「不確実性を逆手に取る」
ポートフォリオ経営
地政学上のリスクが渦巻く「不確実性」の時代、企業が成長する3つの鍵は、「ポートフォリオ」「プラットフォーム」「グローバル」だ。独自の成長軌道を描く自動車総合サービス企業、オプティマスグループを率いる山中信哉氏と、経営学者の入山章栄氏が、不透明な時代を勝ち抜く企業の条件について語り合った。
入山 地政学的なリスクがビジネスの根幹を揺るがす「不確実な時代」は今後も続くでしょう。
経営学の観点でいうと、不確実性への対処法は2つです。1つは、不確実性から逃げる、つまりリスクを切る方法です。不安定になりそうな事業は早めに売却したり、撤退したりする。これはリスク回避としては有効ですが、リスクを避けるだけでは大きな成長は望めません。
もう1つは、不確実性のある事業をあえて複数抱え、それらを柔軟に組み合わせたりバランスを取ったりすることで、単体では不確実でも、全体としては安定的にコントロールするやり方です。後者はリスクを逆手に取って「活かす」戦略で、うまくはまれば、大きな成長が期待できます。
入山 章栄 氏
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 19年から現職。専門は経営戦略論、国際経営論。19年『両利きの経営』(東洋経済新報社)監訳
山中 オプティマスグループの狙う戦略は、まさに後者です。販売を中心に物流、検査、保険、メンテナンス、ファイナンスなど、自動車に特化した複数の事業でポートフォリオを組み、グローバルで複数の市場に展開しています。事業や市場のリスクって常に動くものだと思っていますから、成長段階に応じてポートフォリオも機動的に組み替えていきます。一方にリスクが生じたら、別の事業や別の市場でバランスを取る。そうした複数の選択肢を持ちながら、環境に応じて柔軟に事業を進めています。変幻自在なので、外からはわかりにくいと言われてしまいますが……。
入山 以前山中社長と対談したときに、「説明しづらい会社ほど、実は強い」という話をしました。不確実性が当たり前になった今の時代では、「何をやっているのか、一言では説明できない」ということ自体が、その会社の強みであり、変化への耐性だと思うんです。そういう視点で見ると、日本の上場企業の中でも、そうした特徴を備えた数少ない会社の1つが、オプティマスグループなんじゃないかなと感じています。
ニュージーランドのモデルを欧州へ展開
入山 オプティマスグループのポートフォリオ経営の強みを、具体的に教えていただけますか。
山中 地域に合わせたビジネスモデルをグローバルに展開しています。最初に進出したニュージーランド(以下、NZ)では、日本の中古車が現地に届くまでのプロセスをほぼ一括で担う、垂直統合型の「ニュージーランドモデル」を作ってきました。日本での仕入れから海上物流、検査、ディーラー向けファイナンスまで、複数の事業をバリューチェーン上で展開し、NZの中古車市場でトップの約40%(同社調べ)のシェアを堅持しています。
ただ、NZは市場規模が小さく、一市場依存はボラティリティが高い。リスクをヘッジするため、現在は同じモデルをイギリスやアイルランドへも横展開しています。もともと欧州は2000年代に進出し、為替や規制の問題でいったん撤退したものの、当時のネットワークは生きていました。再進出は2024年ですが、1年強でそれらの市場でのシェアは約25%(※自社調べ)を取るまでになっています。
山中 信哉氏
1988年 日貿・ジャパントレーディング(現 日貿)を設立。2015年 株式移転によりオプティマスグループを設立し、代表取締役就任(日貿は100%子会社)。同社は17年東証二部(現:スタンダード)上場
入山 たった1年強で、すごいですね。グローバル経営というと、制度や戦略の話になりがちですが、結局はすごく泥くさい話で、現地のインナーサークル、すなわちキーとなる現地企業や人のコミュニティにしっかりと入れているかどうかも大きいんです。山中社長はその点ちゃんとされていらっしゃる。トップ自らが時間をかけて現地の信頼を積み上げて、愛される存在となる──そこは、理論以上に重要だと思いますね。
山中 一方、輸入された新車の陸上物流から販売まで、現地完結型のバリューチェーンを構築しているのが、われわれのオーストラリアモデルです。その特徴は約40に及ぶマルチブランドを扱っていることで、その人気に合わせてブランドを柔軟に入れ替えられること。例えば、近年はBYDなどの中国ブランドの人気が世界中で急上昇していますが、わが社傘下のある店舗では5つの取り扱いブランドをすべて中国ブランドに替えました。中国ブランドはわが社の新車売り上げの約15%を占めるまで急成長しており、今後とも扱いを増やしていく予定です。また、オーストラリアは国土が大きく、地域によってPHEVやEV、SUVなど売れ筋のモデルが違いますが、マルチブランド戦略は、このような地域の異なるニーズにもしっかりと対応できます。
入山 私は日本の食品スーパーの理事を務めていますが、地域差への対応は難しい課題です。例えば、北海道と九州では売れる商品が異なるのですが、柔軟に対応したくても卸との付き合いがあって簡単には商品を入れ替えられないのです。オプティマスグループがブランド構成を柔軟に替えられるのは、まさにほかの関連事業やブランド取り扱いでバーゲニングパワー(交渉力)を高めているからでしょう。ポートフォリオが生きている好例ですね。すべてを自前で持っているからこそ、不確実性そのものを使い込める。
山中 組み合わせを変え、打つ手を変えながら、どんなマトリックスを描いていくのかを常に考えています。要素をいったん分解し、再び組み立て直す――それができるのは、総合自動車サービス企業ならではだと思います。
AI時代は「フェアネス」が世界で評価される
入山 最初にNZの中古車市場で確固たるポジションを確立できた要因は、何だと分析されていますか。
山中 一言で言えば「フェアネス(公正さ)」です。中古車は、買い手と売り手に情報の非対称性がある「レモン市場」で、売り手が甘いピーチと偽って酸っぱいレモンを売ることも可能です。しかし、人様の命を軽んじてお金に換える商売だけはしたくありません。長い目で見れば、お客様を含めた社会や人を幸せにすることでしかリターンは取れず、経営の軸に据えるべきは「フェアネス」だと考えています。
これは、NZへ中古車を輸出し始めたときに気づかされました。検査事業に参入したのも、ポートフォリオ拡大だけが目的ではありませんでした。中古車市場では、品質を自らがしっかりとチェックする体制ができなければ、信頼は得られないと考えたんです。ならば、規制を受ける立場に甘んじるのではなく、規制そのものを設計・管理する側に回ろう、と。今では、私たちの検査会社のステッカーが中古車の品質と信頼の証しとして普及しています。フェアネスは世界共通の価値観ですし、規範意識の高い日本企業ならではの強みだと思います。他地域への横展開でも、ブレずにやっていこうと思います。

入山 AIとデジタルの時代には2つの変化が起こります。まずAIで知識が共有化され、極端な例で言えば、私が話すような内容を学生がAIで生成して発言できるようになります。誰でも同じことを言えるなら、「何を」言ったかではなく、「誰が」言ったか、つまり全人格が重視されます。これは会社も同じです。同じ事業をやっていても、信頼されている会社かどうかで評価が変わります。
もう1つ、デジタル時代は隠し事ができず、SNSなどですぐ拡散されて白日の下になります。隠すのは悪手で、むしろリスクを高めるだけ。そういう意味でフェアネスを軸にして、検査会社をつくって透明性を高めたことは理にかなっていると思います。AIの時代、「隠さないこと」が最大のガバナンスになるでしょう。
「事業×市場×ブランド」で3兆円企業を目指す
入山 グローバル展開は現地の事業会社のマネジメントが鍵になります。ビジョンや価値観を、現地のリーダーとどのように共有していますか。
山中 ワクワクできる目標を共有することを心がけています。オーストラリアのディーラーグループを買収したときは、「オーストラリアで1番になろう」「その次はアメリカ進出を目指そう」と話したら、みんな前のめりになってくれました。
もちろん普段からの密なコミュニケーションも大切です。各地のリーダーとオンラインで2週間に1回、3カ月に1度は対面で定期的にミーティングを行っています。それ以外にも、声をかければみんな1泊2日で東京に飛んできてくれます。
入山 2週間に1回!? それはすごい。そこまでやっている社長は、ほとんど聞いたことがありません。それを聞いてアルプスで遭難したハンガリーの軍隊の逸話を思い出しました。その軍隊は地図をなくしてテントの中で凍えていたのですが、ある隊員が地図を発見し、それを頼りに一か八か下山することにしました。結局、何とか無事に救助されたのですが、助かった後に地図を見ると、それはアルプスではなく何とピレネーの地図でした。間違った地図でも生き残れたのは、みんながこの地図は正しいと信じて行動したからで、つまり、正しいかどうかより、「腹落ちしている」ことが生存確率を上げるのです。
これは経営学で「センスメイキング理論」と呼ばれています。山中社長はビジョンと密なコミュニケーションでセンスメイキングをされている。不確実性の高い時代のリーダーに求められる資質だと思います。

山中 欧州事業の責任者は、NZ事業で育った現地のイギリス系NZ人です。まだ若いですが、20年以上ずっと一緒に働いていますから、ビジョンや価値観は共有できています。私のリーダーシップかどうかはともかく、腹落ちしていることは間違いないでしょう。
入山 いい経営者は、現地の優秀なリーダーをつかまえることが得意です。ただ、優秀なリーダーはどこでも引く手あまたで、待遇だけで争うと厳しい。結局、最後は「社長を好きかどうか」がモノを言います。若手の優秀な人材が離れずに次世代のリーダーとして育ってきているのは、不確実性から逃げず、それを味方につけようとしている山中社長のビジョンに魅了されているからではないでしょうか。
山中 オーストラリアの新車販売市場の規模は約10兆円で、その7割を中小のファミリー企業が占めるといわれています。現在、私たちのシェアはまだ2.5%ですが、ロールアップ(同業の買収による統合)を戦略的に進めていくことで、今の10倍のシェア25%、売り上げで2兆5000万円規模に育てられる余地は十分にあると思っています。さらに、新車販売だけでなく、中古車販売やアフターパーツ、デジタルマーケティングの事業も展開しています。
欧州などほかの地域への展開を含め、グループ全体としての当面の目標は3兆円企業になることです。複数の事業、市場、ブランドのマトリックスで面を広げていけば、決して不可能な数字ではありません。そこにチャレンジするワクワクを社員や株主、取引先などステークホルダーと共有し、さらなる成長を目指したいですね。
入山 先ほどの検査会社の話もそうでしたが、山中社長は規制をむしろ逆手に取って、それを検査事業という形で商売にしている。チャレンジ具合が半端ない。でも、それは無謀なリスクではなく、きちんと見極めた健全なリスク。ビジネスモデルの奇抜さで勝負しているのではなく、ルールとリスクを構造的に理解したうえで挑戦している。そこに、オプティマスグループの成長の再現性と持続性のエッセンスがあるんじゃないでしょうか。
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