資産形成が進んだ先に見える課題
新NISAの普及によって、個人投資家の資金は米国株を中心に世界株式のインデックスファンドへ大きく流入している。インフレや円安を背景に、「預貯金だけでは将来に備えられない」という意識が広がったことが大きい。
ただ、投資を始めることと、投資を続けることは別の問題である。資産形成が順調に進み、運用資産が大きくなればなるほど、投資家はこれまで経験したことのない値動きと向き合うことになる。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの取締役副社長 最高投資責任者の新原謙介氏は、多くの投資家が見落としがちなポイントとして、「損失率ではなく損失額」を挙げる。
「投資を始めた当初は、相場が下落しても損失額はそれほど大きくありません。しかし積み立てを続けて資産が1000万円になれば、30%の下落は300万円の評価損になります。投資額が増えるほど、同じ値動きでも受けるインパクトは大きくなります。参考までに、リーマンショックで米国株式は円建てで60%を超える下落を記録しました」
現在の米国株市場にはAIをはじめとする成長期待が織り込まれている。そのため、株価水準やドル高(円安)も含め、市場には楽観的な見方が反映されているとの指摘もある。
「米国経済や企業の成長力を否定しているわけではありません。ただ、株価やドル円の水準を見ると、楽観的な期待がかなり反映されていると考えています。将来どこかで大きな調整が起こる可能性は意識しておくべきでしょう」
新原氏は、米国株投資そのものを否定しているわけではない。むしろ投資を始めたばかりの人であれば、まずは積み立てを継続することが重要だと考えている。
「資産形成の初期段階では、株式中心の運用は合理的な選択肢です。ただ、資産が成長した後も同じ考え方でよいとは限りません。どこかのタイミングで分散投資について考える必要があります」
資産形成の目的は、資産を増やすことだけではない。市場環境が変化しても資産を守りながら成長させることにある。そのためには、株式以外の資産を組み合わせるという発想が欠かせない。そこで新原氏が有力な選択肢として挙げるのが金である。金はポートフォリオの中でどのような役割を果たすのだろうか。
金がポートフォリオで果たす役割
株式だけではリスクが高いとすれば、次に考えるべきは何に分散させるかだろう。分散投資の対象としては債券や不動産などさまざまな選択肢があるが近年、改めて注目されているのが金である。
ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントのゴールド・ストラテジストのアーロン・チャン氏は、金の最大の特徴として他資産との相関の低さを挙げる。
「長い歴史で見ると、金はほかの資産との相関が比較的低いのが大きな特徴です。つまり、株式や債券とは異なる値動きをする傾向があります」
分散投資では、異なる値動きをする資産を組み合わせることが重要になる。同じ方向に動く資産ばかりを保有していては、市場が下落した際に十分な効果を得られないからだ。
チャン氏によれば、過去20~30年のデータでは、金と主要資産との相関係数はおおむね低い水準にあるという。
「最も高いものでも米国債との相関係数は約0.3程度です。ほかの資産についても比較的ゼロに近い相関係数が確認されています」

こうした特徴は、株式市場が大きく下落した局面で特に意味を持つ。
「S&P500指数が大きく下落した局面を振り返ると、金は比較的堅調に推移する傾向があります。必ず上昇するわけではありませんが、株式とは異なる動きをする可能性があります」

さらに金には、株式や債券とは異なる本質的な特徴がある。企業や国家の信用に依存しないことだ。
「金は発行体リスクのない資産です。その点がほかの金融資産にはない特徴です」
企業業績や財政状況に左右されない資産だからこそ、不透明な市場環境の中で一定の役割を果たすと考えられている。
実際、金を組み入れたポートフォリオの分析では、リスクを抑えながら運用効率を改善する傾向も確認されている。
「過去20年間のデータでは、金を組み入れることでリスクを下げながらリターンを改善する傾向が見られました。結果として、リスク調整後にリターンの向上が期待できます」

金は株式の代わりになる資産ではない。しかし、株式だけでは補えない役割を果たすことで、ポートフォリオ全体の安定性向上に貢献する。資産形成を長く続けるための土台として、金を活用する意義があるといえそうだ。
機関投資家も選ぶ金ETF
金の分散効果や長期的な価値に魅力を感じても、「実際にはどう投資すればいいのか」と迷う投資家は少なくない。金地金(じがね)や金貨など現物を購入する方法もあるが、現在、機関投資家の間で主流となっているのはETF(上場投資信託)を活用した投資だ。
その理由は、金地金を保有する場合の保管や管理の負担を避けながら、金価格に連動した投資ができる点にある。チャン氏は「金ETFは現物の金を裏付け資産として保有しています」と説明する。現物を購入・保管することなく、株式と同じように売買できることが大きな特徴だ。
中でも、同社が運用する「SPDR GLD(スパイダー ゴールド・シェア)」や「SPDR GLDM(スパイダー ゴールド・ミニシェアーズ)」は、世界の投資家に利用されている代表的な金ETFだ。
「『GLD』は世界最大級の金ETFで、高い流動性を備えています。一方、『GLDM』は低コストを重視した商品です。いずれも機関投資家を含む幅広い投資家に活用されています」(チャン氏)
もっとも、新原氏は商品選び以前に重要なことがあると話す。それは、まず金という資産に触れてみることだ。
「まずは1万円でもいいので持っていただきたいと思います。実際に保有すると、株式とは異なる値動きや役割が見えてきます」
金投資というと大きな資金が必要に思われがちだが、資産形成の観点では少額から始めれば十分だという。保有を通じて特性を理解し、自身のポートフォリオの中でどのような役割を果たすのかを確認することが大切だからだ。
そのうえで、新原氏は組み入れ比率の目安を挙げる。
「過去の分析結果などを見ると、5~10%程度が1つの目安になります。いきなり大きな金額を投資する必要はありません」
海外ETFへの投資になじみのない個人投資家もいるだろう。その場合は国内上場の商品も選択肢となる。
「日本の投資家であれば東証上場の金ETFも有力な選択肢です。低コストで金に投資でき、NISAの成長投資枠も活用できます」
株式だけに依存しない資産形成を考えるなら、金は有力な選択肢の1つだ。そして、その第一歩として活用しやすいのが金ETFである。まずは少額から保有し、自身のポートフォリオの中で役割を確認してみることが、長期的な資産形成につながるだろう。
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