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時価総額23兆円超、日立製作所が「経営戦略と人財戦略の一体化」を目指す納得の手法

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データドリブンな人財マネジメントを推進する日立製作所
  • ワークデイ 制作:東洋経済ブランドスタジオ
「人事は管理部門である」──そんな認識が、多くの日本企業に根強く残っている。経営戦略が描かれ、事業計画が走り始めても、「どこに、どのようなスキルを保有する人財がいるか」を正確に把握できている企業はどれほどあるだろうか。日立製作所(以下、日立)は10年以上前から、人財マネジメントは経営の根幹と考え、事業変革に取り組んできた。23兆円超の時価総額(2026年7月末時点)、全世界で28万7901人(26年3月末時点)を擁するグローバルコングロマリットは、いかにして経営戦略と人財戦略の接続を目指すのか。そのストーリーを取材した。

「One Hitachi」実現のために経営戦略と連動した人財改革を推進

多くの日本企業では経営戦略と人財戦略の連動が不十分なまま、単なる人事管理システムを刷新することが目的化してしまっている。人財戦略が機能しなければ、成長領域への人財配置ができず、経営リスクに直結してしまう。

そうした中、日立は経営戦略と人財戦略を連動させ、グループ横断でデータドリブンな人財マネジメントを目指している。日立が変革に踏み出した経緯は、2009年3月期に巨額の赤字を計上し経営危機に直面した時期にさかのぼる。

「2010年に社長(当時)に就任した中西宏明が『One Hitachi』を掲げ、『グローバルで戦える企業になるためには、人財改革が不可欠だ』という考えを明確に打ち出しました。しかし当時、国内外に多数のグループ会社があり、それぞれが独自の制度とシステムを持っていました。そのため、データの接続や可視化ができないという課題がありました」と人財統括本部 デジタルHR部 部長の吉田圭佑氏は振り返る。

日立製作所 人財統括本部 デジタルHR部 部長
吉田 圭佑氏

人財の状況が見えないままでは、グローバル経営はできない。そこで、まず始めたのが人財データの一元化だ。日立は、人財こそが事業の成長を支え経営戦略を実現するための原動力と位置づけている。

「メンバー一人ひとりが最大限に能力を発揮するためには、グループ全体の人財やケイパビリティーを可視化することが必要だと考えました。その基盤として、人財データをグローバルで一元管理するシステムの構築に取り組みました。目指したのは、単なるシステムの導入ではなく、最適な人財を最適なタイミングで最適なポジションに配置できるグローバル企業へ進化することです」(吉田氏)

日立は事業のグローバル化が大きく進展し、海外人員比率も高まっている。そのため、会社単位ではなく、グループやグローバル全体で横断的に人財データを可視化し、活用する重要性が増している。

以後、日立は人財マネジメント基盤の構築と合わせてグループ共通の人事制度や育成制度などを整備してきた。

変わりつつある人事「AI活用を見据えたOne HR」のさらなる進化が必要

市場環境が複雑に変化し続ける現代。AIの台頭により、人事業務も変わるとされている。日立の人事部門は単なる管理部門ではない。事業ニーズを先読みし、組織に必要なケイパビリティーを構築するとともに人財と機会をつないでいく、戦略的なアプローチが求められている。

「現在『タレントマネジメント』『トータルリワード』『One HRプラットフォーム』の3つを重点領域として、人財戦略を進化させています。とりわけ重要なのは、スキルベースの人財マネジメントです」(吉田氏)

AIを活用して業務内容がどう変わるのか、新たにどのようなスキルが求められるのか、そのスキルを持つ人財がどこにどれほどいるのか、スキルの差分をどう埋めるのか。こうした変化を見据えながら、人財戦略を検討していくことが重要だと吉田氏は語る。

「AI活用における目的は、人をAIに置き換えることではありません。人の能力を最大限に拡張し、より価値のある仕事に集中できるようにすることです。例えば人事業務では、スキルギャップ分析やキャリアレコメンド、戦略的人員計画などにAIを活用し、人財と事業のマッチング精度の向上を目指しています」

さらに、社員一人ひとりのキャリア志向に寄り添ったトレーニングメニューや機会の提示なども実現し、自律的なキャリアを築いていく文化醸成にも役立てようとしている。AIが定型業務や分析領域を担うようになれば、人はより人間らしい領域に集中できる。その中で、With AIの時代に必要な変革があるという。

「組織や人財マネジメントのあり方について継続的な見直しが必要になります。そして、この変革をリードしていくのは人事部門だと考えています。私たちはOne Hitachiを実現するために、『One HRの実現』を目指してきました。AI時代における『真のOne Hitachi』を実現するために、『AI活用を見据えたOne HR』のさらなる進化が必要だと考えています」(吉田氏)

グローバル標準を尊重しながら、人財マネジメントの変革を進める

こうした人財戦略を実行に移すには、グループ全体の人財データを可視化・活用し、最適な人財配置や育成につなげるための基盤が必要だった。そこで日立は2015年、これらの施策を支えるソリューションを拡張可能かつ単一のシステムに集約することを目指し、Workdayの導入プロジェクトを開始した。吉田氏は、Workdayを選定した理由について主に3つあったと振り返る。

日立製作所が構築した人財マネジメント基盤の仕組み

「1つ目がグローバルな人事業務のベストプラクティスを保有していたこと。2つ目がグローバルで単一のデータモデルを保有し、経営に必要な人財情報をリアルタイムに把握できること。3つ目がタレントマネジメントや採用、育成、評価といった業務をプラットフォーム上でつなげて管理できることです。とくに重要だったのは、システムを日立に合わせるのではなく、日立自身がグローバル標準に近づくという考え方です」

現在では、20万人を超える人財データがWorkday上で可視化されている。「これはITツールの導入にとどまらず、人財マネジメントのあり方を見直す取り組みでもありました」(吉田氏)。

しかしどのような企業でも、変革を進める際に社内の抵抗や困難はつきものだ。日立ではグループ各社で異なる業務プロセスや働き方があり、それをまとめて大規模な変革に導いていく点に大きな苦労があったと吉田氏は話す。

「とくに日本国内のグループ各社では、長い間をかけて独自の制度を作り、現場に深く浸透していました。そうした既存の仕組みを変えるのは非常に難しいことでしたが、変革を進められた最大の理由は、トップの強いコミットメントにありました。

当時の経営陣が『One Hitachiは経営戦略そのものであり、人財改革は不可欠である』というメッセージを継続的に発信し続けました。さらに人事部門がステークホルダーとの対話を重ね、地道かつ継続的にコミュニケーションを実施したことで変革が進んでいきました」

データドリブンな人財マネジメントに不可欠なダッシュボード

今回、ワークデイのCustomer Awardsを受賞した取り組みとして2つの施策がある。1つが、グループ全体の人財状況を把握するためのグローバル横断型ダッシュボードの作成だ。

従来は、人員数の把握に多くの時間と工数を要していた。人財統括本部 デジタルHR部の橋本大樹氏は「また、会社ごとにデータの粒度や管理方法が異なるため、グループ全体を統一的な視点で把握することも難しかった」と振り返り、次のように語る。

「経営戦略や人財戦略の観点では、タイムリーにグローバルの状況を把握する必要があります。そのためには、人財データを共通の定義で管理し、会社や地域をまたいで可視化できる仕組みが不可欠でした。私たちがダッシュボードで目指したのは、データ管理の効率化だけではありません。グループ全体の人財状況を共通の基盤上で可視化し、経営判断や人財戦略に活用できる状態を実現することでした」

人財統括本部 デジタルHR部
橋本 大樹氏

実際にダッシュボードでは、多様な切り口での分析が可能だ。人財データをダッシュボードで管理・活用することで、人財データを活用した意思決定を支える基盤として活用が進んでいる。

画像を拡大グローバル横断型ダッシュボードイメージ (ワークデイ 提供)

「私たちは、このダッシュボードをレポーティングツールとしてではなく、グループ全体の人財やスキル、ケイパビリティーを可視化し、経営戦略と人財戦略をつなぐための基盤と位置づけています。今後はヘッドカウント中心の分析からさらに発展させ、スキルやタレント情報も含めたピープルアナリティクスへと進化させていきます」(橋本氏)

ダッシュボードにより、定期的な人員報告のためのデータ抽出や集計作業が大幅に削減された。これにより、組織ではどのような変化が起きたのだろうか。

「最大の変化は、人員データを活用した議論に時間を使えるようになったことです。関係者が共通のデータを参照できるようになったため、数字の確認ではなく人員の増減要因や今後の方向性など、より本質的な議論に集中できるようになりました。

グループ各社で同時展開を基本としながらも、各社の状況に寄り添い、段階的に対象範囲を拡大していきました。これは導入リスクを抑えるだけでなく、グローバル共通の人財データ基盤に対する信頼と定着を高めることにもつながりました」(橋本氏)

オンボーディング領域を自動化し、従業員エクスペリエンスを高める

もう1点が、オンボーディングサーベイの自動化だ。従来はオンボーディグサーベイを外部委託かつ手作業で進めていた日立。しかし現在は、Workdayを活用し、年間約1万件ものサーベイの内製化と自動化を実現している。日頃から採用部門とコミュニケーションを取ることで、課題やニーズを理解していたからこその施策だと人財統括本部 デジタルHR部の秋山和俊氏は話す。

「オンボーディング期は、その後のエンゲージメントやパフォーマンス、さらには離職リスクにも大きく影響する重要な期間です。しかし、従来のサーベイ運用は多くの手作業を前提としており、将来的に運用が限界を迎えることが予想されていました。採用人数が増える中で、入社者一人ひとりをフォローし、早期活躍をアシストする仕組みが欲しいと考えました。Workdayにはすでに従業員情報や組織情報が格納されていたので、サーベイの内容や実施タイミングを一度設計すれば、節目での自動配信が可能になると考えました」

人財統括本部 デジタルHR部
秋山 和俊氏

運用開始から1年以上が経過したオンボーディング施策。サーベイで取得したデータは、どのように生かされているのだろうか。

「当初の最大の狙いは、個別フォローでした。年4回のサーベイを通じて異常値や兆候を早期に検知し、必要なフォローにつなげることを重視しました。例えば本人は不安を感じているが上司は気付いていない、業務期待の認識にギャップがあるなどのサインを早期に把握し、人事や上司がフォローできるようになりました」(秋山氏)

今後は、オンボーディングプロセス全体の改善や標準化にもサーベイの活用を検討しているという。課題を検知するだけではなく、従業員エクスペリエンスの実現につなげていく。

「私たちが目指すのは、入社者が早期に活躍できる環境をつくる材料として人財データを活用することです。入社者が新しい環境や業務、人間関係に適応していく過程では、多くの期待と同時に不安も抱えています。サーベイにより、一人ひとりの状態や困り事を早期に把握し、必要な支援につなげるための設計をしています」(秋山氏)

入社者の受け入れは、人事だけで完結するものではない。それぞれの立場で役割を担いながら、一体となって支援できる体制づくりのために、継続的な対話を通じて理解を深めながらより多くの組織で活用されるよう取り組んでいる。

経営危機を乗り越えて、グローバルで事業を拡大し続ける日立。その背景には、人財戦略を経営戦略と連動させたダイナミックな変革があった。

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