なかなか進まない日本の教育現場のICT推進。新型コロナウイルスの影響でオンライン授業の早期普及が重要視されているが、実際のところコロナ禍以前から学校のICT推進を目指した政府の取り組みが進められていた。文部科学省が推進する「GIGAスクール構想」である。これは、義務教育の児童生徒を中心に1人1台の端末と高速大容量の通信ネットワーク、クラウド環境を整備するというものだ。2019年12月5日に閣議決定され、19年度補正予算案では、2318億円(公立2173億円、私立119億円、国立26億円)を計上、23年度までに1人1台環境を目指すとした。ちなみに、高等学校は現在BYOD(Bring Your Own Device:個人所有のデバイスの活用)が進んでいるため、端末に対する補助は行われていない。

19年にスタートした構想だけに、残念ながら今回のパンデミック時には、学校側のインフラ整備は追いついていなかった。しかし、この構想が進んでゆけば、確実に多くの教育現場でICT環境は変わってくるはずだ。

インフラ整備の根幹を担う構想もコロナ禍でストップ

東洋経済新報社が独自に実施した全国600人の小・中・高の教員に向けたアンケート(5/29調査実施:小学校教員300、中高教員300)の回答を見ると、「GIGAスクール構想」はまだ教育現場でも十分に認知されているとは言いがたい。アンケートによると、全体の52.8%が構想の言葉自体を「知らない」と答えている。「意味はよく知らないが言葉は知っている」とする回答も25%ほどあり、構想の内容を理解したうえで認知しているのは約2割にとどまる。

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 また、「GIGAスクール構想」を「知っている」「意味はよく知らないが言葉は知っている」と回答した教員に、新型コロナ問題による GIGAスクール構想の進捗状況を聞くと、全体の約50%が新型コロナの影響でその進捗が「止まっている」と回答。24.7%が新型コロナに関係なく進んでいると答え、新型コロナの影響でむしろその進捗が加速したと回答した教員は25.1%という結果になった。

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 さらに細かく進捗状況を聞いた設問では、約70%近くが「現状把握と課題の提出/情報収集」などの具体的な機器選定の前の段階にあり、「PCなどのICT機器の調達仕様の策定・検討」などの段階まで進んでいるのが23.7%、さらにすでに調達済みとなっているのが6.4%ほどだった。ただし、これを小学校と中・高の割合で見ていくと調達済みとなっているケースが中・高では多い特徴が見受けられた。

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小、中高で大きく差がつくITリテラシー

小学校と中・高の違いは、児童生徒のITスキルでも顕著に表れてくる。当然、小学校はスマホやPCなどを持っていないITスキルのない児童が多いし、中・高のほうがプログラミングを含めたITスキルを身に付けている生徒が増えてくる。今後、児童生徒のITスキルの有無は、本人や保護者への説明やデバイスの操作方法の解説、マニュアル作りといった学校側の業務にも直接影響してくるはずだ。

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現場教員にIT管理者としての負荷がかかる

アンケートでは現在の教育現場のITに関して、期待や不安、さらに今後期待できる教育現場のイメージを聞いたが、そこで寄せられたのは不安の声だ。

まず多かったのは、「機器やWi-FiなどのIT環境の整備の遅れ」だ。この点では、今回のパンデミックを受けて、文部科学省としても「GIGAスクール構想」の前倒しに取り組み、20年度の補正予算に総額2292憶円を追加計上した。学校側のPCやタブレットの1人1台対応を早期に実現することや、Wi-Fi環境が整っていない家庭に対し、モバイルルーターの貸与を自治体が支援するための予算も組んでいる。

前出の回答にもあるように、現状では現場の教員の約8割近くが「GIGAスクール構想」の内容をきちんと把握できていない。現場が理解できるような情報伝達が行われていない可能性も考えられる。これは企業のテレワークやデジタル推進でも課題になっているように、組織変革(チェンジマネジメント)の視点も必要ではないだろうか。

と同時に、「われわれは教育のプロではあるが、ITのプロではない」という回答が多く寄せられていることも見過ごせない。アンケートからは、学校によっては、現場の教員がセキュリティーやネットワーク管理に頭を悩ませ、機器設定やマニュアル作りまで担当しているケースも読み取れる。インフラの管理とまではいかなくとも、教科指導、生徒指導のうえに、配信用の動画編集に時間をかけなければいけないという訴えも多く、こうした状況は現場を疲弊させるだけだろう。各学校にIT専門職を求める声は理にかなったものだ。この点でも20年度の「GIGAスクール構想」補正予算の中には、ICT関連企業のOBや技術者を「GIGAスクールサポーター」として配置する支援予算が計上されている。こうした支援策をきちんと教育現場である学校側が理解し、上手に活用できる流れが生まれてほしい。

そのほか、現場からはネットワークインフラなどの施行状況による「地域格差」や、教員や生徒の「ITリテラシー格差」が生まれることを不安視するもの。また、自治体間でIT推進の差が生じるため、異動の際の適応の難しさなども懸念されている。

勝負はインフラが整った後の負荷軽減

ただし、「新型コロナの第2波に備えて、双方向で行えるオンライン授業導入を早期に行うべき」といった意見や、「現状PCで作成しながらも紙ベースで配布・保存しているものを電子化したい」といった業務の効率化に期待をする意見もある。

現在は、学校側と家庭側ともにデバイスやネットワークが整備されていないフラストレーション状況にある。まずは20年度中にインフラの整備が進められることを期待し、同時に現場の負荷軽減とIT専任者の配置などを視野に入れ、コロナ禍における一時的な対応だけでなく新たな時代の学び、そしてIT化により現場の負荷を少しでも軽減できる運用体制に舵を切ってもらいたいと思う。(写真:iStock)

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