セキュリティは「企業単独」から「つながり全体で守る」時代へ
――現在、サイバー攻撃の手口はどう変化し、どのように脅威が増していますか。
濱田 グローバルで見ても、サイバー攻撃の脅威は日に日に高まっています。特に、AIの急速な進化によって攻撃は格段に高度化しました。典型的なのが、OSやネットワーク機器などで発生する脆弱性への対応です。
以前は、脆弱性情報が公開されてから攻撃者に悪用されるまで1~2年の猶予がありましたが、今や1日を切っています。もはや、セキュリティ対策にも高度なAIの活用が不可欠です。
――そうした状況の中、セキュリティは企業経営においてどのような位置づけに変わってきていますか。
笠井 リコージャパンは、全国約100万事業所のお客様と日々接していますが、業種・業界を問わず、セキュリティに対する関心が高まっています。
以前は、セキュリティというとIT部門のご担当者と話をすることが大半でしたが、現在は経営企画部門や経営層にお会いすることが増えました。IT部門におけるオペレーションの問題にとどまらず、企業価値そのものを左右する経営リスクとして扱われるようになってきています。
この変化の背景にあるのは、1社が受けたサイバー攻撃がサプライチェーン全体に被害をもたらしている実態です。自社単独ではなく、「サプライチェーンでつながっている企業と同じ水準で守れているか」が問われる時代になってきました。
濱田 まさに、自社だけの個人プレーではなく、サプライチェーン全体のチームプレーでセキュリティに取り組む重要性が増してきたと感じます。
笠井 DXの急速な進展で企業が守るべき領域が大きく広がる中、セキュリティはもはや単なるコストではなく、企業の信頼維持と事業継続のための基盤と位置づけるべき段階に入ってきたといえるでしょう。
さらに、AIによる攻撃の高度化や地政学リスクを背景としたサイバー脅威の拡大により、企業にはこれまで以上に高いレベルでのセキュリティ対策が求められています。
ツール導入だけでは防げない「人材」と「運用力」の壁
――すでに何らかのセキュリティ製品を導入している企業は多いと思われますが、サイバー攻撃の被害件数は高い水準で推移しているとの指摘もあります。「ツールを入れたのに守りきれない」状況を生み出している日本企業のボトルネックは何だとお考えでしょうか。
笠井 セキュリティ製品の導入は進んでいるものの、運用面で課題を抱える企業が少なくありません。ボトルネックとなっているのは人材不足です。
とりわけ中堅・中小企業の多くは、専任のセキュリティ担当を配置することが難しく、情報システム部門を1人で切り回す「ひとり情シス」や、総務・経理部門の複数の担当者がセキュリティ業務も兼務するケースも多く見られます。
そうした企業では、監視・分析をしてリスクレベルを常時認識し、改善につなげていく運用まで十分に手が回っていないことも少なくありません。セキュリティ製品のバージョンが古いまま更新や見直しが十分に行われず、高いリスクを抱えた状態が継続している企業も散見されます。
濱田 日本企業は、セキュリティ対策を「製品やツールを導入すること」と捉えがちですが、サイバー攻撃が日々進化している今、製品やツールの導入だけで守りきれる時代は終わりました。
海外では、CSO(最高セキュリティ責任者)やCISO(最高情報セキュリティ責任者)を配置し、経営会議でセキュリティについて議論して投資額を決めている企業が多いですが、同様にセキュリティを「守りのコスト」から「攻めの基盤」へと転換し、絶えず変化する脅威に適応し続ける人材と体制へ投資する必要があります。
「客観的な共通指標」が取引先の信頼を守る
――セキュリティの運用や体制を強化しようにも、どうすればいいかわからないという企業もありそうです。具体的にはどのように取り組めばいいのでしょうか。
笠井 独自の基準で対策を進めても、取引先に自社の安全性を客観的に証明しにくいという問題が生じます。適切なセキュリティ対策を推進し、かつ サプライチェーン全体の安全性を引き上げるには、セキュリティ水準となる「共通の物差し」に沿って進めることが重要です。
具体的には、「何を実施しているか」だけでなく「どのレベルまで対応できているか」、そしてそれが「継続的に運用されているか」まで可視化することです。そうした取り組みを継続的に進めることが、取引先の信頼を高めることにつながり、結果として企業価値を向上させます。
経済産業省が2026年度中の開始を予定しているSCS評価制度は、そうした好循環を生み出すのに最適な共通指標になると考えています。リコージャパンでは制度開始を見据え、業界に先駆けて取り組みを進めており、お客様への展開や市場への啓発活動を通じて、SCS評価制度の普及・定着にも積極的に貢献していきます。

濱田 日本のGDPを支えているのは、中堅・中小企業です。だからこそ、SCS評価制度のような客観的な共通指標の下、官民が連携し、中堅・中小企業がしっかりとしたセキュリティ対策を維持できる仕組みを整えなくてはならないと思っています。
そうした仕組みを支える取り組みの1つとして、シスコでは世界中で観測される膨大な脅威情報をAIで解析し、その知見をリアルタイムで提供する「グローバル脅威インテリジェンス」に力を注いでいます。
膨大なデータ処理を担うAIと、世界最大級の脅威インテリジェンスチーム「Cisco Talos」の知見を融合させ、迅速にお客様へ共有することで、攻撃の早期発見と被害の最小化を目指しています。
2024年には、日本ベースの脅威インテリジェンスチームメンバーも配置した「サイバーセキュリティCoE」を設立し、グローバルなセキュリティ知見を日本の文脈に合わせて提供できる体制を整えています。
中堅・中小企業のセキュリティ対策を支えるセキュリティ人材を育成
――客観的な共通指標としてSCS評価制度を実装・運用していくうえで、セキュリティの専任担当者がいない中堅・中小企業への支援はどのように考えていますか。
笠井 セキュリティ人材不足は構造的課題であり、人材育成とともに継続的な対策運用の仕組み整備が急務です。
リコージャパンは長年、全国の県警や自治体などと連携した啓発活動を推進してきました。一過性のイベントにとどまらず、地域社会と継続的にセキュリティ意識の向上に取り組む活動として全国に定着しつつあります。
サイバー攻撃が企業の枠を超えてサプライチェーン全体のリスクとなる今、官民が連携して地域全体のセキュリティレベルを高めることはますます重要になっており、当社もその活動に積極的に参画しています。
こうした地域全体の底上げと並行して、専任担当者を置けない中堅・中小企業への個別サポートも充実させていく必要があります。そのため、セキュリティ対策の提案・設計から多層防御の実装・運用までワンストップで伴走支援する「マネージドセキュリティサービス」を強化していきます。
また、それらのサービスを全国のお客様へ届けるため、「セキュリティソリューションスペシャリスト」を2028年までに500名規模へ拡充し、全国での支援体制を整えてまいります。
人材不足が進む中、DXやAI活用は事業の持続的な成長に不可欠ですが、それらはセキュリティなくしては成り立ちませんから、強い課題意識を持って取り組んでいます。

濱田 まったく同感です。デジタル化とセキュリティは両輪で、どちらが欠けても企業の持続的な成長は困難です。
リコージャパン様の「セキュリティソリューションスペシャリスト」をはじめとした人材育成施策との連携や、エンジニア向けの定期勉強会を共催するなど、現場を支えるキープレーヤーとなるセキュリティ人材の育成に貢献していきます。
なお、シスコでは、これまでもITセキュリティ人材を育成するプログラム「ネットワーキングアカデミー」を無償提供してきました。
従来は学生が対象でしたが、2024年度から社会人のリスキリングにも対応し、5年間で国内10万人を超えるセキュリティ人材を育成するという目標を掲げています。初年度で2万5000人を突破し、前倒しで達成できる見込みです。
セキュリティ強化への継続的な取り組みが企業価値を高める
――セキュリティ強化に取り組む中堅・中小企業の経営者へメッセージをお願いします。
濱田 セキュリティと聞くと対岸の火事のように感じるかもしれません。事業を止めてしまうという観点に立てば、自然災害やパンデミックなどとリスクは同等です。単なる技術的課題ではなく、ビジネスレジリエンスを揺るがす経営リスクとして捉え、全社的な視点で推進するマインドセットを持つことが重要です。
高度化・高速化するサイバー攻撃に対応するには、AI活用が前提です。人口減少が進む中、AIを使わないという選択肢はありません。日本企業には、蓄積された暗黙知など、AIによって競争力を高められるアセットも豊富にあります。人材育成とともに、サプライチェーン全体でチームプレーとして取り組むことで、持続可能性を高めつつ新たな価値も生み出せます。
シスコはそうしたエコシステムを生み出すため、セキュリティを複雑化しないように、一元管理できて運用負荷を軽減する統合セキュリティツールの開発を進めています。リコージャパン様をはじめ官民関連組織との連携も強化し、日本社会全体のレジリエンス向上に貢献していきたいと考えています。

笠井 今後、AIの進化とDXの加速によって、企業の競争力はこれまで以上にデジタル活用の巧拙によって左右される時代になります。一方で、その利便性を狙ったサイバー攻撃も高度化・巧妙化しており、「DXかセキュリティか」ではなく、「DXとセキュリティをいかに両立するか」が経営の重要テーマになっています。
これから企業に求められるのは、単に製品やツールを導入することではなく、それらを継続的に活用しながら、安全かつ安心して事業成長につなげていくことです。だからこそ、SCS評価制度のような共通指標を活用し、自社のセキュリティ状態を常に可視化して継続的に改善を重ねていくことが重要です。
当社は、中堅・中小企業を中心とした全国のお客様のDX推進を支援してきた知見と、長年培ってきたセキュリティのノウハウを有しています。
DXによる業務変革とセキュリティによる事業継続、その両立を支援できることこそが私たちの強みであり、これからの企業経営において提供すべき価値だと考えています。そうした取り組みが、企業価値の向上とサプライチェーンにおける信頼性強化につながると確信しています。
リコージャパンは、シスコシステムズ様をはじめとするセキュリティパートナーと連携しながら、お客様が安心してAIを活用し、DXを推進できる環境づくりを支援し、安全で持続可能なデジタル社会の実現に挑戦し続けます。
