、すでに設定されているゴールに向かうのではなく、主体的にアイデアを出し、正解のない領域を切り開いていかなくてはなりません。そのためにも教育への期待は大きい。子どもたちに、PCやタブレットを使ってわからないことを知り探究していく喜びや、それらを文房具となったコンピューターを使ってまとめ、プレゼンテーションする楽しさを体験してほしい。そこでは、教員が果たす役割も変わらなければなりません。これまでのように手取り足取り与えていた知識は、子どもたちが自らコンピューターで得るように仕向ける方へ変わっていくでしょう。子どもたちの自立を促し、子どもたちは与えられた課題を解くのではなく、自ら考えていく深い学びへの意識改革を期待しています」。

教育現場でコンピューターという新しい文房具を活用していくための環境づくりが急ピッチで進んでいる。インターネット・リテラシー調査の結果は、立ち止まっていては何も始まらないことを示唆しているようだ。