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アスエネ「135億円調達」とM&A戦略の勝算。BlackRock系ファンドが初めて選んだ日系脱炭素スタートアップ

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Founder 代表取締役CEO 西和田 浩平氏
  • アスエネ 制作:東洋経済ブランドスタジオ
2026年7月、クライメート(気候)テックスタートアップのアスエネが、シリーズDとして総額135億円の大型資金調達を発表した。米BlackRockとシンガポールのTemasekが共同設立した脱炭素ファンドが、日系スタートアップへの初出資を決めたとあって注目を集めている。19年の創業から急成長を遂げ、国内の大企業を中心に顧客基盤を築き、現在は海外M&Aを足がかりに世界市場に挑むアスエネ。企業価値1兆円を「通過点」と語るFounder 代表取締役CEOの西和田浩平氏に、その成長戦略について聞いた。

世界展開を加速する資金調達。BlackRockのブランドと信用力をテコに海外市場の攻略を狙う

企業に求められるサステナビリティー対応は、複雑性を増している。自社のCO2排出量を把握するだけでなく、取引先から1次データや製品単位のGHGデータを集めて開示に備え、経営の生産性を上げるためにもエネルギーコストの削減まで考えなければならない。取引先の数や扱うデータが増えるほど、管理の負担も大きくなる。

アスエネは、企業がサステナビリティー経営を進めるうえで必要となるデータ管理や業務を、テクノロジーで支援している。主力の「ASUENE」では、企業活動に伴うCO2排出量を算定・可視化し、エネルギーコストやCO2の削減、情報開示までを支援する。

さらに、取引先からCO2排出量や人権、労働系などのサステナビリティーデータを収集してサプライチェーン全体のエンゲージメントを強化するサービスや、非財務データの第三者保証、カーボンクレジットの取引などへ事業領域を広げてきた。

日本国内のみならず、アメリカやアジア、ヨーロッパへ事業を展開する中、次なる成長の布石として、2026年7月にシリーズDとして総額135億円の大型調達を発表した。主要投資家は、アメリカの資産運用大手BlackRockとシンガポールの投資会社Temasekが共同設立した脱炭素ファンド「Decarbonization Partners(以下、DP)」で、日本のスタートアップへ出資するのは今回が初となる。

西和田氏が大型調達の目的として掲げているのは、世界市場で成長するスピードを上げることだ。

「脱炭素やエネルギーのAI・ソフトウェア領域でグローバルNo.1を目指しています。そのために、非上場の段階からM&Aと海外展開を進めたいと考えました。今回の資金調達は、積極的な攻めの実行施策を加速させるためのものです」

もう1つ重視しているのが、グローバル事業を展開する際の信用力である。

「日本やアジアではアスエネの知名度も高まっており、すでに国内の超大手上場企業や金融機関、投資会社が株主や顧客として名を連ねています。一方、海外の大企業との取引や提携を広げる段階では、世界最大級の資産運用会社のBlackRockやTemasekが共同設立したファンドから投資を受けていることも、とくにグローバルでの信頼やプレゼンスを強化する材料になると考えました」(西和田氏)

交渉開始から出資完了までの約9カ月間は、デューデリジェンスへの対応に加え、AIの台頭を受けた市場環境の変化により投資条件の見直しもあった。それでも、競争戦略やM&Aの基準・規律などをめぐる協議を重ね、成長戦略への理解を得たことで、最終的な出資を実現させた。

さらに、世界市場で投資や企業成長を見てきた人材も取締役会に迎え入れた。26年8月に、DPでアジア投資を統括するSuetChee Chiong氏がアスエネの社外取締役に就任した。エネルギーやデータセンター産業分野を中心に20年以上のグローバル投資経験を持つ同氏の知見を取り入れ、海外事業戦略やコーポレートガバナンスを強化している。

今回の調達により、アスエネの累計資金調達額は250億円に達した

大企業を起点に広がる顧客網。海外投資家が評価した強み

今回の大型調達では、DPのほかにもマレーシア国営石油会社ペトロナスのCVCであるTwin Towers Venturesが参画するなど、海外投資家の存在感が増している。彼らはアスエネの何を評価しているのか。

「当社が日本・アジアで築いた事業基盤と非財務データの蓄積が評価されました。その判断の根拠として、大きく3つの強みがあります。1つ目は、企業のAIサステナビリティー領域でワンストップソリューション対応を幅広く支援できる点です。CO2排出量の算定だけでなく、取引先からのデータ収集、エネルギー管理やAIによる削減提案やシミュレーション、コンサルティングなどを組み合わせ、企業が抱える複数の課題にすべて対応できることに強みがあります」

2つ目は、意思決定から実行、開発力を含めたスピードである。

「スタートアップの強みはスピードです。AIを含めて技術は日進月歩で変わります。新しい技術や規制を学び、社内で学びを蓄積・共有し、お客様の課題を解決するサービスに反映するサイクルをどれだけ速く回せるか、この時間をCEOとしていかに短く早くできるかをつねに重視しています」

3つ目が、大企業を中心に築いてきた顧客基盤だ。

「国内のプライム上場企業約1600社のうち、約600社超がASUENEを導入しています。シェアは40%超。サプライチェーン管理では、大企業への導入が、その先にいる取引先・サプライチェーンへ利用を拡大する起点になります。例えば、大手メーカーが取引先にCO2排出量などのデータ提出を求める場合、同一のサービスを使うことで情報共有・データ連携・取引先とのコミュニケーションが容易になります」

西和田氏は、とりわけ日本の製造業の強さに可能性を見ている。世界に広い取引網を持つ日本の大企業を顧客基盤に持つことは、国内市場だけでなく、海外のサプライチェーンへ接点を広げる足場にもなるからだ。

「実際、当社が海外投資家から評価された理由には、日本・アジアで積み上げた実績に加え、アメリカやヨーロッパの企業を含むM&Aを実行できる経営力もあります。そして、国内で獲得した顧客網をスムーズに世界へ広げるには、M&AやPMIを当たり前にできる会社になる必要がある。その力を、非上場の段階から磨いておきたいと考えました」(西和田氏)

イギリス企業をM&Aして足場を固め「ピラミッドの頂点」獲得へ

M&Aを継続的な成長につなげるには、買収後に顧客基盤や事業の強みを生かす必要がある。そこで、アスエネが基本としているのは、自社がすでに手がけ、知見を蓄積している事業と親和性の高い企業を選ぶことだ。同じ領域であれば、重複する部門やソフトウェアなどを統合しやすい。

また、買収価格や売上高、利益規模などにも基準を設けている。案件を成立させること自体を目的とせず、条件に合わなければ買収を見送るという。

「買収後のPMIの成功確率を高めることを重視しているので、案件の成立を優先して判断を急ぐことはしません。M&Aには、企業規模を拡大する以上に売り上げとコストの両面でシナジーを発揮できるという意義があります。企業が集約されれば、人材や資金を投入したソフトウェア開発やコーポレートリソース統合によるコストシナジーも進めやすくなります。その結果、お客様に対してより質の高いサービスを提供できると考えています」(西和田氏)

同社のM&A戦略を象徴するのが、CO2可視化プラットフォーム「Secaro」を展開する英2degrees社の買収である。

アスエネCEO 西和田氏(左)、Secaro CEO Toby Newman氏(右)

Secaroは、企業のサプライチェーンからCO2排出量やESG関連のデータを収集・管理するサービスだ。自動車をはじめ製薬などのグローバル企業を顧客に持ち、そのサプライヤーまで含めると利用社数は約8000社に及ぶ。アスエネの事業と親和性が高いことや、強固な顧客基盤がM&Aの決定打となった。

西和田氏は、大企業を押さえる重要性を強調する。

「サプライチェーン管理のビジネスでは、ピラミッドの頂点に位置する大企業をどれだけ獲得できるかが勝負の分かれ目になります。頂点を獲得することで、そのサプライヤー網全体へ導入を広げる道が開けるのです」

アスエネが日本やアジアの大手を固める一方、Secaroは欧米市場に強みを持つ。両社のネットワークを組み合わせることで、アジアと欧米の双方に顧客基盤を持ち、グローバルなサプライチェーンを一体で支援できる体制が整う。

目指す「1兆円企業」は通過点。日本発で世界の国際標準をつくりにいく

西和田氏が長期ビジョンとして掲げるのが「AIサステナビリティー統合カンパニー」への進化だ。CO2排出量の管理にとどまらず、非財務データやエネルギーの領域まで幅広く扱い、そこを中心にAIを組み込んでいく。

「AIとソフトウェア、スピードを強みに、企業が抱える複数の複雑な課題やニーズにワンストップで対応できる会社を目指しています。まずは、サステナビリティーやエネルギーのソフトウェア、コンサルティングの領域で、世界中の企業から真っ先に選ばれる存在になりたい。その通過点として掲げているのが、企業価値1兆円規模への到達です。

『1兆円』という数字は、産業構造そのものを根底から変革するために必要な『発言力と影響力』の水準です。世の中によりよい影響を与え、多くの人々や社会に必要とされるインフラになるには1兆円規模の企業にならなければいけないと考えています」(西和田氏)

では、規模と影響力を手にしたその先で、何を成し遂げようとしているのか。西和田氏が見据えるのは、サステナビリティーの領域で国際標準をつくり、産業をリードするポジションを得ることだ。

世界中のサプライチェーンが複雑に絡み合う今、国際的に通用する共通のデータ基盤や取引規格を持たない企業は市場で不利になりかねない。

「企業がCO2排出量・非財務データをどのように算定し、取引先から収集し、共有するのか。こうしたデータの規格や収集方法をめぐって、グローバルで標準づくりの競争が進んでいます。そこで可能性を見いだしているのが、日本が強みを持つ製造業です。世界に広がるサプライチェーンを持つ日本の大企業と連携して、各業界で事実上の標準となる仕組みや規格を主導してつくりたい。その先で、AIサステナビリティー領域のデファクトスタンダードを形成することが目標です」と、西和田氏は構想を語る。

企業のCO2排出量を測るクラウドサービスから始まったアスエネ。その歩みは、国境を越えてサプライチェーンをつなぐデータ基盤へと広がり、今や世界のルールを左右する領域へと手を伸ばしつつある。日本発の新鋭クライメートテックの壮大な挑戦は、世界市場を舞台に次のフェーズへ進もうとしている。