日本企業が直面するDX・AI投資「二極化」の現実
現在、多くの企業が「AI導入」に舵を切っているが、明確な成果に結び付けられている企業は驚くほど少ないという。パーソルクロステクノロジー コンサルティング本部 シニアマネジャーの清水一成氏は現状をこう指摘する。「製造業でいえば、日本企業全体を10とすると、明確な成果を出している企業は全体のわずか2割程度。5〜6割は導入を進めるものの効果を生み出せず、残りの企業は着手すらできていないのではないでしょうか」。
さらに、同社 コンサルティング本部 製造コンサルティング部 部長の松本倫行氏は、成果を出す2割とそれ以外には明確な「二極化」があるとする。「成功企業はROI(投資利益率)を大前提とし、効果が出ないと判断すれば途中で『やめる』シビアさを持っています。一方、成果が出ない企業はデータ整理や業務プロセスの見直しが不十分なまま形式的にツールを導入しています。結果、業務の1〜2割にしか適用できず、経営陣は『導入できた』と満足しても現場は『効果がない』と感じる深刻なギャップが生じるのです」。
というのも、AI活用の難しさは技術進化の速さにあると清水氏は分析する。「従来のERP(統合業務システム)やツールであれば、決められた使い方を習熟すれば成果が出ました。しかし生成AIは進化のスピードが速く、使う側が学び続けないと価値が陳腐化します。常に最新の進化を追いかけ、学習し続ける仕組みを組織のDNAに埋め込まなければ成果は出せません」。
こうした背景から、清水氏は、「過去の成功体験のままではAI導入を成功させることは難しく、AIの場合は学習資産とも呼ぶべき無形資産としてマインドチェンジをしていかなければ手遅れになる」と警鐘を鳴らす。
コンサルティング本部 シニアマネジャー
清水 一成 氏
DX・AIを“資産化できない企業”の共通点
パーソルクロステクノロジーでは、DXやAI導入といったデジタルも、単年で費用対効果を測るだけでなく、無形資産として捉えて価値を生み出さなければ意味がないという考えだ。しかし、多くの企業ではこの「資産化」が進んでいない。AIが単なる「費用(コスト)」として消費されてしまうのはなぜか。そこには大きく3つの共通点があるという。
まず1つ目が「目的が曖昧」な点だ。「他社が導入しているから、といった理由でAI導入プロジェクトを始めると、プロジェクトメンバーや現場はどこを目指していいのかわかりにくい。AI活用で何を成し遂げたいのか――例えば生産性を高めたいのか、売り上げを増やしたいのか――、まずはトップが目的を明確にすることが大切です」(清水氏)。
2つ目は「KPI(業務業績評価指標)のズレ」。目的が明確になっていたとしても、具体的な定量目標に落とし込めなければ掛け声倒れに終わりかねない。例えば生産性向上を目的とした場合でも「人件費削減」「業務工数を削減」「従来のツールをAI化してITコスト削減」など、いくつもの指標が考えられる。それらのどれをKPIとして追うのか、組織として決める必要がある。
「KPIとして『利用率』を追い続けている現場も見かけます。初期フェーズはそれでいいのですが、AIは利用することではなく成果を出すことが目的であり、次のフェーズに移ればKPIも変わるはず。それを含めて全体を設計すべきです」(清水氏)
さらに、PDCAサイクルを回し続ける運用体制が整っていない企業も多く、3つ目は「運用体制の欠如」が大きな課題となる。必要な運用体制は、KPIを見てフィードバックして修正するといったレベルにとどまらない。例えばPDCAサイクルを回して議事録の自動化が進んだとしよう。そこで満足したままだと資産化はできない。
「半年後には新しい大規模言語モデルが出て、事前に参加者が情報を入力しておけば、AIエージェント同士がやり取りして情報をまとめたり提案してくれて、人が集まって会議をしなくても済むようになるかもしれません。AIの進化に合わせて絶えずアップデートできる運用体制があってこそ、AI活用の取り組みは資産となって価値を生み出し続けてくれるのです」(清水氏)

約8万人のパーソルグループで実証した自走ノウハウ
なぜパーソルクロステクノロジーはここまでリアルにつまずきを分析できるのか。それは同社が属する、従業員約8万人、1.5兆円規模の人材サービスグループの内側から、愚直にAI活用を推進し、多くの失敗と成功を経験してきたからだ。
同社はグループ全体のAIの技術支援も担当し、2023年からパーソル版社内GPT(PERSOL Chat Assistant〈CHASSU〉)におけるAI環境の整理をパーソルホールディングスとともに行った。清水氏はその実践体験を基にしたパーソルクロステクノロジーでの取り組みや実践を振り返る。「最初は社員のプロンプト共有が多すぎて失敗もありました。そこでユーザー投票や重複を整理するガバナンスを導入し、自律的な統制が取れる文化へと昇華させました」。
パーソルグループでは、単発の研修にとどまらず「相互学習の仕掛けづくり」にも力を入れている。オープンなコミュニティーの整備や、活用が進む社員を推進リーダーとしてエヴァンジェリストやアンバサダーに任命する取り組みを通じて、社員同士で教え合うカルチャーの醸成に努めたという。また、最新機能に合わせて毎年更新する「学習マップ」も構築している。
導入から1年が経つ頃には、明確な「自走感」が生まれ始めたという。「他社が外部情報を見ながらAIのツール選定に迷う中、私たちは社員が相互学習してAI活用を進める組織になっていました」と松本氏は語る。現在パーソルクロステクノロジーでは、一従業員が作った目標設定支援エージェントが、正式な人事評価システムに組み込まれ公式活用されるまでに進化している。まさに資産化に成功した例だといえるだろう。
コンサルティング本部 製造コンサルティング部 部長
松本 倫行 氏
ブラックボックス化を回避する「中の人」としての伴走型支援
DX・AI導入のビジョン策定や課題の抽出から、施策の提案、開発、さらに組織設計まで、エンド・ツー・エンドで企業を支援するパーソルクロステクノロジーの特長としては次のような点が挙げられる。
「多くの場合、コンサルティングファームは正しい知見を持って、外部から知見を渡すアプローチを取ります。しかし、私たちは人材派遣業で成長したグループの強みがあります。人材を現場に送り込み、課題や業務の実態をお客様と同じ目線で理解しながら、変革を推進できます。つまりお客様の内側から、まるでクライアントの会社の『中の人』のように支援します」と松本氏は語る。近年、現場の最前線に入って自社プロダクトを顧客の課題とすり合わせるFDE(Forward Deployed Engineer)が注目されているが、松本氏は「その言葉ができる前から同じことをやっていた」と胸を張る。顧客企業の自走化を見据えて社内のリーダー育成や運用計画までを現場と設計するパーソルクロステクノロジーの伴走型の支援なら、ブラックボックス化を回避できるのだ。
「ベンダーフリーの立場なので、お客様の既存基盤に合わせて適切な技術をフラットに選定できます。PoC(概念実証)を進める中で『この施策は効果が薄いからやめましょう』と撤退の助言を忖度(そんたく)なくできる点も強みです」(松本氏)
最後に清水氏は、経営層の視座の転換を促す。「日本企業の多くは単年のPL(損益計算書)にフォーカスしがちで、数年かけて投資を回収するBS(貸借対照表)的な経営にシフトしにくい土壌があります。しかし、AI活用を通じて『人がどれだけ使いこなせるようになったか』『組織として自走できるようになったか』という無形の『学習資産』や『組織能力』こそが、これからの最大の企業資産になります。AIがもたらす波を単なるツールの導入としてではなく、組織のあり方を根本から変革する好機と捉えて、まずは一歩を踏み出していただきたいです」。
パーソルクロステクノロジーの「実践知」に基づいたオーダーメイドの伴走は、形骸化したDXに悩む企業にとって持続可能な未来を切り開く支援となるはずだ。
