あの人が「際限のない残業」を強いられた理由

「幹部登用あり」の甘い言葉に騙されるな

似たような事例は飲食業界や小売店、不動産業界にも頻繁にみられる。「店長候補」「幹部候補」などといって、入社後すぐに管理職扱いにするのである。ほとんどの場合、この会社と同じように残業代は一切つかない。成果で評価される「年俸制」を謳っている場合もある。

もちろん将来幹部になれるからといって、残業代を払わずに長時間労働をさせることは違法である。しかし、本人の「幹部になりたい」あるいは「店長になりたい」といった向上心を巧みに利用して、過重な責任や業務を意図的に押し付ける会社は多い。

 

手口4:残業代の不払いを合法にする、「裁量労働制」を使ったせこい手口

さらに、最近増えているのが、「裁量労働制」や「管理監督者」といった実在する法制度を通じることで、こうした残業代の不払いを合法と「装って」行う企業である。いわば裁量労働や管理監督者といった法制度の「偽装」である。

裁量労働制とは?

裁量労働制とは、仕事上の裁量権が高い労働者に対し、一定時間働いたことと「みなす」制度である。いつ、どこで、何をするかを自分で勝手に決められるような裁量権が高い労働者の場合、会社が「何時から何時まで働いているのか」把握することが難しい。だから、「一定時間働いたこととみなす」のである。

何時に出勤しても基本的に自由で、いつでも帰ることができる。今日はどの仕事をやるのかも自由に決められるし、その仕事をどんな風にやり遂げるのかも上司の指示は一切なく、自分で考える。こんな働き方だ。

これが適用されると、会社は正確な残業代を支払わなくてよくなるのだが、本当は裁量がない社員に違法に適用していることが珍しくはない。

600人規模のIT企業に勤めるBさん。事務処理のためのシステムの構築などを行っているが、残業時間は平均して月60~70時間程度。繁忙期では100時間を超えることもあった。実際には労働時間に関する裁量権などないにもかかわらず、「裁量労働制」が導入されており、残業手当は一切無く、毎月定額の裁量労働手当が支払われるのみである。上司は、退職金と定期昇給の原資を確保するために、毎年新規の顧客獲得が必須だと言っている。その分を長時間労働で稼げ、ということだろう。裁量労働制ではない他部署では、もっと短時間で帰宅でき、不公平感を感じている。

繰り返しになるが、こうした裁量労働制の適用は「偽装」に過ぎず違法である。ここからは弁護士団が中心になって書いた『ドキュメント ブラック企業』(ブラック企業対策弁護団、今野晴貴、ちくま文庫)を参照しながら解説していきたい。

次ページ裁量労働制に定められている厳格な要件2つ
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