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日本経済再興の切り札「フィジカルAI」。重要なのはロボットだけじゃない、「通信インフラ」が社会実装のカギを握るワケ

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社会課題の解決策として期待が集まるフィジカルAI。その実現には「通信」も重要な役割を果たす
  • エリクソン・ジャパン 制作:東洋経済ブランドスタジオ
政府が成長戦略の重点分野と位置づける「フィジカルAI」――ドローンや自動車、モバイル機器など、AIが現実世界で具現化したシステム――は、加速する人口減少による人手不足の解決策として期待が高まっている。一方で、ロボットなどフィジカルAIのプロダクトを広く社会実装するには、低価格化・省電力化といったハードルを越えなければならない。「そのブレークスルーに欠かせないのが、通信インフラの変革と進化だ」と語るのは、グローバル通信インフラ大手・エリクソンの北東アジア地域総責任者のシャフィック・ナシーフ氏だ。なぜ通信インフラなのか、そして、どのようなアップデートが求められるのか、詳しく話を聞いた。

フィジカルAIの波は「日本にとって大きなチャンス」

ほんの数年前まで未来の技術と見なされていたAIは、生成AIの急速な進化もあり、今ではビジネスや社会の多様な現場で活用が進んでいる。「生成AIはすでにビジネスや社会に多くの価値をもたらしています」とエリクソン北東アジア地域総責任者のシャフィック・ナシーフ氏は指摘する。

「これまでは、『誰が最も賢いAIを作るか』という競争が展開されてきました。その結果、優れた生成AIが生まれ価値を発揮していますが、デジタル上の技術単体のブレークスルーだけでは社会に真の繁栄をもたらすことはできません。完璧な都市デザインを描いても、設計図だけでは価値が生まれないのと同じです。

社会がその価値を享受できるのは、建物や道路・鉄道を整備し、交通・物流が機能してから。AIも知能を高めるフェーズから、『いかにスマートに現実へ適用させるか』、すなわち、フィジカルAIの社会実装によって本質的な価値を生み出さなくてはならないフェーズに入りつつあります」

エリクソン 北東アジア地域総責任者
シャフィック・ナシーフ氏

フィジカルAIとは、ロボットや機械などのハードウェアがAIと結び付いて自律的に動くシステムのこと。自動運転、物流倉庫内を自律走行する搬送ロボット、ドローン配送や高齢者ケアなど、さまざまな社会課題を解決できる可能性を秘めている。

「だからこそ、日本にとっては大きなチャンスです」とナシーフ氏は続ける。

「製造業が盛んで、精密部品や高機能素材などに強みを持つ日本は、フィジカルAIの開発・運用で最も有望な国の1つだと確信しています。政府がフィジカルAIに多額の投資を決めたことも大きな後押しになるはずです」

フィジカルAIを成功に導くカギとは

もっとも、優れたロボットなどを開発できたとしても、それだけでフィジカルAIが社会に普及するわけではない。ナシーフ氏は次のように語る。

「都市と同様に、フィジカルAIも、工場や病院、交通機関、エネルギーシステムといったあらゆる環境において『正しい場所、正しいタイミングで、毎回確実に』機能することが求められます。しかし、ロボットや自動運転車両を安全に動かすには、カメラやセンサーなどで捉えた画像などのデータをリアルタイムで解析し続ける必要があります。

これまでは、データをクラウドなどに転送して処理していました。クラウド上の計算基盤は、AIモデルの学習など大規模な処理には適していますが、リアルタイム性が求められるフィジカルAIにおいてすべての処理をクラウドに頼ると、通信の遅延が生じるリスクは避けられません。そのため、必要な場所(エッジ)で推論処理を行えるよう、適切なコンピューティングを分散配置することが不可欠です」

例えば自動運転車両では、コンマ1秒の判断が求められ、遠くのクラウドへ送って返答を待つ時間的猶予はない。かといってAI処理を含むすべての機能をハードウェア単体で抱え込めば、高価格化や消費電力の増大を招き、社会実装が難しくなる。

ならばどうすればいいのか。ナシーフ氏は、単に現場近くにサーバーを置くだけでなく、ネットワーク内部(RANやベースバンドなど)でコンピューティングを行えるようにし、AIによる演算・推論処理を分散させることがフィジカルAIを成功に導くカギだと説く。

ロボットなどの近くに置いたエッジサーバーに処理を分散することで安定的な動作を実現する

「脳がいくら優れた知能を持っていても、筋肉とつなぐ神経系が機能しなければ指一本動かすことはできません。AIとハードウェアの関係も同じです。AIというスマートな知能を持った脳があり、ロボットという筋肉があっても、それらをつなぐ強力なネットワークという神経系がなければ何も機能しません。

現場で自律的な動作を実現するには、カメラやセンサーで捉えた情報を瞬時に処理できるよう、ネットワーク内にコンピューティング機能を組み込み、AI処理(推論)を分散させる必要があります。その際、ロボットからエッジサーバーへ膨大なデータを送るための大容量のアップリンク(上り通信)も欠かせません。

こうしたAI処理の分散と通信の高度化によって、ハードウェアの低価格化や省電力化にもつながります。より多くのユースケースに対応できるようになり、産業全体の競争力向上にも寄与するでしょう」

社会実装に不可欠な「通信インフラの進化」

AIの分散処理をリアルタイムかつ安全に実行するためには、「神経系」となる通信インフラの変革と進化が欠かせない。フィジカルAIを実装できるかどうかは、AIモデルそのものではなく、それを支える通信インフラに左右されるということだ。

「日本の5Gネットワークの人口カバー率は100%近く(2025年度末現在で98.6%。総務省調べ)に達しており、動画の視聴など、コンシューマー向けの用途を満たすネットワークとして十分に機能しています。

しかし、そのコア機能の大部分が4G規格に基づいているため、フィジカルAIに適した通信品質ではありません。フィジカルAIに適した通信品質を担保するには、コア機能を『5G SA(スタンドアローン)』規格へアップグレードする必要があります」

4G設備を利用した現在の主流の5Gでは、データ送受信のタイムラグを極限まで抑える超低遅延な通信が十分に発揮できない。通信のリアルタイム性を担保するには、低遅延かつ高速・安定した通信環境を確立し、用途に応じて異なる通信品質を設定できる「ネットワークスライシング」の機能を持つ5G SAが必要というわけだ。

「ネットワークスライシング機能は、都市に『目的別の専用道路』を整備するイメージです。一般車両とは別に救急車が高速で優先走行できる専用レーンを設けるように、ネットワークにロボット専用の優先レーンを確保することで、“止まらないフィジカルAI”が実現するのです」

目的別にネットワークの“レーン”を設けることで通信品質を担保する

しかも、エリクソンの5G SAネットワークにはAIベースの自律機能を標準搭載しており、AIネイティブの次世代通信規格「6G」への橋渡しにもなるとナシーフ氏は話す。フィジカルAIを成功させるために通信インフラを変革・進化させることは、持続的な産業競争力の向上につながるということだ。

パートナーと共に日本のフィジカルAI実装を目指す

エリクソンは、“止まらないフィジカルAI”を支える通信インフラの構築に早くから力を注いできた。すでに5G SAの商用ネットワークを世界中で運用しているほか、国内でも通信事業者と幅広くオープンに連携し、アップリンク性能の最適化や、ネットワーク側でのAI処理によるロボット制御の安定化・省電力化に取り組んでいる。

また、運用効率の向上とコスト削減に向け、AIの活用やソフトウェアによる機能拡張にも対応した、高性能かつ省電力な基地局向け通信処理プラットフォームの導入も進めているほか、人口が密集するエリアでの通信品質を高めるため、先進的な5G無線装置の商用展開も進めている。

「高性能な無線機や通信機器を開発するため、日本の部品メーカーともエコシステムづくりに力を入れています。これまでも部品の供給を受けており、日本はエリクソンにとって非常に重要な基盤となっています。エリクソンが日本国内に研究開発の拠点を設置しているのはそのためです」

モバイル通信業界においてエリクソンがグローバル大手としての地位を築いてきたのは、研究開発投資を惜しまず、世界中の研究開発拠点と密に連携し、生まれたイノベーションを共有・活用してきたからこそだという。

それは、自社だけのためではない。「ローカルパートナー」に徹し、各国の通信事業者やサプライヤー、政府関係者とウィンウィンの関係を築くことに留意してきた。世界中がフィジカルAIに取り組んでいる今、ものづくりに強みを持つ日本との協働は、グローバルに新たな価値をもたらすことにつながるとナシーフ氏は力を込める。

「エリクソンは、今年創業150周年を迎えました。そして日本においても、40年以上にわたり日本の通信事業者と共に歩んできました。短期的な利益だけを追っていては、150年も存続できなかったはずです。常に20年、30年先を見据えながら、ウィンウィンの精神で長期的なパートナーシップを重視してきました。そしてその姿勢は、多くの長寿企業が存在する日本のビジネス文化とも共鳴する部分が多いと感じています。

フィジカルAIの社会実装は、後世から産業革命と評価されるほどの転換点になるでしょう。日本にとっても、深刻な人手不足などの社会課題を解決するとともに、経済的優位性を高め、強固な経済安全保障を確立することにつながるはずです。私たちは信頼できるパートナーと手を携え、イノベーションを生み出し続けたいと考えています」

>エリクソン創立150周年特設サイト「Enter New Horizons―AI時代を動かす、コネクティビティ」はこちら