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PEファンド「ベインキャピタル」とは何者か?日本代表に聞く快進撃の理由。大型案件成功の裏側に迫る

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ベインキャピタル 日本代表/アジア太平洋地域代表 杉本 勇次氏
  • ベインキャピタル・ジャパン 制作:東洋経済ブランドスタジオ
キオクシアHD(旧・東芝メモリ)の買収を主導し経営改革を支援したPE(プライベートエクイティー)ファンド、ベインキャピタル。2025年には三菱ケミカルグループから田辺ファーマ、セブン&アイHDからヨークHDがカーブアウトしたが、その株式を引き受けたのもベインキャピタルだった。06年に東京オフィスを開設したベインキャピタルは、ほかにも日本で大小さまざまな投資案件を手がけて成功に導いている。困難に直面していた企業を、いったいどうやって成長させているのか。ベールに包まれた実態を、日本代表/アジア太平洋地域代表の杉本勇次氏に直撃した。

中堅・中小企業でもPEファンドのニーズが高まっている

――なぜ今、PEファンドのニーズが高まっているのでしょうか。

杉本 まずPEファンドは、「企業の株式(エクイティー)を引き受け、経営陣と一緒に企業価値を高めることを目指す投資家」です。株式を譲渡する企業側のニーズはさまざま。中長期的な挑戦をするべく「攻めの資金」を求めてパートナーに選ぶケースや、大企業がノンコア事業を切り離してカーブアウトする際の引き受け手として選ぶこともあります。

ニーズが高まっている背景には、2023年6月に閣議決定された「骨太の方針」で「資産運用立国」が打ち出されたことが挙げられます。資産運用立国を実現するには、上場企業が利益を伸ばして成長していくことが欠かせません。そのため政府は、コーポレートガバナンスのルールを整備したり、ROE(自己資本利益率)を重視するよう上場企業に働きかけたりしてきました。こうした動きを受け、「収益性の低いノンコア事業を切り離してPEファンドに任せ、強みのあるコア事業にリソースを集中させたい」と考える上場企業が増えました。

マクロの変化で高まったのは、カーブアウトのニーズだけではありません。金融庁が14年に日本版スチュワードシップ・コードを定めたように、上場企業には株主との対話が強く求められるようになりました。それに伴い、アクティビスト(物言う株主)の存在感が増しています。「不特定多数の株主の意見に振り回されるのではなく、自社の事業やビジョンを深く理解している特定少数の株主と中長期的な視点で経営したい」と考えて、MBO(経営陣による買収)で非上場化する動きも目立っています。

日本経済が継続的に成長するためには、
中堅・中小企業のポテンシャルを開花させることが不可欠

ベインキャピタル 日本代表/アジア太平洋地域代表
杉本 勇次

――PEファンドに対する世間の認知度も変わってきています。

杉本 06年に東京オフィスを立ち上げた当初は「経営不振の会社を買い、コストカットなどで短期的に利益を上げて売却する転売屋」という悪いイメージで見られがちで、私たちも苦労しました。

潮目が変わったのは、当社による11年のすかいらーくHDへの投資です。人材の強化やコストの削減を行い、同時に店舗に投資をしてメニューやサービスを改革。顧客体験を改善した結果、お客様から「おいしくなった」「接客がよくなった」などと評価され、14年に再上場を果たしました。有名なチェーンレストランが復活したことで、「PEファンドと協業すれば会社の将来にプラスになる」ことを広く知ってもらえました。

さらにキオクシアHDの上場が、認知を高める決定打に。PEファンドに対する社会的評価に伴って、最近は事業承継で悩む中堅・中小企業から株式と一緒に経営を託されるケースが増えています。ありがたい変化です。

グローバルトップが日本文化を深く理解。金融よりも事業に焦点を当てる

――ベインキャピタルはどのようなファンドなのでしょうか。

杉本 外資系PEファンドと聞くと、派手なイメージを思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、私たちの出身母体は米ボストンのベイン・アンド・カンパニーというコンサルティング会社。コンサルだけにとどまらず、自分たちも経営陣と一緒に企業を成長させたいという思いから生まれたファンドなので、金融よりも事業にフォーカスしています。

メンバーはみんな事業が好きなので、投資先の経営者の方からは「ベインは事業の中身を詳細まで聞いてくる」と言われます。事業へのこだわりこそが私たちの強みと自負しています。非上場なので、運用資産額を殖やすという短期的な期待に応える必要もありません。

――外資系コンサルがルーツだと、経営改革の手法もアメリカ流ですか。

杉本 グローバルで一般的なやり方が、そのまま日本で通用するわけではありません。日本独自の商慣習や文化があるので、それを尊重しています。キオクシアHDがいい例です。アメリカは効率重視で短期的利益を狙うスタイルですが、キオクシアHDでは一貫して毎年3000~4000億円の設備投資を続け、研究投資も増額しました。だからこそ危機を乗り越え、AIの波をつかまえて急成長することができたのです。

実は、この設備投資は当初本国(アメリカ)から反対されましたが、結局は東京オフィスの判断を尊重してくれました。というのも、06年に東京オフィスを私と一緒に立ち上げたデービッド・グロスが現在、ベインキャピタル本社で最高経営責任者に就いているから。グロスは日本に留学してNECに勤めた経験もあり、日本の文化や商慣習、働き方があることをよく理解しています。

それに日本はグローバルの中で、人数、投資額、それに対するリターン額などがトップクラスです。おかげで本国も東京オフィスの提案を尊重してくれています。

現場にとことん入り込む泥くささ。成長できる環境がメンバーを引きつける

――どのような体制で経営改革を進めているのでしょうか。

杉本 東京オフィスは総勢約120人。その中で、経営支援をするポートフォリオグループには約20人のプロフェッショナルが在籍しています。支援を開始するとこのメンバーが投資先に常駐して、およそ4~5の経営改革プロジェクトを立ち上げ、現場の方と一緒に議論しながら進めていきます。

新潟県のユキグニファクトリー(旧・雪国まいたけ)への投資では当初、メンバーが東京から通っていましたが、事業の特性を深く理解するには出張ベースでは限界があると判断。メンバーは私に直訴して、新潟に家賃5万円のアパートを借りて移住しました。それくらいの距離感で現場に入り込んで、泥くさく改革に邁進しています。

――どんな人材が経営支援に当たっていますか。

杉本 PEファンドは人材の流動性が高い業界ですが、当社は在籍10年以上のメンバーが多いことが特徴です。在籍年数が長いのは、おそらく成長の機会が多いからでしょう。

21年には日本国内の投資に特化した「JMM(ジャパン・ミドル・マーケット)」を立ち上げました。大型案件だけならせいぜい年に1件ですが、中堅・中小企業に投資するJMMなら年に4~5件は経験できます。また、メンバーが集まってケーススタディーをするなど、ナレッジを共有する場やカルチャーがあります。もともとコンサルや事業会社出身のメンバーが多いですが、当社には入社後に成長し続けられる環境があります。そのことを魅力に感じるメンバーが、投資先の現場の方と一緒に汗をかいています。

――日本では、経営人材が少ないことが課題とされています。

杉本 日本は経営人材の数が十分とはいえません。そこで「BCEP(ベインキャピタル・エグゼクティブ・プログラム)」という仕組みを整えました。これは経営者としてキャリアを築きたい人が当社のポートフォリオグループに在籍し、企業価値向上のアプローチを学んだ後に、投資先に役員として転籍するプログラムです。

実はBCEPも東京オフィス独自の制度です。アメリカでは経営人材が転職市場に大勢いますが、日本はそうではありません。人材育成も含め、日本に合った仕組みで実施できるのは当社の長所です。

危機を救ったのは、粘り強さ。「ベイン自身、粘り強くなければ生き残れなかった」

――経営改革で大切にしていることはありますか。

杉本 1つは粘り強さです。経営改革に魔法のつえはありません。投資先の事情はそれぞれ違いますから、むしろうまくいかないことばかりです。そのとき大切なのは「解決の糸口は必ずある」と考えて、試行錯誤を繰り返すことです。

2026年6月発売の書籍。キオクシアHDやすかいらーくHDをはじめ、ベインキャピタルが手がけた9つの実例を解説している。同社がどのように日本企業を再成長させているのか、その強さの秘密がわかる

例えば15年に投資したGENSEN HD(旧・大江戸温泉物語ホテルズ&リゾーツ)は順調に改革が進んでいたものの、コロナ禍で一変して倒産寸前までいきました。しかしそこで諦めず、関係する金融機関と何度も交渉して追加資金を投入。首の皮一枚で、22年にローンを完済しました。粘り強さを重視する組織風土がなければ、初の倒産案件となっていたかもしれません。

当社にこれだけ粘り強さが根付いているのは、PEファンドが認知されていない時代に組織を立ち上げ、皆さんにご理解いただけるように地道に説明を続けてきたからでしょう。私たち自身、粘り強くなければ生き残れなかったのです。

――日本企業の経営者にメッセージをお願いします。

杉本 当社は、投資を通して事業成長の支援をする日本企業のパートナーです。事業について、どのような施策を打てば持続的に成長できるのかを議論させていただければ、非常に有意義なコミュニケーションになるはず。ぜひ気軽に声をかけていただきたいですね。

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