「この数カ月でAIに関する相談内容が変化してきた」
――ビジネスにおけるAI活用の現状と課題をどのようにみていますか。
望月 AIが急速に進化して使いやすくなり、もはやビジネスでのAI活用はスタンダードとなっています。結果、個人の生産性を高めるフェーズから、企業全体で成果を生み出すことが求められるフェーズへ移行し、AI投資に対するROI(投資利益率)の妥当性がより厳格に問われるようになっています。
森田 AIの能力は多くの経営者が認めていますが、AIを使ってどのように企業価値を高めていくのかが定まっておらず、模索している段階だと感じています。工場制手工業の現場にいきなり蒸気機関を持ち込んでもうまく使えなかった産業革命時と似ている現象が起きているのではないかと考えています。
望月 これまでの成功の源泉であった、確立された業務プロセスや組織、人事制度等が、社内におけるAI活用を妨げている面があります。
DXのときも同じでしたが、AI活用においてはさらに業務の内容、あり方を見直し、業務プロセスを根本的に再構築することが求められます。それに合わせて人材をどう活用するかも考えなくてはなりません。単にシステムを導入するのではなく、企業運営の要となる「人・組織・業務プロセス」をいかにトランスフォームするかという大きな課題を解決しなければなりません。
――AI活用について、企業から寄せられる相談の内容は変わってきているのでしょうか。
望月 2025年の前半は、チャットツール導入やユースケース選定、特定のユースケースでのPoC(概念実証)がしたいという話が大半でした。それがここ半年ぐらいは、「AI投資の成果がわからない」「経営インパクトへどう結び付けるか」といった悩みや、「将来的に人の役割はどうなっていくのか」「AIをどう活用して経営していくか」など、AIネイティブ時代を見据えた組織構造や経営のあり方に関わるご相談が増えています。
森田 「AIを育てたい」という声もよく聞かれるようになりました。背景にあるのは、熟練層の一斉退職と少子高齢化に伴う人手不足です。AIを使ってナレッジや暗黙知を継承し、自社の資産として蓄積していくことを検討する企業は少なくありません。
望月 例えば、トップ営業パーソンが持つ独自のノウハウは、企業にとって競争優位の源泉です。それらをAIに学習させれば、多くの社員を優秀な営業パーソンに成長させることもできます。すると、営業職の評価軸が「売り上げ」ではなく「提供したスキルの質と量」に移行する可能性もあるので、人事評価制度や組織構造を見直したいという課題が生まれてくるのだと思います。
「将棋界の変化」がAI資本経営のヒントに
――PwCコンサルティングが提唱する「AI資本経営」という考え方は、そうした課題を解決するために生まれたのでしょうか。
森田 そのとおりです。「AIを育てたい」という声には、人と同列にAIを扱いたいという人的資本経営に近いニュアンスがあります。また、ナレッジや暗黙知を蓄積して新たな価値を再生産していくというプロセスは、資本の増殖と同様です。AIを従来のデジタルツールのように消費対象として扱うのではなく、経営資本として蓄積・活用していく考え方が「AI資本経営」です。
「AI資本経営」は、将棋の世界から着想を得ました。ご承知のとおり将棋の世界では、長年にわたって蓄積された棋譜、すなわちデータを学習した、とてつもなく強いAIが生まれています。しかも、AI同士が対戦して新たな棋譜を生み出し、さらに自らを進化させています。
現在では、AIから将棋を学ぶことが当たり前になり、強い棋士が続々と登場しています。対戦のテレビ中継では、リアルタイムでどちらが有利かを示す「評価値」を出すなど、楽しみ方も変わりました。人と人が対戦するという本質的な構造は変わっていないのに、将棋の世界が広がっているのは、AIという資本を適切に活用した結果だと考えています。
望月 AIが経営資源となってきたともいえます。従来、経営資源は「人・物・金」でした。情報社会になってデジタル化が進んだことで「データ」が加わりました。そこへさらに「AI」が加わったということです。
――AI資本とは、具体的に何を指すのでしょうか。
森田 そもそも資本は、利益を生み出すために投下するものです。すなわち、新たな価値を生み出し、企業全体を成長させていく原資です。その考え方に基づくと、AI資本とは、AIが学習・出力するために必要なデータや、判断や予測の仕組みであるAIモデルだけでなく、それらを活用し蓄積する能力やAIガバナンスまで含まれると考えています。さらに言うと、データとAIモデルをつないで適切に出力する技術に加え、人とAIの役割分担を最適化し、AI資本として成長させることができるマネジメントが必要だということです。

望月 設備資本がそうであるように、何をAI資本とするかは業界や業種、さらには個別企業によって異なります。強みを発揮している領域や戦略的な重点領域を見極めたうえで、AIを活用してデータやノウハウを蓄積していくことが、競争優位の獲得につながっていきます。
成果に対するAIの「寄与度」がロジカルに可視化される
――「AI資本経営」は、経営にどのようなインパクトをもたらすでしょうか。
森田 AIが成果にどう寄与するかを示すことが、現在の企業経営に求められています。その点、AIを資本として捉えることによって、生産活動やそれによるアウトプット、最終的な成果に対してどの程度AIが寄与したのかというロジカルな構造が見えてくるのが大きな変化です。

さらにそれを、QCD(品質・コスト・納期)の観点で分解すれば、それぞれにAIがどう寄与したかも明らかになります。経営と現場をつなぐ共通言語にもできるため、必要に応じて新たなAIに対する投資意思決定もしやすくなります。従来の資本戦略をAI活用のロジックに取り込めるので、調達コストと期待できるリターンを定量的に描くことができるでしょう。
加えて、AIはLLM(大規模言語モデル)によってスキルの高低に関係なく誰でも活用することができます。「容易にコピーでき、自己増殖しやすい」という特性もありますので、創出した価値をすぐに自社の資産として蓄積でき、経営に大きなインパクトをもたらすことが期待できます。
総合的なケイパビリティーで「変革」にコミット
――PwCコンサルティングは、「AI資本経営」の推進においてどのような支援を展開されていますか。
森田 AI資本を形成し、蓄積・活用するには、総合的なケイパビリティーが必要です。まず、AIに学習させる「AI-Readyデータ」を整えなくてはなりませんし、そのためのアーキテクチャを構築する必要があります。そうした技術的な課題をクリアするだけでなく、どう成果につなげるか具体的な戦略の道筋を立て、実行していかなくてはなりません。
PwCコンサルティングは、そうしたケイパビリティーを備えています。戦略、デジタル、データ、AIなど各分野のスペシャリストがそろっており、AIトランスフォーメーションの戦略策定からAIプロダクトの企画構想、「AI-Readyデータ」の整備、AIガバナンスの策定・実行支援まで総合的な支援が可能です。
望月 PwCコンサルティングの大きな強みは「トランスフォーメーション力(変革力)」だと自負しています。それを支えているのは、グローバルネットワークを生かした情報収集による「先読み力」と、クライアントのカルチャーや業務プロセスを深く理解したうえで粘り強く地道に課題を解決していく「現場力」です。
私たちが何よりも大切にしているのは、クライアントの変革です。変革後の「ありたい姿」を起点に、バックキャストで必要な取り組みを抽出し、PwC Japanグループの多様なアセットを総動員して着実に実行していきます。
「AI資本経営」は、AIネイティブ時代の企業成長を後押しする重要なアプローチだというのが私たちの考えです。企業の未来を切り開き、社会全体のアップデートに貢献するために、パートナーシップを広げていきたいと思っています。