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「企業らしさ」の深掘りと実装が、AI時代における企業変革のカギとなる。戦略を進化させ続ける、人間とAIの「共創」のあり方

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電通 トランスフォーメーション・プロデュース局 シニアビジネスプロデューサー 藤本眞一郎氏(左)、NSV Wolf Capital マネージングパートナーのシバタナオキ氏(右)
AIが「実行」を高速化するほど、人には「判断力」が問われる
  • dentsu BX 制作:東洋経済ブランドスタジオ
企業にとって戦略策定は欠かせない。しかし戦略が現場に定着せず、企業変革が止まるケースが少なくない。BX(ビジネス・トランスフォーメーション)連載シリーズでは、AIと人間の共創が欠かせない時代に、何が企業変革の成否を左右するのかを解き明かす。第1回では、AIが「実行」を高速化するほど、人間には「企業らしさ」を拠り所とする判断力が試される中で、判断と企業らしさを基に戦略を実装する条件を、投資家として1000社以上のAIスタートアップを調査・研究するNSV Wolf Capitalマネージングパートナーのシバタナオキ氏と、企業変革を支援する電通の藤本眞一郎氏が語り合った。

AI時代、人間に問われる「判断力」

――はじめに、AIエージェントは企業にとってどのような存在となるのでしょうか。

シバタ 企業にとって、もはやAIエージェントの活用は不可避です。これからは従業員よりAIエージェントの数が多くなると予想しています。

NSV Wolf Capital マネージングパートナー
シバタ ナオキ
シリコンバレーの新興ベンチャーキャピタルへのファンド投資、スタートアップへの直接投資を担う。楽天執行役員、東京大学助教を経て、スタンフォード大学の客員研究員として渡米。AppGrooves共同創業者、「決算が読めるようになるノート」創業者(2022年に事業譲渡)。東京大学大学院 工学系研究科 技術経営戦略学専攻 博士課程修了(工学博士)。著書に『アフターAI』『MBAより簡単で英語より大切な決算を読む習慣』『テクノロジーの地政学』(すべて日経BP)など

シバタ 経営層はもちろん、部長・課長クラスや各メンバーがそれぞれAIエージェントとともに仕事を行うことが一般化されるでしょう。すると、今までメンバーだった人が課長の仕事を、課長だった人が部長の仕事を担うなど、一人ひとりの判断範囲が広がり、組織はよりフラットになると考えられます。さらに、実行の多くをAIが担うようになるため、役職を問わず人に求められるのは「判断力」となるのです。

従業員一人ひとりが、AIエージェントを活用して業務を遂行する。加えて、実行の多くをAIが担うことで従業員の視座が高まり、各ポジションの業務内容もより高度化する見込みだ

藤本これまでAIは「ツール」だと思われていましたが、今は「働き手」としての役割に移行しつつあります。マニュアル化できる業務から順に、人間からAIへの代替が進み、シバタさんのおっしゃるように組織の姿も変わっていくでしょう。そのためまずは、AIエージェントを脅威ではなく、人間と共創する存在として捉えることが重要です。

電通 AIXグロースリード室 グロースリード1部 部長 兼
dentsu Japan AIセンター AIMXユニット営業開発リーダー

藤本 眞一郎
2007年電通入社。メディア部門9年、営業経験6年を経て、企業のビジネストランスフォーメーションのプロデュースおよびコンサルティング業務に従事。オンオフ統合メディアプランニングから企画開発、コーポレートブランディング支援、クリエイティブ制作、プロモーションなどのさまざまな経験を有する。現在、dentsu JapanのAIソリューション開発、およびAIを活用した企業変革支援をリード
*AIX:AI Transformation、AIMX:AI Marketing Transformation

――では、組織における人間の役割はどう変化するのでしょうか。

シバタ将来的に、知的作業の一部はマニュアル化が進み、AIに代替されると推測されます。一方でアメリカの某著名ベンチャーキャピタルのレポートによると、AIに最も代替されにくいのは意思決定やクリエイティブ、コミュニケーションに関わる仕事だとされています。

こう考えると、人間が担うべきなのは、AIにはできない「他者を説得すること」「リスクや責任を取ること」「熱中すること(熱量)」の3つではないでしょうか。人を動かすことや責任を引き受けることは、AIだけでは担えません。不完全な情報で最終判断を下すことも人間の役割でしょう。加えて、一見非合理に見えますが何かに熱中することによって生まれる力も大きく、熱量を持てるかどうかが人間とAIの差になると感じています。

藤本 付加価値の源泉という観点では、「経営戦略、研究開発、商品企画」と「ブランド、マーケティング、PR」の重要性が高まると考えています。前者は、「何を、なぜやるのか」を決める仕事で、独自の技術や問いの設計が必要です。後者は、製品やサービスの価値を「人に届く形」としてより具体化する仕事で、顧客に選ばれるための設計と顧客接点の構築が求められます。

一方で「製造、実行」の工程は、重要性は変わらないもののAIによるマニュアル化・高速化が進み、他社との差別化も難しくなります。こうした事業の構造を、グラフの形が人の笑顔の口元に似ていることから「スマイルカーブ」と呼びます。とくにこのスマイルカーブの両端の領域において、人とAIの共創が欠かせません。

企業変革は「実装」段階が成否を分ける

――企業変革の必要性を認識しながら、実行に移せない企業もあります。なぜ変革は、実装段階で止まるのでしょうか。

シバタ AI時代の企業変革は「戦略の実装段階」が課題だといわれています。その原因は、「現場がやってみようと思える」までのスピードだと考えています。AIが多くの仕事をこなせるようになっていく一方で、AIを業務フローに組み込み、人と共創できる状態にするためには、人同士での合意形成が必要となり時間がかかります。いかにして人間を説得し、早い段階で判断や行動を促すのか。AIの進化に後れを取らないためにも、そこが非常に重要です。

藤本 これまでは、戦略策定と実装は別々のフェーズとされ、経営層が描いた戦略が現場にフィットしないことが少なくありませんでした。現場視点から見ると、ある日突然戦略をポン、と渡されただけでは「現場の意見が反映されている」という納得感を得にくいのではないでしょうか。だからこそ、実装が進まなかったのです。

しかし、AIの発展によって戦略策定の段階で、戦略を具体的な形に落とし込むことが可能になったため、策定と実装を同じチームで担えるようになりました。戦略を描いたチームが動く形としての戦略を確かめ、現場や顧客の反応を聞きながら進化させる――このループをより速く回すことが可能です。

そのため、戦略は整った状態で初めて現場に実装するのではなく、まずプロトタイプとして現場に具現化し、現場の声も聞きながら進化させることをお勧めします。戦略と実装を同じチームで回し、最終的に企業価値や顧客体験の向上につなげることがAI時代には不可欠となるでしょう。

シリコンバレー在住のシバタ氏とは、オンラインで取材を実施した

「企業らしさ」と人を結び付ける変革支援

――そうした中で、dentsu Japan(国内電通グループ)では戦略の実装を含めてどのように企業変革を支援していますか。具体的な事例をお聞かせください。

藤本 ある自動車メーカーのR&D部門の支援では、部門の熱量を高めることがテーマでした。初めは課題の構造化からスタートしましたが、従業員や経営層へのヒアリングを通じて、言葉や論理だけでなく、感覚的に納得すること(右脳での納得)が組織の熱量を高めるカギであることにたどり着きました。

そこで、私たちは「ブランドらしさ」「従業員らしさ」を徹底的に言語化し、ポスターやブランドブックを制作しました。今までも電通はクリエイティブに強みを持ってきましたが、AI時代には「クリエイティブを完成させて終わり」では通用しません。一過性の体験で終わらせるのではなく、その「らしさ」を判断基準としてAIに組み込み、日々の業務で参照できる再現可能な仕組みを構築しました。

藤本 このようにdentsu JapanではBX事業としてAIを活用した企業変革支援に注力しており、この事業を担うBXコンサルタントは390名を超えています(2024年10月時点)。現場と経営層をつなぐ変革を行ううえで、私たちは2つのことを重視しています。

1つ目は、クライアント様への深い理解です。私たちは、例えばクライアントA社から依頼を受けたとして、その同業他社とまったく同じ型での提案はしません。まず「その企業らしさ」を起点に、熱量を持って提案することを意識しています。

2つ目は、その企業ならではのアプローチを、AIを活用して再現可能な形に実装することです。一過性の変革では終わらせず、企業が自走できるようになるまで伴走します。

――最後に、AIを活用して変革に挑む企業に対してメッセージをお願いします。

シバタ AIの社会へのインパクトは、パソコンが出たときに最も近いと考えています。これまでパソコン、インターネット、スマホ、クラウドと4つの波がありましたが、人間の生産性向上に最も貢献しているのはパソコンです。今、パソコンを使っていないオフィスワーカーは見当たりません。数年後にはおそらくAIもそうした形になるでしょう。

結果的にいつか自社でAIを使うとわかっているので、「やらされている感」でAIとの共創に取り組むのではなく、経営層はもちろん従業員も熱量を持ち、楽しくAIを活用して変革する企業が増えることに期待したいですね。

藤本 「スマイルカーブ」の両端にある「自社らしさ」の深掘りと「顧客体験の実装」こそ、電通が今まで培ってきた領域です。AIを活用した多くの打ち手を通じて、自社らしさの定義から実装・実行、「人の心が動く」状態まで伴走し、最終的に企業価値を上げていく真のパートナーとして貢献してまいります。

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