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AIネイティブな6G時代、日本はどう戦うか。通信インフラと周波数戦略が握る日本のデジタル競争力

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6GではフィジカルAIの実装やVR/ARの発展などさまざまな応用が期待されている
  • エリクソン・ジャパン 制作:東洋経済ブランドスタジオ
AIが社会やビジネスのあり方を根底から変えつつある中で、それを支える通信インフラの重要性が増している。AI時代の競争力を支える基盤をどう構築すべきか。国内外のキープレーヤーが集結する無線通信の展示会「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク」でその道筋を示したのが、通信インフラ大手のエリクソンだ。基調講演とパネルディスカッションに登壇した同社 アジア太平洋地域 最高技術責任者のマグナス・エヴァブリング氏と、同CTOオフィス 先端技術担当ディレクターのホーカン・オロフソン氏の提言から、日本のAI競争力を左右する次世代インフラの「あるべき姿」をひもとく。

「インテリジェントファブリック」として進化する通信インフラ――分散知能を加速する基盤

「テキストや動画を同時に処理できるマルチモーダルAI、ロボットやヒューマノイドなどのフィジカルAI、スマートグラスを用いたAR(拡張現実)など、未来像として描いていたものを使いこなせる時代が、目の前にやってきています。これらをどこにいても確実に活用できるようにするには、信頼性の高いモバイルネットワークが不可欠です」

エリクソン アジア太平洋地域 最高技術責任者のマグナス・エヴァブリング氏は、講演の冒頭でそう語った。

「5G Advancedから6Gへ ― AIとともに進化するモバイルネットワーク」と題した講演を行ったエリクソン アジア太平洋地域 最高技術責任者のマグナス・エヴァブリング氏

これまでのITシステムやAIを支える通信インフラは、効率やコストの面からデータセンターに集約する中央集権型が主流だった。しかし、自動運転や産業用ロボットなど、リアルタイムの反応が求められるデバイスやセンサーへAIが組み込まれるようになると状況が変わる。

AI同士が絶えずやり取りし、マシンの速度で瞬時に協調・学習するのを支えるには、遠くにあるデータセンターを経由する従来のインフラでは対応しきれないのだ。だからこそ、AIの処理をネットワークの至る所に分散させ、どこにいてもAIのポテンシャルをシームレスに享受できる、分散型の新たな通信基盤が必要となる。

「膨大な数に上るデバイスやセンサーをつなぐには、AIとクラウド、モバイルネットワークを融合させた統合インフラを構築する必要があります。エリクソンは、それを『インテリジェントファブリック』と定義しました。さまざまなAIシステムが、場所や開発元を問わず安全かつ安定したパフォーマンスで連携できるよう設計した普遍的なフレームワークです」(エヴァブリング氏)

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AI時代を支える通信インフラの統合基盤、「インテリジェントファブリック」のイメージ。AIとクラウド、通信を統合した基盤上で、大規模なデジタルツインやフィジカルAIが動作する

AIの通信インフラは、日本の成長戦略にも影響する

「インテリジェントファブリック」は、どのような価値をもたらすのか。

エリクソン アジア太平洋地域 CTOオフィス 先端技術担当ディレクターのホーカン・オロフソン氏は、講演の中で「ソリューションの設計段階でのアプローチが変わるため、市場での競争優位性を確保できる」と述べた。

「自動運転の車やロボットを設計する際、信頼性の低い通信環境を前提とすれば、必然的にパフォーマンスにも制限が生じるでしょう。しかし、AIとクラウド、モバイルネットワークを統合した基盤である『インテリジェントファブリック』によって安定した通信インフラが整えば、無駄のない細かな動きを想定した設計が可能になり、強力なソリューションが実現します」

「Region 3(アジア太平洋地域)における周波数の展望と地域成長への重要性」と題した講演を行ったエリクソン アジア太平洋地域 CTOオフィス 先端技術担当ディレクターのホーカン・オロフソン氏

特に日本は、「インテリジェントファブリック」を確立することによる成長余地が非常に大きいとオロフソン氏は続ける。

「日本政府が推進する『日本成長戦略』において、AI・半導体や航空・宇宙、創薬・先端医療など、戦略17分野の大半が通信インフラを必要としています。『インテリジェントファブリック』によって精度の高いソリューション設計が可能になるだけでなく、ほかの戦略分野と結合することで、さらなるシナジーを発揮することも期待できるでしょう」

5G SAからAIネイティブな6Gへ――インテリジェンスをスケールで実現する進化

次世代のネットワークをどう実現するか――そう聞けば、従来のネットワークをゼロからつくり直す必要があると考えがちだ。

ところがエリクソンは、その考えを否定する。それどころか、エヴァブリング氏は「ネットワーク側での準備はすでに始まっている」とまで述べた。

「デバイスやセンサーをグループ化し、適切にネットワークへ組み込むには一定の時間がかかります。しかしネットワークは、従来の通信インフラをリセットするのではなく、進化させることで実現できます」(エヴァブリング氏)

基地局のイメージ

なぜ現在のネットワークがそのまま使えるのか。その答えは、すでに日本で人口カバー率が98.4%(2024年度末現在)に達している5Gネットワークにある。

「現在の5GネットワークにはすでにAIが導入されています。とりわけ、5G専用の設備だけで通信する5G SAには、AIがネットワークを自律的に最適化する機能が標準で組み込まれ、AI同士の膨大なデータ通信にもすぐに対応可能です」(エヴァブリング氏)

これは、6Gへの橋渡し役を担う通信規格「5G Advanced」でも同様だという。つまり、既存の通信インフラは、現状展開されているサービスに影響を与えることなく、6Gの基盤としても機能することを意味する。

今後6Gによって通信性能が飛躍的に向上すれば、大規模なデジタルツインや、産業用ロボット、自律型ドローンといったフィジカルAIの本格実装も可能となる。

数々の先端技術で「周波数帯」を無駄なく使い切る

見逃せないのは、エリクソンがこれらを遠い未来のビジョンと捉えるのではなく、いち早く足元の課題解決に取り組んできたことだ。オロフソン氏は次のように説明した。

「大きく2つの取り組みを進めています。1つは、上り通信(アップリンク)の技術革新です。今後、スマートグラスやロボティクスの普及により、デバイスからの上りのデータ量は大幅な増加が見込まれます。アップリンク品質をいかに高めるかが重要となるため、エリクソンはMassive MIMO(マッシブマイモ)技術(※)を活用し、データ送信速度を向上させています」
※Massive MIMO:多数のアンテナを組み合わせてデータを効率よく送受信できるようにする技術

Massive MIMOは、アンテナのサイズが大きいなどの理由から日本での普及率が上がらなかったが、エリクソンは何年もかけて小型化・軽量化を実現。同じ周波数帯から引き出せる通信容量を大幅に高めることに寄与している。

エリクソンが提供するMassive MIMO無線機

「周波数帯は有限な公共の資産です。無駄なく使い切ることで『責任を持って使用する』ことにつながると考えています」とオロフソン氏。「基地局の数を維持しつつ、6Gに向けて通信容量を拡大させる」という2つ目の取り組みにも、そのスタンスは通底している。

「6Gの実用化に向け、新たな6〜8GHz帯の活用が計画されており、将来のトラフィック増加に対応するための大幅な通信容量の拡大が期待されています。高い周波数帯を使用しながらも、最新のアンテナ・無線技術を活用することで、6〜8GHz帯の200MHzでも大規模なカバレッジとモビリティ性能の向上が実現可能であることが研究で示されています。

これにより、通信事業者は既存インフラを最大限に活用しながら通信容量を効率的に拡大でき、新たな基地局の大規模展開を抑えつつ、6Gへシームレスに移行することが可能になります」(オロフソン氏)

具体的には、上り(アップリンク)と下り(ダウンリンク)の通信で、それぞれに適した周波数帯にデバイスを制御する信号を設定することで、障害物があっても安定した送受信を確保する技術や、複数キャリアの周波数帯を束ねて1つの太い通信回線として使用する技術を活用。さらに、ネットワーク自体にAIを組み込み、障害物の変化や電波干渉による通信品質の低下をリアルタイムで把握する仕組みなども整えている。

いずれも実地試験やシミュレーションを重ねることで、周波数の利用効率向上やカバーするエリアの拡大につなげており、エリクソンが次世代通信インフラの領域を牽引しようとしていることが伝わってくる。

一方で、こうした先端技術を社会に実装していくうえで、今後の焦点となるのが国による周波数政策だ。オロフソン氏は、日本が次世代ネットワークの進化とイノベーションを主導していくための重要なポイントの1つとして、既存の基地局をそのまま活用できる「6GHz帯上部」や「7~8GHz帯」の優先的な確保を挙げた。

アジア太平洋地域を含む世界の主要国では、すでに6GHz帯上部の活用に向けた決定が進み、エコシステムが形成されつつあるといい、「通信事業者が安心して設備投資を行えるよう、まとまった帯域幅の確保や、利用ルールを早期に整備することが求められます」と指摘した。

6G時代に向けたAI活用やグローバルの6G周波数の現状と展望が解説・議論されたセッションに、多くの参加者が聞き入った

AIの「予期せぬ挙動」は誰が責任を負うのか

技術革新が進み、ネットワーク全体にAIが組み込まれるようになると、「AIが予期せぬ挙動をしたとき、誰が責任を取るのか」という問題も生じうる。

パネルディスカッションでそう問われたエヴァブリング氏は、まず次のように前置きした。

「通信事業者は、ベンダーから何がどのレベルで提供されるのか予測できる必要があります。私たちは、その予測可能性をSLA(サービス品質保証)を通じて提供します」

そのうえで、こう続ける。

「エリクソンは、契約上の約束に従い、通信事業者に『どんな品質をどのように提供するか』を明確に提示し、その範囲については責任を持ちます。

ハードウェアからソフトウェア、運用まで提供する場合は、パフォーマンスの調整やさまざまな課題の解決にも積極的に関与します。ビジネスの成功を支援することで、共に恩恵を享受するパートナーでありたいと思っています」(エヴァブリング氏)

「差別化されたコネクティビティ」とAIが持続的な成長を牽引する

こうした取り組みは、単に5Gの通信性能を6Gに向けて進化させるためだけのものではない。通信業界全体の収益力を強化するという、より広範な取り組みの一環でもある。

AIはネットワークの構築・運用効率を高め、差別化されたコネクティビティはネットワークの収益化を改善する。この両者が相まって、通信事業者は通信サービスを提供するサービスプロバイダーから、インテリジェントなデジタルインフラプラットフォームを提供するプロバイダーへと進化しつつある。

より高い利益率、新たな収益源、そして持続的な成長を生み出すこの変革の中心に据えられているのが、「インテリジェントファブリック」だ。

エヴァブリング氏は、パネルディスカッションにおいて「AIを融合させた次世代ネットワークで、実際に利益を獲得するのは誰か」と問われ、次のように答えた。

「通信インフラ市場に参加しているすべてのプレーヤーが、健全な利益を獲得すべきだというのが私の信念です。しかし、とりわけ通信事業者は、それを達成してきたとはいえないでしょう。直近10年間でモバイルデータ量は急激に増え、私たちは片時もスマートフォンを手放さず、常に接続された状態が当たり前になりました。

この需要に応えるために、事業者は継続的な投資を続けてきましたが、利用者が支払う料金はむしろ下がる傾向にあり、多くの事業者の収益はトラフィックの伸びに見合っていません。では、収益を向上させるにはどうしたらいいか。カギを握るのは、『差別化されたコネクティビティ』だと考えています」

例えば自動運転や遠隔医療といった一瞬の遅れも許されない用途には、これまでの標準的な通信方式である、通信速度や品質を保証しない「ベストエフォート型」の通信は向かない。ネットワーク機能を用途に応じて仮想的に分割する「ネットワークスライシング」を使用することで、求める水準に応じた付加価値の高い品質を提供し、収益力を高めることができるという。

「こうしたサービスは、1社だけで提供できるものではありません。アプリケーションベンダーやクラウドベンダーなどと連携することが不可欠です。パートナーと共創することで、『インテリジェントファブリック』だけでなく、確かな品質と安定した収益を生み出すエコシステムを構築していきたいと考えています」(エヴァブリング氏)

「連続的な進化」が6Gへつながる

エヴァブリング氏は、AIネイティブな6G時代に期待される明るい未来は、6Gが始まるその日に突然現れるわけではないと強調する。すなわち、それは断絶的なリセットから生まれるものではなく、5Gや5G Advancedがすでに形づくり始めている連続的な進化の先に実現するものだと語る。

同氏によれば、AIネイティブなネットワークへの進化はすでに実ネットワークの中で進行しているという。エリクソンはAI対応RANなどのソリューションを通じて、通信事業者がユーザーへ常により良いサービスを提供できるよう、日々事業者やパートナー企業と協業を進めている。

10年ごとの世代交代を待つのではなく、その間も一歩ずつ明るい未来に近づけていく――そして6Gで何ができるかを語るだけでなく、その土台をすでに築き始めている。それがエリクソンのスタンスだ。

見方を変えると、スマートフォンやPC上でリッチな動きをするアプリケーションや、華々しいAIモデルの進化に人々の目が奪われがちな現代において、通信インフラという「見えないインフラ」はエリクソンの言うインテリジェントファブリックと呼べる姿へと着実に近づきつつあるということだ。

本格的に6Gへ移行する前に、いかにそのエコシステムを構築できるか。AI時代の日本の競争力を決定づける「10年の戦い」は、静かに始まっている。

>エリクソンの基調講演・パネルディスカッションについて詳細はこちら