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投資家・田中渓と電通グループが語る「個人投資家がホレる」企業の条件。“応援投資”を引き出すためのIR戦略とは

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個人投資家から「応援」されるためのIR戦略とは。投資家の田中渓氏と電通グループが語り合った
  • dentsu Japan 制作:東洋経済ブランドスタジオ
新NISAの浸透によって、個人投資家の存在感が増している。2025年12月末時点でNISA口座数は2800万を突破(※)。国民の5人に1人は口座を開いている計算だ。「生活者の誰もが株主になる時代」を迎えた今、企業は個人投資家とどのようなコミュニケーションを図るべきなのか。プロ投資家として長年マーケットを見続けてきた田中渓氏と、dentsu Japan(国内電通グループ)で上場企業の個人投資家向けIR支援のマーケティングサービスを提供する専門チームの湊康明氏、坂本陽亮氏が、今後求められる個人投資家向けIR戦略のあり方について語り合った。

応援投資の潮流で、IRに求められる「熱量」

――個人投資家の投資トレンドや企業選びの傾向について、どのように感じていますか。

田中 僕が社会人になった約20年前、個人投資家は少数派でした。ところが今は、NISAの口座数が3000万近くになり投資額は約70兆円(※)という規模まで拡大していて、市場でも無視できない存在となっています。プロと変わらないレベルで投資に向き合っている人も少なくありません。

投資家 田中 渓氏
2007年、ゴールドマン・サックス証券に新卒入社。不良債権投資や不動産投資、プライベートエクイティ投資などさまざまな投資に従事。マネージング・ディレクターに就任し、投資部門の日本共同統括を務める。2024年、17年間勤めた同社を退社。現在は少数精鋭の投資会社に勤務し、不動産投資の責任者を務める

 個人で投資をするというと、以前はデイトレードや配当・優待目的が主流でした。しかし、NISAの開始によって、将来に備えた資産形成など、短期的な利益確保を目的としない個人投資家が多くなっています。

実際に、dentsu Japanで個人投資家のペルソナ分析をしたところ、非財務情報を重視した投資や、好きな企業への「応援投資」をしている人が一定数いることがわかりました。「ファン株主」という言葉が出てきているように、企業を純粋に応援する目的で投資をするという新しい流れが生まれてきているのを感じます。

坂本 個人投資家へのインタビューも行ってきましたが、興味深いのは、パーパスや社長メッセージが応援のきっかけとなったと話す人の多さです。IRに広報・PRの視点を取り入れる重要性が高まってきていると感じています。

――個人投資家の台頭により、企業側の意識も変わってきていますか。

 機関投資家向けに発信していた情報を個人投資家にもオープン化しようという意識が強まっているように感じます。IR担当者はこれまで意識していなかった一般消費者に目を向けていますし、広報・マーケティング担当者はこれまで以上に企業価値を重視しています。

結果、IRと広報・マーケティング、サステナビリティなどを横串にした横断組織を編成する企業も増えました。企業コミュニケーションにおいて、IRと広報・マーケティングがオーバーラップし始めているとみています。

電通 第7マーケティング局/IRブランディング360°プロジェクト所属
シニア・プロジェクトプランナー 湊 康明氏

田中 企業の意識は変わっていますよね。以前は法定開示やルールに従った発信をすればいいという考えがあったかもしれませんが、今は東証と金融庁による市場改革の影響もあり、透明性と公平性を高める意識が強まってきました。

加えて、個人投資家はバックグラウンドも投資スタイルも多様です。これまでと同じ発信の仕方だと届かないので、変えないといけないという意識を持っているように感じます。

個人投資家に対しては、商品を消費者に訴求するのと同じ熱量を持たないと伝わらないと感じている企業が増えているのではないでしょうか。

――田中さんは機関投資家として長年活動されてきました。機関投資家と個人投資家では、企業を見る基準や求める情報はどのように違うのでしょうか。

田中 機関投資家は網羅性を重視します。預かっているお金の運用実績をロジカルに説明する必要があるため、あらゆる関連データを網羅し、要因分析を徹底します。

一方で、個人投資家は、「就活生」のような目線を持っているというのが僕の考えです。売り上げや利益といった数字だけを見て投資判断をするのではなく、その裏側にある社長や従業員の姿をシビアに見ています。

先ほど、社長メッセージが応援のきっかけになった人が多いという話がありましたが、社長や従業員のメッセージから「ここで働くのは大変だな」と感じて触手が伸びないというのは意外とある話だと思っています。

 就活生の目線というのは納得です。企業がどこに向かっていて、何がコアなのかを専門家ではない一般の方に向けてわかりやすくメッセージしていくという点で、採用コミュニケーションと個人投資家向けのコミュニケーションは非常に似てきていますね。

坂本 私も投資先と就職先としての企業の魅力が近づいていると感じます。そのうえで田中さんに伺いたいのですが、企業からの情報発信の積み重ねがある就活に比べて情報の非対称性が大きい、つまり、十分な知識や情報に触れられていない個人投資家もまだまだ多い中で、例えば企業側から投資のための情報を丁寧に提供するような「投資教育」の姿勢があると、個人投資家からの評価が上がると感じているのですが、いかがでしょうか?

電通PRコンサルティング
イノベーション推進部/IRブランディング360°プロジェクト所属
シニア・チーフ・コンサルタント 坂本 陽亮氏

田中 投資教育という言葉が出ましたが、それについては、「金融リテラシー」として投資をする側には多少なりとも行われていますが、投資を受ける企業への教育はまったくなされていないように感じます。

「どうしたら投資家に投資をしてもらえる企業になれるのか」、つまりは「何をすれば応援してもらえるのか」を自分事として考える意識が、多くの企業に浸透していってほしいと思いますね。

※出所:金融庁「NISA口座の利用状況に関する調査結果(令和7年12月末時点(速報値))」

数字よりも「メッセージ」。応援される企業の条件

――「業績が好調なのに個人投資家からの投資につながらない」と悩んでいる企業は多いですが、個人投資家から投資されるためには、どのような向き合い方が求められるのでしょうか。

田中 投資したくなる企業は、数字だけでは伝わらないことを社長が自分の言葉で説明しています。例えば売り上げ目標が未達だったとして、何が原因なのかをトップが自分事として語ることで応援されるわけです。

一方で、投資家と対峙する姿勢を出してしまう企業への印象は良くないですね。例えば株主総会で、財務担当者がひたすら資料を読み上げ、社長は本当に必要なことしか話さず、株主にできるだけ発言させないようにする企業があります。旧来多かったスタイルですが、わかりにくいうえに誠実さも見えず、応援したいという気持ちにはなれません。

 確かに、投資家の評価を気にするあまり、まるで敵視しているかのように扱う場面を見ることがあります。そうではなく、投資家を企業のファンと捉えてコミュニティの中に巻き込んでいくという姿勢も大事になってくるということですね。

坂本 長期的に見れば、どんな企業でも必ずネガティブなフェーズが訪れます。しかし、いわゆるファン株主はそう簡単には離れないという話は、IR支援をしている企業からもよく聞きます。ファンになってもらうためにも、企業のメッセージをわかりやすく発信することが必要だと感じますね。

――投資家の心を動かすメッセージをしっかりと発信できている企業には、どのような共通点があるのでしょうか。

田中 成功している個人投資家の多くは、「個人投資家が投資をする企業は、経営者が投資家に向けてコミュニケーションを取ろうとしている」と言っています。特に、自社アカウントの動画やオウンドメディア、SNSで発信しているかどうかはチェックポイントです。登録者数の多い・少ないは関係なく、大切なのは、自分の言葉で伝えているかどうかです。

先ほど、パーパスや社長メッセージが見られているという話がありましたが、社会貢献や非財務情報を語るにしても、ありきたりな表現だけでなく「なぜこの社会課題に向き合いたいと思ったのか」といった本人にしか語れない思いを言葉にすることが大切です。

不器用な語り口であっても、自らの技術に誇りを持って夢を語るものづくり企業の経営者は、結構好かれやすいですよね。社会にアピールできる技術力や、競争優位性はどの会社にも必ずあります。それを見つけ出し、語るのも大事な企業努力だと思います。

 今のお話を伺ってハッとしました。IRというと、専門的で難解な言葉を使う世界だと思いがちですが、企業も結局「法人」という人格です。人と人のコミュニケーションが、パーソナリティを打ち出さないと深まらないように、企業のパーソナリティを表現することが、個人投資家に応援してもらうために不可欠だということですね。

田中 そうですね。投資の際は財務指標が重要視されますが、個人投資家が見ている指標は10個もありません。最低限の数字が守られていることは大前提ですが、それだけでは約4000社ある上場企業から投資先を絞り込めないからこそ、最終的には「なぜこの社会課題に取り組み、どう解決していくか」といったナラティブ(物語)やパーソナリティを見ることになります。そこにいかに真摯に向き合っているかを、個人投資家はシビアに見て企業を選んでいるのだと思います。

投資家一人ひとりに響く「IRジャーニー」を描く

――そうした企業のパーソナリティやメッセージを、多様な個人投資家へ確実に届けるためには、どんな工夫が必要でしょうか。

 現代のマーケティングにおいて、顧客が商品を購入してファンになるまでのプロセスである「カスタマージャーニー」を描くことが欠かせないように、多様な投資スタイルや価値観を持つ個人投資家に対しても同様のアプローチが必要です。

実際に調査すると、人によって接触するメディアや響くメッセージはまったく異なります。dentsu Japanではこれを「IRジャーニー」と呼んでいますが、相手を知ったうえで、その人に響くメッセージをどうすれば届けられるかを明らかにすることが大切です。

田中 製品やサービスのマーケティングでは普段から競合比較を行いますが、いろいろな会社に話を聞くと、IRではそういう目線があまり見られません。そこを見直すだけでも効果があるのではないかと思いますね。

 私たちもまさにそこを大きな課題として捉えていました。マーケティングの基本である「3C(市場・顧客、競合、自社)」の視点をIRにも取り入れるべきだと考え、dentsu Japanでは、個人投資家へのIR情報の到達度を競合と比較分析できる指標を開発しました。

この指標を用いた調査でも、非財務情報を発信している企業ほど、個人投資家の株購入意向が高いことがわかっています。長期保有を促すには、非財務情報を盛り込んだ成長ストーリーを届けることが有効だということが改めてわかりました。

坂本 企業のIRや広報部門の方々と関わらせていただく中で、自社がどういった存在で、何を個人投資家に伝えたいかといった戦略を、解像度高くつくり込むことの重要性を実感しています。

好きになってもらうためには、そもそも自らがどんな存在なのか、「社会においてどうありたいか」という姿勢をはっきりと打ち出していくことが大事ですね。

――「誰もが株主になる時代」に向けて、dentsu Japanがこれまで培ってきたマーケティングや企業コミュニケーションの知見は、企業のIR支援にどのように生かせますか。

 dentsu Japanは、長年蓄積した生活者のメディア接触状況や価値観などの独自データを基に、「個人投資家の方にどんなタイプの方がいるか」というペルソナ分析を実施することで、その投資家タイプに応じた「IRジャーニー」を可視化できます。さらに先ほどお話しした競合と比較分析できる指標も活用して、データに基づいた個人投資家向けIR戦略の策定から実行まで支援ができるのが大きな強みです。

dentsu Japanが描く「IRジャーニー」の一例。投資モーメントを押さえ、個人投資家にアプローチする「IRジャーニープランニング」が可能に

また、統合報告書や中期経営計画を、広く一般に響く「オープンな言葉」に変換するコンテンツの制作もできます。今後さらに増えることが予想される個人投資家とのコミュニケーションを強化したい企業の皆さまと、ぜひご一緒に取り組みたいと思っています。

坂本 企業と社会のより良い関係づくりを担うPR(パブリック・リレーションズ)の機能が今、IRにも求められるようになってきています。極めて信頼度の高い情報が期待されるIRにおいて、多様な個人投資家と強固な信頼関係を築くのは容易ではありません。だからこそ、企業コミュニケーションで確かな知見を積み上げてきたdentsu Japanがご支援していきたいと考えています。

田中 お話を伺っていて思ったのは、投資家は、情報の透明性をとても重視します。企業のキャラクターやビジョンといった非財務の情報がしっかり見えてくるようになると、わかりやすさが増し透明性が担保されます。長年投資に携わってきた身としては、こうした流れは健全で透明でフェアな市場をつくることにつながりとても良いことです。

とはいえ、一企業でそれを実現するのは決して簡単ではないと思うので、dentsu Japanのような取り組みは意義深く感じます。透明性を高めて個人投資家の市場参加を促進し、日本の市場がより健全で透明になっていくことを切に願っています。

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*出演者の所属・肩書は2026年6月9日公開時点のものです