現代人を縛る「あの人もう終わったね」の恐怖 固定観念を打ち破れば真の自由が手に入る

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資本主義社会を前提とする一元的な価値観によって自縄自縛になっている現代人は、どうすれば再び自分自身を取り戻し、真の意味での自由を手に入れることができるのか(写真:HIT1912 / PIXTA)

本書『結論は出さなくていい』を一言で言い表すなら、現代を支配する浅薄でしかも強固な固定観念を打ち破るための、知的誠実さによって貫かれた、「脱構築」の指南書である。

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ここで言う「脱構築」とは、著者曰く、「自らの拠って立つところを自覚し、その足場を相対化し続けること」であり、もう少し分かりやすく言えば、本書は、資本主義社会を前提とする一元的な価値観によって自縄自縛になっている我々現代人が、どうすれば再び自分自身を取り戻し、真の意味での自由を手に入れることができるのか、その答えを追い求めた一人の敏腕プロデューサーの人生の軌跡である。

本書の中で、著者は次のように語っている。

『僕はひとつの思想などと犬死はしない。だが、思想を変える自由を奪われることには死んでも抵抗する』。おそらくは哲学者ニーチェの言葉と記憶するが、言い得て妙だ。結論を出すという不自由さから逃れた時、人は自由になれるのだ。思考の運動に身を委ねていけるのだ。

我々を支配する一元的な価値観とは何か

それでは、我々を支配する一元的な価値観とは何か?その最たるものが、著者がプロデュースしたNHK番組『欲望の資本主義』で取り上げた成長神話である。同番組を書籍化したものについては、以前、HONZでも取り上げたので、詳しくはそちらを読んで頂きたい。

毎年億単位のお金を稼ぎ出す人たちですら、「成長しなければならない」という強迫観念から逃れるのは難しい。そして、この「やめられない」「止まらない」資本主義を根底で支えるのは、巷間言われるところの「人間の限りない欲望」なのだろうか。資本主義はこの欲望を原動力に、駆動し続けているのだろうか?

『欲望の資本主義』でナビゲーターを務めた大阪大学准教授の安田洋祐氏が、上位1パーセントの大富豪たちが果てしなく稼ぎ続ける理由について、彼らのインセンティブになっているのは、贅沢をしたいという「欲望」ではなく、ある種の「承認欲求」であり、つまりランキング社会だからこそ、開示される資産総額は自らの力の誇示になると言っている。

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