底堅いGDP成長率、EUや中南米を見据えた拠点に
人口約5000万人のスペインは、EU加盟国の中で4番目の経済規模を誇る。観光大国のイメージが先行するが、投資環境の整備も進んでいる。駐日スペイン大使館の経済商務部所長であるゴンザロ・ラモス氏は次のように説明する。
駐日スペイン大使館 経済商務部所長 ゴンザロ・ラモス氏
「1980年代の製造業中心の成長から、EUの通貨統合、グローバル化へと至る過程で、スペインは常に時代の要請に応じた構造改革を繰り返してきました。外資を積極的に受け入れるオープンな市場を構築し、現在、対内直接投資はGDPの約5割を占めます。外資との共存共栄が国力の源泉であり、スペインの揺るぎない強みでもあります」

経済成長も底堅く、GDP成長率はEU平均を上回っている。
「堅調に推移している個人消費や公的支出の数値も、投資先としての安定性を示しています。製造業の観点からは、例えば、自動車産業の領域では、約1000社の部品メーカーが150カ国以上に展開しています。モノづくりの基盤があり、日本の部品メーカーがスペイン企業と組むことにより、スペイン企業が擁する海外拠点を通じてより広いエリアへ供給網を広げることも可能です。こうしたアライアンスは、日本企業がグローバルサプライチェーンを再設計するうえで有力な選択肢になるでしょう」(ラモス氏)
スペインへの投資が持つ価値は約5億人EU市場への自由なアクセスだけにとどまらない。歴史的なつながりから中南米・北アフリカへのゲートウェイ機能を持ち、とりわけ南米での直接投資では大きなポジションを占めている。
「ラテンアメリカのほかにも、スペインは、モロッコをはじめとする北アフリカにも強い足場を築いています。スペイン企業への投資は、そうしたエリアへアクセスするための有力なゲートウェイとなりえます。実際、日本の大手IT企業や大手金融グループの中には、スペインを足がかりにグローバル展開を推進している企業もあります」と語るラモス氏は、さらに強調する。
「不確実性が高まる環境の中で、企業は継続的にサプライチェーンや生産力を守っていかなくてはなりません。そのためにはアジアパシフィック地域を越えて、投資先を多様化していくことも選択肢に入ってくるでしょう。長年にわたり日本の企業と強固な協力関係を築いてきた歴史があり、価値観を共有しているスペインはその受け皿として、安定した環境を提供していきます」

活発な新規投資、再生可能エネルギーにも注力
スペインでの新規投資の活発さも目を引く。ゼロから新規事業を立ち上げるグリーンフィールド投資では、ここ数年、新規プロジェクト数が高い水準で組成されている。注目すべきはボリュームだけではない。高付加価値領域への投資が増えており、スペインは生産拠点や販売市場を超えた事業基盤として評価されているという。
「本社機能、ICT、インターネットインフラ、研究開発など、高付加価値な活動への投資も多く見られます。量だけでなく、質の高い投資が行われている点が近年の特徴です」(ラモス氏)

スペインが日本企業の戦略的投資先として注目されるもう1つの柱が、太陽光、風力、水力といった再生可能エネルギーだ。2024年には総発電量の50%以上を再生可能エネルギーが占めており、2030年に向けてその比率は80%まで高まる見通しだ。実際、こうした再エネの発電環境と競争力のあるエネルギー価格に着目し、近年ではデータセンターなどの進出が目覚ましいという。昨今、再エネの価値は脱炭素という側面だけではなく、エネルギー安全保障の観点からも重要性が指摘されている。ラモス氏は、その戦略的優位性を次のように説く。
「スペインは再生可能エネルギーによる発電で多くの経験とノウハウを積んできました。再生可能エネルギーの産業基盤もあり、グリーン水素といった新しい取り組みも始まっています。さらに、再エネとデジタル基盤が融合する領域での投資が加速しており、ITインフラの拡充と相まって、スペインはヨーロッパにおけるグリーン・デジタル・ハブとしての地位を確立しつつあります」
オリックスがスペインに進出した理由とは
スペインのポテンシャルに早くから着目し、現地で再エネ事業を展開してきたのがオリックスだ。
再エネ事業の起点は、風力発電事業への出資を開始した1995年までさかのぼる。2012年に始まった日本の固定価格買取制度を契機に国内で太陽光や地熱などの取り組みを本格化。現在は戦略的投資領域の1つに再生可能エネルギーを掲げている。取締役兼代表執行役社長・グループCEOの髙橋英丈氏は、次のように語る。
取締役兼代表執行役社長 グループCEO 髙橋 英丈氏
「再エネは日本固有のテーマではありません。国内だけを見るのではなく、海外を含めて最適な事業機会を捉えていくことは、当然の判断でした。その戦略的な拠点の1つとして照準を定めたのが、再エネの先進市場であるヨーロッパです。成熟した制度、高度な技術、そして豊富な事業ノウハウが蓄積されたヨーロッパ市場への進出は、グローバル展開を目指すために極めて重要でした」
もっとも、海外市場でゼロから事業基盤を築くには、時間もノウハウも必要になる。そこでオリックスが選択したのが、現地で実績を持つ企業との連携だ。2021年、オリックスはスペイン・マドリードに本社を置く再エネ企業、Elawan Energy S.L.(エラワン・エナジー、以下「エラワン」)の株式80%を取得し、2年後には同社を100%子会社化した。
エラワンの設立は2007年。風力・太陽光発電所の開発・運営を手がけ、スペインをはじめヨーロッパ、北米、南米などで事業を展開してきた。髙橋氏は、買収の決め手をこう説明する。
「私どもが出資を発表した2020年当時、エラワンは世界14カ国で事業を展開し、累計約2.9ギガワットの開発実績や10ギガワット超の開発パイプラインを有していました。
風力と太陽光の発電所開発で長い歴史を持ち、経営陣も経験豊富でした。エラワンの買収によって、当社が描いていた発電所の建設から運営までを一貫して担えるプラットフォームの獲得も実現しました。スペインだけでなく、ヨーロッパやアメリカを中心に事業を展開する企業であり、再エネ事業のグローバルプラットフォームとして期待できたことも、買収を決めた大きな理由の1つです」
さらに、2024年にはエラワンを通じて、スペインの水力発電事業者も買収した。太陽光や風力は天候に影響を受けやすい一方、水力は比較的安定した発電が見込める。異なる発電特性を組み合わせたポートフォリオによって、再エネ事業全体の安定性を高める考えだ。
スペインでの再エネ事業が進化していく
買収プロセスでは、対内直接投資に関する認可手続きも必要だ。その過程では駐日スペイン大使館とのコミュニケーションを取った。髙橋氏は当時を振り返る。
「私も駐日スペイン大使館に直接足を運び、商務担当の方々に相談させていただきました。実際に外資とともに産業を育てていく姿勢を感じました」
海外投資を取り巻く環境は変容を続けている。投資先としての安定性も、スペインを選んだ理由の1つだ。
「EU加盟国であり、法制度も整っていますので、大きなリスクを強く意識することはありませんでした」(髙橋氏)
人材面でも、ヨーロッパ内での人件費の競争力に加え、言葉の優位性もあるという。
「言葉の壁は特に感じませんでした。英語でのコミュニケーションもスムーズにできますし、勤勉で仕事への姿勢も前向きな方々が多い。ヨーロッパだけでなく、中南米のスペイン語圏の市場に展開していくうえでも、スペインの人材や経営陣は大きな力になると感じています」(髙橋氏)
買収から数年を経て、現地の事業運営は軌道に乗っているという。今後、スペインでの事業展開について、髙橋氏はこう展望する。
「1つは事業領域の拡張です。既存の再エネ発電所への蓄電設備の併設や、データセンターなど周辺領域への展開を視野に入れています。もう1つは、アセットマネジメントへのシフトです。発電所を保有・運営し続けるモデルはバランスシートを圧迫しかねません。そこでファンドを組成し、私どもは運営を行う。いわば、資本の制約を超えた事業拡大を目指しています。売電面では、政府主導の固定価格制度から、売電先の企業と直接契約を結ぶコーポレートPPAへ、さらにエネルギートレーディングへと市場が進化しつつあります。大きな再エネ発電容量を持つスペインを拠点に、新たな事業機会を積極的に取りにいきたいと考えています」
オリックスの事例が示すとおり、スペインの企業とのアライアンスを通じて獲得した事業と顧客基盤を自社のポートフォリオに組み込むことは、重要な意味を持つ。
外資のグローバル展開を支える戦略拠点として今後もスペインの動向に注目だ。

