“ローカルファースト”の考え方で、日本企業にAIを合わせる
オランダのアムステルダムで2025年1月に創業し、高度なサイバーセキュリティとIT技術が集積するイスラエルに研究開発本部を構えるWonderful。
金融や通信、ヘルスケアといった極めて高いセキュリティとガバナンスが求められるエンタープライズ企業に向け、業務を横断して自律遂行するAIエージェントと、AIエージェントを統括する独自の「Wonderful AI OS」を提供している。
「日本企業には、長年培ってきた固有の商習慣や何十年も安定稼働してきた基幹システムがあり、それらが質の高い現場を保っています。新たに導入したツールに業務プロセスを合わせるといったアプローチではうまくいきません」と話すのは、Wonderful 日本代表執行役社長の細井智(ほそい・さとし)氏だ。
中央大学理工学部卒。1996年日立ソフトウェアエンジニアリングに入社。1998年日本マイクロソフト入社。プロダクトマネージメント、エンタープライズ事業、公共事業、パートナー事業本部技術統括本部業務執行役員、デジタルトランスフォーメーション事業本部執行役員常務を経て、2022年1月パイオニア常務執行役員モビリティサービスカンパニーCEO兼グループCISO。2026年5月よりWonderful 日本代表執行役社長。
「長年積み重ねてきた複雑な基幹システムが共存している状態で、『グローバル標準のベストプラクティスであるITツールに、自社の業務を合わせる』という考え方をすると、膨大なアドオンやカスタマイズが発生し、コストが跳ね上がり、結果的にシステムが身動きの取れないスパゲッティ状態に陥ってしまうことがあります」
こうした課題に対し細井氏は、Wonderfulに「合わせていただく必要はまったくない」と話す。
「Wonderfulは“ローカルファースト”を掲げ、日本語の敬語・文脈・日本固有の商習慣、さらにはAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)のない旧来システムにAI側を適合させることに注力しています。企業の実態に、AI側をチューニングさせていくという考え方です」
企業の資産を生かしながら、AIが業務を一気通貫で完了
同社はイスラエルを拠点としてヨーロッパで大きく成長してきたが、「世の中が直面していた『生成AIに対する企業の幻滅期』に、実務に直結した解を提示できたこと」も、その背景にあると細井氏は話す。
「多くの企業はこれまで法務や営業、サポートなど部門ごとに個別のSaaSを導入してきました。しかし本来、業務の成果はサイロ(部門の壁)の中ではなく、部門をまたぐ一連のワークフローの中で生まれるものです。結果として『ツールを入れたがデータの移行が煩雑で実務が回らない』『社員がシステム間を手作業で橋渡ししている』というギャップが生じていたのです」
そこでWonderfulが提示したのが、既存のシステムを壊さずに横串を通す「水平統合型」のAIエージェントだった。企業の資産をそのまま生かしながら、複数のシステムを横断して実際の業務を完了させる仕組みだ。
「業務向けAIは、特定のCRM(顧客管理システム)やクラウドの中でしか動かない「垂直統合型」が主流でした。しかし現実のビジネスでは、社員はCRMを見ながら古い基幹システムをたたき、表計算ソフトを開いてデータを突き合わせメールを送っています。当社のAIエージェントは、まさにこの人間と同じような振る舞いを再現します。APIが存在する最新クラウドはもちろん、APIがない古いメインフレームやオンプレミスの画面であっても、人間のようにGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)を直接画面操作してデータを読み書きし、業務を一気通貫で完了させます」
迅速な立ち上げと成果最大化を両立する、透明性の高いハイブリッド型料金体系
導入におけるスピード感にも注目したい。
「要件定義からAIエージェントの構築、本番稼働までをおおむね1カ月から3カ月以内で完了させることができます。これが可能な理由は、私たちがゼロからスクラッチ開発しているのではなく、すでに世界35市場で培った『検証済みのエージェントモジュール』『データ連携コネクタ』『セキュリティガードレール』をライブラリ化しており、これらを顧客の業務に合わせて迅速に組み立てるアーキテクチャを持っているからです」
そして、このスピードゆえに、顧客側で費用対効果をコントロールしやすい体系になっているという。
「お客様がリスクを抑えてスタートし、事業成長に合わせて無理なくスケールできる設計にしています。初期はFDE(Forward Deployed Engineer)やDS(Deployment Strategist)が現場に入り込み本番稼働から軌道に乗るまで伴走しますが、最終的にはお客様自身が自走運用できる体制へ移行することをゴールとしています。伴走フェーズから自走フェーズへ滑らかにシフトすることで、費用対効果をコントロールしながら、長期的に高いROI(投資利益率)を実感していただける関係性を目指しています」
さらに、大企業が懸念するベンダーロックインに対しても、意図的に顧客を囲い込まない思想を徹底している。具体的には、蓄積された業務知識やプロンプトはオープン形式で管理され、契約終了時にも外部へエクスポート可能であること。特定のLLMプロバイダーに依存せず最新モデルに自由に差し替えられること。自社クラウド(BYOC)やオンプレミスのエアギャップ環境でも稼働すること。そして、構築したロジックのノウハウは顧客に帰属し自ら改修できる開発基盤を提供することの4つを打ち出している。
現場の強みと既存資産を生かしたまま、複雑な業務プロセスを自律的につなぎ込むWonderful。このローカルファーストなアプローチは、日本企業が抱える課題に対し、強力な解を示している。

