BaaS導入でかなえた、自社サービスの拡充
ラクスルバンク CEO
杉山 賢氏
杉山賢氏(以下、杉山) 正直に言えば、当初金融サービスを検討したとき、銀行業務を提供できるなんて思ってもいませんでした。単純に不可能だと考えていたからです。銀行免許を取るのは非常に難しく、システム構築も大変で、巨大な資本もない。
そんなときにBaaS(Banking as a Service)というサービスの存在を知ったのです。これなら銀行免許もシステム構築も巨大な資本も必要ありません。
もともと当社は印刷のシェアリングプラットフォームからスタートし、物流や広告、情報システムなど様々な事業を展開してきました。
中でも主力となるのが、印刷や広告・集客支援など、中小企業の経営を支えるプラットフォームです。スタートアップや中小企業が事業を始めようと考えたときに必要になる印鑑や名刺、広告までを取りそろえています。利用している企業数は100万社以上(※1)に上ります。
そんな当社がなぜ銀行機能を必要としたのか。それは当社のeコマースに金融サービスを追加することで、よりサービスを拡充できると考えたからです。
すでにBtoCの分野では、事業者が提供するプラットフォーム上で金融サービスが提供されていますが、BtoBの分野でも同じことが成り立つのではないか。そうした仮説から生まれたのがラクスルバンクでした。
ラクスルバンクは、振込手数料を119円という業界最安級(※2)に抑えたネットバンクであり、当日の口座開設も可能です。デビットカードを使ってラクスルのポイントもたまるなど、日々の取引にいちばん近い形で金融サービスを展開しています。
小野沢宏晋氏(以下、小野沢) BaaSとは、APIを活用することで、銀行が持つ機能を外部の企業に提供するサービスです。その結果、ラクスルバンクではGMOあおぞらネット銀行の“専用支店”を核に、ラクスル経済圏を構築することが可能になりました。
自社サービスに必要な銀行機能を取り込むことで、非金融事業者様であっても、その事業者様のブランドで金融サービスを展開できるのです。当社にとっても新たなお客様との接点が生まれ、BaaSをご利用くださる事業者様にとっても、自社のプラットフォームに金融機能という付加価値を生み、より利便性の高いサービスをエンドユーザーに提供できるというメリットがあるのです。
「Noから入らない」GMOあおぞらネット銀行を選んだ決め手
杉山 BaaSの導入を検討する中で、当社が望むことをかなえるには、大きなカスタマイズが必要なことがわかり、それは困難に思えました。しかし、GMOあおぞらネット銀行は、こちらの要望に対し、決して「No」から入らない。「こうすればできる」「こんな選択肢がある」と柔軟に対応し、伴走していただけた。それを受けて、当社の開発チームも「これならいける」となりました。
私たちのビジネスはBtoBであり、その多くは中小企業です。eコマースとしてプラットフォームを有し、ID基盤もあり、すでに決済が行われているサービスを持っている。そこに金融サービスをどう組み込むのか。GMOあおぞらネット銀行は、当社の基盤にパーツ単位で銀行機能を組み込むための選択肢を、共に考えてたくさん用意し、柔軟に対応してくれました。それが、取り組みを決めた最大の理由です。
小野沢 宏晋氏
小野沢 確かに金融機関には制度上、守らなければならない様々な制約がありますが、そこを乗り越えなければ、新しい体験はつくれません。われわれも営業やエンジニア、法務メンバーをフル動員し、ラクスル様の要望を実現するため、対応をさせていただきました。
「どうすれば当社のBaaSを最大限にご活用いただけるのか」
当社がBaaSをご提案する際には、業種やビジネス規模を問わず、お客様の業務フローやサービスの中に、金融機能をいかに組み込んでいけるのかを考えます。
現在の当社独自のBaaSの形は、これまでに多様なお客様のニーズにお応えする中で、試行錯誤を繰り返し、つくり上げてきたものです。そのため、われわれのBaaSは、個々のニーズに合わせて柔軟に対応できることが強みとなっております。
杉山 私たちとしても、自社のID基盤やeコマースの流れに銀行機能をどう組み込むのかが最大のポイントでした。すでに存在するUI(ユーザーインターフェース)やUX(ユーザーエクスペリエンス)のサービスにフィットする銀行機能でなければならなかったからです。
小野沢 加えて、われわれはシステムを内製化していることが強みであり、だからこそニーズに合わせて柔軟な対応ができます。今回のシステム開発でも、RAKSUL IDを持っているお客様が、ラクスル様のプラットフォーム上でいかにスムーズに銀行機能にログインできるか。エンドユーザーの利便性を損なうことなく、銀行サービスとして求められる認証やセキュリティーを担保することがポイントでした。
そのため、両社のCSO(チーフ・セキュリティー・オフィサー)もプロジェクトに参加し、検討を重ねながら、サービス実現に向けて取り組んできました。
「徹底的なカスタマイズ」から広がる、課題解決
杉山 導入の背景には「振込手数料も低額で、スマートフォンで簡単に操作できるBtoCのインターネット・バンキング・サービスのような充実したサービスを、BtoBの中小企業向けネットバンキングでも提供していきたい」という思いがありました。
実際、ラクスルのユーザーはeコマースを活用していただいている方が多いため、デジタルリテラシーが高く、ネットバンキングとの親和性もあります。ラクスルバンクを利用しているユーザーからは、「振込手数料が安くなった」とか、「タクシーに乗りながらスマホで振り込み承認できて便利になった」といったような声もいただいています。こうした日々の取引をサポートしていきながら、将来的には与信やクレジットカードなど資金繰りの面にもサービスを広げていきたいと考えています。
小野沢 われわれも、お客様と共に成長する銀行であるべく、変化し続けています。口座、振り込みといった基本の銀行機能のご提供に始まり、APIの原則無償提供や、法人のお客様のニーズが高かった口座振り替えやPay-easy(ペイジー)による税金のお支払いなど、一つひとつのご要望に誠実にお応えすることで、成長を続けてきました。
ラクスルバンクのご利用者様から出てくるニーズにもお応えし、より魅力あるサービスを提供できるよう、ラクスル様と引き続き、検討・協議していきたいと思っています。
杉山 当社では、中期の経営の方向性として、「End-to-Endで中小企業の経営課題を解決するテクノロジープラットフォーム」という言葉を掲げており、創業時には、
事業の立ち上げから成長フェーズまでには必ず、「お金を払う」「受け取る」「借りる」といった金融サービスのニーズを伴います。金融サービスは、私たちの展開する新規や中小企業向けの様々なサービスの間をつなぐ橋であり、お客様の日々の課題解決の強い味方となりうるのです。
小野沢 特に、お客様とつながりを持ってビジネスをされている企業は、金融サービスを使うことで、よりお客様との関係性を深めたいという思いを持たれているところが多いですね。
実際に、私たちのお客様でも数の多い、不動産やクラウドファンディングといった業種では、BaaSを使用し、自社に銀行機能を一部でも組み込むことで、お客様とより濃い関係性を築いていきたいといったお声も多くあります。今後はこれまで以上に事業規模や業種を問わず、銀行機能を自社サービスや業務フローに組み込む事例が増えていくでしょう。
金融サービスの導入を検討中であれば、まずは相談を
杉山 BaaS活用に迷っている企業や担当の方がいれば、まずはBaaSを提供している銀行に相談することをお勧めします。私たちの場合は、「いかにプラットフォームを通じてお金や物が流れ続ける状態をつくれるか」が重要でした。お客様の利便性をより高めたいと考えると、やはり金融サービスは非常に親和性があります。それはBtoCでもBtoBでも同じだと思います。
小野沢 銀行の価値は、お金を動かせることにあると思っていますが、そこには、「前処理」と「後処理」といった多くの処理が存在します。
実際に商品の提供をしているプラットフォームがBaaSを導入することで、スムーズに処理しシームレスな決済体験を提供することができれば、サービスの利便性が高まりエンドユーザーはよりよい体験ができると考えています。
杉山 当社は「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンを大事にしています。まさにBaaSは世界をよくする仕組みだと考えています。当社はBtoBのプラットフォームの分野では、早々に銀行代理業に参入したのではないか、と自負していますが、いろいろな事業者が様々な角度から金融サービスにチャレンジできるBaaSという仕組みは、企業にとって強い味方です。
小野沢 今、BaaSを利用することで、銀行業を始めるハードルは以前より低くなっています。われわれは、あくまで「黒子の銀行」として、当社の存在が出ずとも銀行サービスを“部品(パーツ)”で提供し、BaaSの裾野を拡大していきたいのです。そして、当社を選び使用していただく法人のお客様、その先にいるエンドユーザーに新たな金融体験をご提供したい。
それこそが当社の願いであり強みの部分だと思っており、皆さんと新しい金融体験を一緒につくっていければと考えています。
※1ラクスル調べ。社内データーベース上の数値による ※2 2025年10月時点の各社公表資料等によるラクスルバンク調べ。調査対象範囲は、大手銀行およびインターネット専業銀行のうち法人顧客向け口座を提供している銀行を対象。各社の手数料割引のプログラムや期間限定等のキャンペーン等は除く