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「フォント」の管理を怠る企業が陥りかねないセキュリティの盲点……「サイバー攻撃」と「権利侵害」の重大リスク

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今回話を聞いたMonotypeの佐内氏(左)、土井氏(右)
  • Monotype 制作:東洋経済ブランドスタジオ
今、新たなサイバーリスクが顕在化している。その正体は、スマホやPCなどで文字を表示するたびに作動している「フォント」だ。 見落とされがちだが、フォントは単なるデザインではなく、OSの深部で作動する「ソフトウェア」である。特定の条件下において、システムの脆弱性を突いた不正アクセスの要因になりうるほか、権利侵害の観点では、請求訴訟が提起されるなど、法的なトラブルに発展するケースも報告されている。強固なセキュリティ対策などを講じる企業にとっても、この「一文字の死角」はガバナンスの盲点となりがちだ。今、フォントを「ITインフラ」として再定義すべき理由を、フォントの提供から管理・運用支援、デザインコンサルティングまでを一貫して手がけるMonotypeに聞いた。

サイバー攻撃や著作権侵害を招く、フォントの死角

多くのビジネスパーソンにとって、「フォント」は資料作成時によく見るメニューの1つにすぎないかもしれない。しかし実態は違う。

「フォントは単なる文字データではありません。高度な計算式や命令で構成されたれっきとしたソフトウェアです。従来のセキュリティ対策は『怪しいファイルを開く』『不審なリンクをクリックする』といった警戒により防げましたが、フォントは違います。文字を表示させようとブラウザや資料を開いた際に、フォント処理エンジンなどの脆弱性を突かれ、意図しないプログラムが実行されてしまうリスクが指摘されているのです」

そう警鐘を鳴らすのは、米国に本社を置く書体企業MonotypeでCOOを務める佐内桐梧氏だ。フォントの設計図に問題があったり、悪意のある細工がされていたりすると、フォントを読み込んだ側のシステムに影響が及ぶ可能性がある。

Monotype COO
佐内 桐梧

「フォントは単体のデータとして容易に共有できます。画像の転送に近い感覚で、フォントファイルの貸し借りは日常的に行われています。例えば、制作会社から納品されたファイルを開いた際に文字化けが生じ、不足フォントを受け取る。一見ありふれたやり取りの中に、リスクが入り込む余地があります。たとえ信頼できる相手からの送付でも、そのフォント自体が出所不明であったり、制作会社の環境で既にウイルス汚染されていたりする可能性があるからです。フォントはOSネイティブのフォントエンジンで処理されるため、ファイル自体に悪意のある細工が施されていた場合、システムに影響を及ぼすリスクがあります。出所不明なフォントを安易に利用することは、こうしたセキュリティ上の死角を生む要因の1つとなるかもしれません」

既存のセキュリティ製品の中には、フォントファイルが脅威の検知対象に含まれていないものも少なくないという。「使い慣れたデザインファイルを受け取っただけ」という状況で、知らぬ間に企業の内部ネットワークへの侵入経路が開かれているかもしれない。

「フォントの管理不足は、ガバナンス上の盲点となりかねません。万が一、悪意あるファイル経由でシステムへの侵入を許せば、サプライチェーン全体に甚大な被害を及ぼす不確実性も否定できません」

こうした「外部からの脅威」と並んで、フォントの不適切な利用が招く「内部要因のリスク」が見落とされている。著作権侵害だ。例えば、デザイン会社が購入したフォントで制作したプロトタイプを発注企業が正式採用し、大量印刷やグローバル展開に転用する場合、たいていフォントの利用許諾は契約者本人に限定されており、成果物を受け取った企業が自社で編集や印刷、社内共有を行うには、自社でも別途ライセンスを保有している必要がある。だが、このルールを把握しないままライセンス条件を超えた使用が静かに進行していても、発注企業側が気づかないケースは多いという。

「海外ではライセンスの解釈や運用をめぐって訴訟に発展した事例もあります。海外の大手エンターテインメント企業がフォントのライセンス条件を超えて使用し数億円規模の損害賠償を請求されたケースのほか、ある大手自動車メーカーが他社フォントを自社向けに改変し、訴訟に至ったケースなど適切な契約管理が行わず係争のリスクにつながることもあるのです」

リスクを「資産」に変える
ITインフラとしてのフォント管理

佐内氏は、「フォントの適切な管理こそが、企業の安全性と信頼性につながります。逆に現場や外注先任せにすることは、経営責任の不履行に近いといえるでしょう」と指摘する。

コンテンツには必ず文字が伴う。セキュリティとガバナンスの整備なしにグローバル展開は成立しない。フォントを取り巻くこれらの課題に対し、経営層はどう向き合うべきか。

これまでに述べたセキュリティリスクとライセンス違反には、共通の根本原因がある。それは、社内や外注先も含め、どのフォントがどこでどのように使われているかを正確に把握できていないことだ。その解決策としてMonotypeが提唱するのが、フォントの選定・管理・運用を一元化する「TypeOps(タイプオプス)」という概念だ。同社は約300カ国語以上に対応し、25万書体という膨大なフォントライブラリを提供すると同時に、それらを一元管理・運用するためのSaaS型プラットフォームを展開している。

Monotype Fontsで提供されるフォントの例(画像提供:Monotype)

「この仕組みを導入することで、社内でどのフォントがダウンロードされ、Webサイトのどこで使用されているかを即座に可視化できるようになります。セキュリティ上の安全性が検証されたフォントのみを供給することが可能になり、ライセンスのブラックボックス化の防止につながります」

運用の可視化に加えて、グローバル展開時のガバナンスにおいてもメリットが大きい。多数の国で事業を展開する企業は各国のフォントメーカーと個別に契約し、地域ごとの著作権法令に準拠しているかを確認し続ける必要があるが、そこには相当な間接コストがかかる。Monotypeは世界中の書体メーカーと提携し、300以上の言語に対応。各国の法令や権利関係をクリアにした状態でフォントを一括提供することで、この複雑なライセンス管理をシンプルに一本化できる。

これにより、セキュリティ上の安全性が確認されたフォントのみを社内インフラとして供給することができるようになる。そのため、出所不明のフォントが組織内に混入するリスクを構造的に排除できる。

Monotypeはプラットフォームの提供にとどまらず、強みとするデザインコンサルティングの力で、使用していない無駄なフォントを整理・最適化することでWebサイトの読み込み速度を向上させるなど、フォントのリスクと負荷を抑え、パフォーマンスを最大化する「IT資産」へと最適化するための提案を行っている。

「一貫したフォント」がブランド価値を雄弁に語る

フォントはサイバー攻撃や法的リスクから組織を保護するガバナンスのキモであると同時に、ブランドの世界観を体現し、企業への信頼を決定づける戦略的な要素を併せ持っている。

企業制定書体の開発や書体選定などのコンサルティングを担当するMonotypeの土井遼太氏は、「WebサイトやIR資料、パンフレットなどの企業のコミュニケーション媒体でフォントが統一されていると、信頼感が醸成されます」と話す。

Monotype
土井 遼太

「フォントの統一は、企業というブランドの価値を可視化し続けることに等しいです。何年も変わらぬフォントが使われていると、その一貫性は企業への信頼として、読み手の内側に着実に積み上がっていきます。反対に、フォントが途中で変わると『何かが違う』という違和感が生じ、ブランドの輪郭を曖昧にしてしまいます」

こうしたブランドの統一性を徹底する手法として、既存フォントの中から自社に合ったものを選ぶだけでなく、より高度な戦略として自社専用の「カスタムフォント」を制作する選択肢もある。実際に土井氏が担当した事案でも、グローバル展開する日本の大手総合商社向けに、広報担当者と丁寧なヒアリングを重ねながらオーダーメイドで、多言語対応が可能な欧文フォント(カスタムフォント)を制作。

英語圏だけでなく、フランス語やドイツ語などの欧州諸国でも「文字化け」や「代替フォントへの置き換わり」が起きないよう、ダイアクリティカル・マーク(アクセント記号)への網羅的な対応も行った(画像提供:Monotype)

欧州の特殊文字やアクセント記号への対応を最初から設計に組み込み、英語圏以外の地域でも通用する構造で仕上げた。Webや街頭広告で一貫してフォントを使い抜いており、社外へのブランド定着だけでなく、社員の誇りやリテラシーを高め、組織の目指す方向性を強固にするインナーブランディングとしての役割も果たしている。

こうした取り組みを進める日本企業は増えているが、大多数はまだその入口に立ったばかりだと佐内氏は言う。

「国ごとにフォントに対する意識の差があります。米国では大手企業から中小企業まで、カスタムフォントの使用は当然の前提となっています。ひるがえって日本では、グローバル企業であっても、英語サイトを標準搭載フォントのまま運用しているケースは珍しくありません」

現地での感覚に合わないフォントや、一貫性のなさは、企業の信頼性を疑わせる結果を招きかねない。

「フォントへの投資は、リスクヘッジであり、持続的なブランド価値向上への投資にほかなりません」と佐内氏は強調する。 

フォントは、セキュリティやコンプライアンス管理における見落としがちなポイントであり、ブランドを支える基盤でもある。適切に管理されなければ、見過ごされがちな視覚的な乱れが、ブランドへの信頼を静かにむしばんでいく。一文字一文字を、自社の信頼を積み上げる資産にするのか、それとも足をすくう脆弱性となるのか。その判断は、経営層の手に委ねられている。今こそフォントを、ITインフラとして再定義すべき時だ。
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