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AIによる収益化の「期待と現実のギャップ」をどう埋めるか。IBMが示す、日本企業が現状を打破する「AI変革」5つの勝ち筋

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AI変革を実現する「5つの勝ち筋」とは。日本IBM 常務執行役員の川上結子氏に聞いた
  • 日本アイ・ビー・エム 制作:東洋経済ブランドスタジオ
AIへの投資を増やす企業が世界中で増えている。しかし、収益向上に直結する変革を実現できている企業は決して多くない。日本企業もその例外ではなく、AIの恩恵が「部分的な業務効率化」にとどまっているのが現実だ。AIによる変革で、企業はどう勝ち筋を描けばいいのか。その処方箋を示すのが、IBMのレポート「エンタープライズ2030 AIと拓く、5つの勝ち筋」だ。日本版の監修をした日本IBM 常務執行役員の川上結子氏に、同レポートの要諦と、持続的成長を実現するAI変革に必要な打ち手を聞いた。

AIへの期待は高いが、収益化の道筋が描けていない

IBMが2026年3月に公開した「エンタープライズ2030 AIと拓く、5つの勝ち筋」(以下、「エンタープライズ2030」)は、日本を含む世界の経営層2000人以上に対して実施した調査を基にまとめたレポートだ。

日本版を監修した日本IBM常務執行役員の川上結子氏は、「世界中の経営者が本気で進もうとしている方向を取りまとめたもの」と説明する。

「レポート名にある2030年は、不確実性の高い今でも、ある程度見通すことができるタイミングです。世界中の経営者の視点を提供することで、ムーン・ショット(野心的な目標)の設定や変革の実行計画策定に役立ててほしいとの思いがありました」

では、世界の経営者は何を見据えているのか。端的に示しているのが、「AIは2030年までに自社の収益に大きく貢献する」と回答した経営者の割合だ。グローバルで79%、日本で82%と多数を占めている。

一方で、2030年の自社の収益源が明確に描けている経営者はグローバルで24%、日本は17%にとどまった。期待が高いのに具体像が描けていない現実がある。

「日本企業は『失われた30年』を取り戻そうという思いが大きい半面、テクノロジーの進化の速さに右往左往し、勝ち筋を描き切れていない現状があるとみています」と話す川上氏。しかし、人口減少が加速している日本で、自動化と高度化を同時に推し進められるAIへの期待が高まるのは必然だという。

「世界においても期待と現実のギャップが大きく、明確な正解を見つけられていない今は、日本企業にとって、世界に抜きん出る『一発逆転』のチャンスでもあります。だからこそ、まだ間に合うこのタイミングで『エンタープライズ2030』を公開した意義は大きいと考えています」

ソフトウェア型の組織が求められる切実な理由

そもそも、AIが「自社の収益に大きく貢献する」とはどんな状態なのか。

「エンタープライズ2030」の序文には、「重要なのは、既存の業務にただAIを『後付け』すればいいということではない。AIファーストのエンタープライズへ大きく舵を切ることだ」と記されている。AIファースト、つまりAIを前提とした組織へ変わる必要がある。

「AI前提の世界では、誰もがAIをフル活用します。当然、意思決定や軌道修正のスピードが求められるようになります。プロセスが固定化されたハードウェアのような組織から、柔軟に組み替えられるソフトウェアのような組織に変わらなければなりません」

日本IBM 常務執行役員
コンサルティング事業本部 成長戦略統括事業部担当
川上 結子

このような組織を、レポートでは「スマーター・エンタープライズ」と定義している。変革そのものを経営のDNAに取り込み、あらゆるやり取りとその成果を糧としてよりスマートに、より速く、より高い対応力を備えた存在へと進化し続ける組織だ。

そして、AIと共存して人の能力を最大化する組織でもあると川上氏は話す。

「人を前提とした組織だと、人とAIを置き換えるという話になりなかなか変革が進みません。しかし、AIが組織の中に入るという前提で考えれば、人の能力を拡張することを視野に入れてAIと連携した組織体系や業務フローを設計することもできます」

業務プロセスやルール、人材・スキルを現場起点で磨き込んできた日本企業にはハードルが高そうに見える取り組みだが、川上氏は「実は日本との親和性は高いと思っています」と語る。

「日本では、昔からロボットと人が共存するマンガやアニメが人気を集めてきました。ロボットと友達になり、共に問題解決に取り組む様子をごく自然に受け入れてきたんです。AIとの関係も、それと同様になれるのではないかと思っています」

必ず成果につなげる「フライホイール型アプローチ」

では、スマーター・エンタープライズとなって、2030年に勝ち残るにはどうすればいいのか。「エンタープライズ2030」は、以下の5つの勝ち筋を提示する。

1.大胆な賭け
2.原資創出
3.独自データ&AI
4.組織・人材
5.量子×AI

1つ目の「大胆な賭け」は、AIが持つパラドックス性が背景にある。AIは本来の力を最大限に引き出せば差別化された価値をもたらすが、思考の代替として使うと均質化を招いてしまう。だから、リスクをとって創造性のあるアイデアに大胆に賭け、競合他社に先んじて迅速に実験することが重要となる。

川上氏は「この『大胆な賭け』をPoCで終わらせず、成果が出るまでやり切ることが大切です」と話す。それが2つ目の勝ち筋である「原資創出」につながっていく。原資とは、成長投資のそれだ。

具体的には、まず既存のビジネスモデルの枠内でAIを活用して生産性を向上させる。その利益を成長投資に回すことで、さらなる成長を呼び込む。

「これを『小さく始めて大きく変える』フライホイール(弾み車)型アプローチで進めるのがポイントです。確かな成果を次の原動力に振り向けながら影響範囲を広げていく。そうすることで、不透明な環境下でも慎重に確証を得ながら変革できます。

多くの日本企業が『スモールスタート』と言いながら、効果の検証もうやむやなままPoC止まりになっています。結果が出ていない以上、それはフライホイールの『スタート』にすら立っていません。成果を出し、その利益を投資に回すことで初めて、利益を生み出し続けるフライホイール効果が生まれるのです」

一度フライホイールが回れば、横展開して一気にスケールさせやすい。ただし、成果につながるプロセスを設計しておかないと“最初の一回し”がいつまでも実現しなくなる。「ムーン・ショット目標を設定して、そこへつながるベクトルを定め、マイルストーンを細かく設定しておくことが必要です」と川上氏は指摘する。

競争優位を左右する「独自データ」と「量子」

3つ目の「独自データ&AI」は、基盤となるAIモデルが一般化すると差別化が困難になることが前提にある。とりわけLLM(大規模言語モデル)の代表的なものは、多くの企業で使われているため、似通った意思決定になりかねない。

「スマーター・エンタープライズになるには、汎用モデルであるLLMだけでなく、特化型のSLM(小規模言語モデル)や独自データを組み合わせて、目的に応じて使い分けることが求められます」

実際、IBMの調査によれば、82%の経営層は「2030年までに自社のAI機能がマルチモデルになる」と予測。72%は、2030年までにSLMのほうがLLMよりも重要になるとみている。

4つ目の「組織・人材」は、前述したスマーター・エンタープライズに求められるものと同様だが、AIと共生するうえで人に求められるスキルが何かを見極めることが重要だ。

特に、AIエージェントが部門横断のワークフローに組み込まれれば、組織図もスキルも大きく変わる。すでに経営層はそれを見越して、技術的なスキルではなく、問題解決・危機解決能力とイノベーション能力が従業員にとって最も重要なスキルであり、今後3年間でその重要性はさらに高まると予想している。

「とはいえ、ドラスティックに組織図を変えることにはリスクが伴います。固定化された組織が長年続いている場合はなおさらです。そこでまずは、組織は柔軟に変わるものと意識変革することから始めることをお勧めします」

5つ目の「量子×AI」は、生成AIやAIエージェントに続く“次の地殻変動”に対する備えだ。生成AI登場以前がそうだったように、量子コンピューティングへの対応はまだ進んでいるとはいえない。

IBMの調査でも、「2030年までに量子対応のAIが自社の業界を変革する」と確信している経営者は59%、「2030年までに自社が何らかの形で量子コンピューティングを活用している」と予想する経営者は27%にとどまっている。

しかし、量子コンピューティングは計算処理を高速化し、現在の最高性能のコンピューターですら対応できないユースケースを切り拓く可能性を持っている。

「特に創薬や素材、化学など、無数のシミュレーションが必要な業界の研究開発は激変することが予想されます。また、暗号を解いてしまうので、従来のセキュリティ対策が一気に無意味になる可能性もあります。そうした変化を予測し、関連のスキルを身に付けるなど必要な準備は、今すぐにでも始めておきたいところです」

約7000億円の成果を生んだIBMの実践

これら5つの勝ち筋を、IBMはすでに実践している。自身をゼロ番目の顧客と位置づけて最新のテクノロジーやソリューションを導入・活用する「クライアント・ゼロ」の取り組みを続けているからだ。AIの導入・活用では、2025年に約45億米ドル相当(約7000億円=1ドル155円換算)の生産性向上を達成している。

「生産性向上で得た利益を成長投資に回すフライホイールも回しているので、ムーン・ショット目標やマイルストーン設定、“最初の一回し”に必要な成果へのつなぎ込みまで身をもって体験しています」と明かす川上氏は、実際に経験しているからこそ留意すべきポイントが見え、的確な支援ができるのだと話す。

「最初に生産性向上に取り組むのは、バックオフィス業務が向いているとご提案していますが、ほかの業務よりも大きな成果が出た経験があるからです。得た知見を基に独自のアセスメントツールも開発するなど、それぞれの課題に合わせた伴走支援を提供しています」

IBMが約7000億円という大きな成果を上げることができたのは、1つ目の勝ち筋でもある「やり切る」を徹底したからだと川上氏。その価値を知るパートナーが伴走支援をする意味は大きいといえるだろう。

「世界中の経営者が今感じていることを基に取りまとめた『エンタープライズ2030』は、2030年までの世界のビジネスが進む方向を示していると自負しています。

5つの勝ち筋をたどることにためらっていると、取り残されて日本の『失われた30年』が40年、50年となってしまいかねません。ぜひレポートをご一読いただき、変革の一歩を踏み出すきっかけにしていただくことを切に願っています」

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