中間選挙後の変化を「セクター」で捉える
11月に行われる米国の中間選挙は、大統領の4年の任期の折り返しに実施される。大統領を選ぶ選挙ではないものの、上下両院の勢力図が変われば、残りの任期で政策をどこまで進められるかにも影響する。それだけに、株式市場にとっても重要なイベントだ。
「中間選挙では、どちらの政党が勝つかに目が向きがちです。ただ、投資家にとっては、選挙結果によってどのような政策が進み、それが企業の収益にどう影響するのかを見ることが大切です」
そう話すのは、ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントでセクター・スペシャリストを務める山口美帆氏だ。
ヴァイス プレジデント セクター・セールス・スペシャリスト
山口美帆氏
山口氏によれば、中間選挙で見るべきなのは、法案が通るかどうかだけではない。仮に上下両院で多数派が異なる「ねじれ議会」となっても、行政措置や規制、大統領令、州の政策、予算交渉などを通じて政策は動く。そのため、選挙後も政策をめぐる不確実性は残りうる。
そこで有効になるのが、「セクター」という視点だ。S&P500は米国を代表する企業で構成される指数だが、その中身は情報技術、金融、ヘルスケア、資本財、エネルギーなど11のセクターに分かれている。当然ながら、政策変更から受ける影響も一様ではない。
では、「共和党ならこのセクター、民主党ならこのセクター」と考えればいいのだろうか。
「そこまで単純ではありません。政党ごとに投資先を決めるのではなく、AIや規制、防衛、設備投資、電力、医療制度など、各セクターの収益を動かす『収益ドライバー』を組み合わせて考えることが大切です」
例えば金融なら規制、資本財なら防衛や設備投資、ヘルスケアなら医療制度、エネルギーならエネルギー政策といった具合だ。つまり、「選挙結果」から直接「上がる業種」を探すのではなく、政策がどう変化し、その変化がどの企業の収益に影響するのかを一段ずつたどっていくわけだ。
山口氏は、議席の変化だけを見て投資先を機械的に切り替えるのではなく、選挙結果が市場の想定とどの程度異なるのか、その後にどの政策が実際に動くのかを見ていく必要があると指摘する。選挙を材料に短期的に株価が動く企業と、選挙後の政策によって実際に利益が変化する企業は、必ずしも同じではない。市場の反応が一時的なものなのか、企業業績の変化を伴うものなのかについても見極める必要がある。
中間選挙によって政策環境が変化しても、その影響がすべての企業に同じように及ぶわけではない。追い風になるセクターもあれば、逆風になるセクターもあり、影響の大きさや表れ方も異なる。こうした違いを捉えることが、選挙後の市場を考える手がかりになる。
*はETFティッカーであり、投資手段の一例となります。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメント作成
AIは過熱している?「波及先」まで見る
さらに、セクターの収益を動かすのは政策だけではない。景気や金利、原油価格、技術革新など、さまざまな要因が絡み合う。中間選挙後の市場を考えるうえでも、こうした複数の「収益ドライバー」に目を向ける必要がある。
その具体例がAIだ。AI関連への投資は市場の大きなテーマになっている。一方、関連銘柄の上昇が続く中、「すでに買われすぎているのではないか」と過熱感を持つ投資家もいるだろう。
山口氏が注目するのは、AIというテーマそのものだけではなく、設備投資に実際の収益が伴っているか、そしてその恩恵がどこへ広がっているかだ。
「これまではAIを『作る側』が注目されてきましたが、今はAIから『恩恵を受ける側』にも目を向けています。AI関連投資が企業業績を支えているかを確認しながら、その恩恵が情報技術以外のセクターへどのように広がっているかを見ることが重要です」
つまり、「AIは上がりすぎたから終わり」と見るのでも、「AIならまだ上がる」と考えるのでもない。価格の動きだけでなく、企業業績が伴っているかを確認しながら、AI投資の恩恵が次にどこへ波及するのかを見ることが重要になる。
生成AIなどの利用拡大には、大量のデータを処理するデータセンターが必要になる。データセンターが増えれば電力需要が膨らみ、それを支える発電・送電設備や各種インフラへの投資も必要になる。設備をつくる機械や資材への需要も生まれる。AIを起点とした投資の広がりをたどれば、情報技術だけでなく、公益事業や資本財、素材など複数のセクターが視野に入ってくる。
同じ見方は、金利や原油価格、政策変更にも応用できる。例えば金利が動いても、すべてのセクターが同じ方向、同じ大きさで影響を受けるわけではない。大きなニュースをそのまま株価の上げ下げに結び付けるのではなく、「その変化は、どの企業の収益に、どのような経路で波及するのか」を考えることが重要になる。
中間選挙も、そうした変化をもたらす一つの要因である。選挙後も市場を動かす材料は次々と変わる。複数の収益ドライバーとその波及先を見ることで、一つのシナリオに決め打ちせず、環境の変化に対応する余地が生まれる。
S&P500の「中身」を知り、変化に対応できる投資戦略へ
では、こうしたセクターの視点を、個人投資家は自分の投資にどう生かせばいいのだろうか。
まず確認したいのが、現在保有している資産の「中身」だ。例えばS&P500に連動するインデックス商品を保有していれば、米国を代表する企業に幅広く投資できる。しかし、11セクターが均等に組み入れられているわけではない。
「S&P500なら十分に分散されているように見えますが、セクターという視点で見ると、違った姿が見えてくるということですね」
山口氏は、新たな投資先を加える際には、現在のポートフォリオに何がどの程度含まれているのかを確認し、投資先の重複を把握することが大切だと話す。例えばS&P500を保有する投資家が情報技術セクターへの投資を増やせば、同じ大型株への投資が重なる可能性がある。一方、既存のポートフォリオとは異なる収益ドライバーを持つセクターを加えることで、特定の大型株や成長要因への集中を和らげられる場合もある。
だからこそ山口氏が重視するのが、「なぜ、そのセクターを持つのか」だ。成長機会を取り込みたいのか、景気や政策への感応度を意識するのか、既存のポジションへの集中を抑えたいのか。追加するセクターの投資理由と、ポートフォリオの中での役割を明確にすることが大切だという。
では、どのセクターを、いつ選ぶのか。山口氏が参考になると話すのが、バリュエーション(株価が企業の利益などに対して割高か割安かを見る指標)、モメンタム(株価の上昇・下落の勢いを見る指標)、収益センチメント(利益予想の上方・下方修正から、企業業績に対する市場の期待を測る指標)という3つの視点を組み合わせて見る方法だ。
現在の株価が割高か割安か、値動きに勢いがあるか、企業業績に対する市場の期待が改善しているかを確認する。一つの材料だけで判断するのではなく、現在の価格水準や値動き、企業業績の方向を確認し、自分の見方の「答え合わせ」に使う。ステート・ストリートのウェブサイトでは、こうした観点から各セクターを分析した「米国株式セクター・スコアカード」をはじめ、さまざまなレポートを無料で提供しており、個人投資家にとってもセクターを考える際の参考になる。
実際にセクターへ投資する方法も一つではない。個別企業を選ぶこともできるし、特定の業種にまとめて投資するセクターETF(上場投資信託)を利用する方法もある。例えばS&P500などを資産形成のコアとしながら、自分が取り込みたいセクターをサテライトとして組み合わせるのも選択肢だ。
ステート・ストリートでは、S&P500の11業種すべてを網羅するセクターETFシリーズを提供している。市場全体への投資を基本にしながら、政策や景気、技術革新などの変化を踏まえて特定のセクターへの投資を検討する際の選択肢の一つとなる。
中間選挙は11月で終わるが、市場を動かす材料はその後も変化していく。米国株を市場全体だけでなく、その「中身」であるセクターからも捉え、それぞれを動かす収益ドライバーを理解しておけば、市場環境が変化した際にも自分の投資戦略を柔軟に見直しやすくなるだろう。

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