「1億総活躍社会」っていったい何ですか

担当大臣が担う本当の役割

1億総活躍担当相という、どことなく「この売場から高額当選が出ました!」とのペラ紙を貼り付けた宝くじ売場を思わせるポジションを授かった加藤勝信氏は、10月8日の会見で記者から「1億総活躍社会のイメージが伝わりにくい。モデルはあるか」と問われ、このように答えている(10月9日・東京新聞朝刊「会見要旨」より)。

「それぞれの国で歴史や文化があるから比較はできない。今より一歩前へ踏み出せる状況をどうつくっていくかだと思う。ただ、大きく一歩を踏み出すべき部分と今の歩みでいい部分もあるかもしれない。大きく一歩を踏み出すべき部分について、しっかり対策を練り、政策を実行する。それには容易でないものも出てくるだろうが、実現を図っていきたい」

 

ただただ不可解な答弁。イメージを具体的に説明してください、との問いに、さらにイメージを漠然とさせる答えを重ねてくる。その答えを導くために必要だとするのが「新3本の矢」、「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」である。この人たちは、どこまで物事を漠然とさせたいのだろう。安倍首相も加藤大臣も、頭の中にある言葉を尽くしてくださったのだろうが、返す言葉として用意できるのは、どうしても「誰か止める奴いなかったのかよ」といった乱暴な放言になってしまう。

目玉の大臣だがもろもろ兼務。ということは……

加藤大臣は、この1億総活躍担当相の他に、「女性活躍担当・再チャレンジ担当・拉致問題担当・国土強靱化担当・内閣府特命担当大臣(少子化対策男女共同参画)」(首相官邸HPより)を兼任している。1億を総活躍させたり、女性を活躍させたり、拉致問題を解決させたり、国土を強靭化させなければならないのである。もしも私が、ある雑誌の編集長から、「政治とグルメと将棋と株式投資についての原稿を全て担当してくれ」と頼まれたらさすがに匙(さじ)を投げるだろうが、加藤大臣は粛々と引き受けている。彼は、スーパーマンか、鈍感な人か、そのどちらかなのだろう。まだその評定を下す段階に無いが、今のところスーパーマンには見えない。

北朝鮮拉致被害者・蓮池薫氏の兄・透氏は、加藤氏が兼務で拉致担当大臣に就任したことを受けて、「拉致担当大臣、9年間で16人目。」と皮肉を込めてツイートした。家族会の代表である飯塚繁雄氏は「大臣がころころ代わる。本当に拉致問題を解決してくれるのか」(日刊ゲンダイ・10月8日)と述べている。政府の働きかけに長々付き合ってきた人たちからすれば、「1億総活躍」に端を発する第2ステージで謳われているインパクト重視の提言など、単なる人気取りにしか思えないのだろう。なんたって、9年間で16人目である。これだけ組織の長が変わる会社なんて、とっくにあちこちで信頼を失っているだろう。

加藤氏が兼務する、女性活躍、拉致問題、国土強靭化、少子化対策は、国民からの支持を受けやすいアイテムではある。加藤氏は、それらのアイテムをストックしている係とも言える。拉致問題について日朝間で交渉が重ねられてきたが、うまいこと進展しないとわかると、世間の関心はすぐさま離れてしまい、静まったころに同じような働きかけが再度持ち出される。残された拉致被害者を取り戻したいという意向に嘘はないだろうが、どの場面でこのアイテムを投じるべきなのか……カンフル剤のように使われてきたのが実際のところ。1億総活躍相・加藤氏は、こういった国民の支持を調整できるアイテムをいたずらに背負うことになった。つまり、「1億総活躍」の一義は、「支持率調整」にあるのではないか、そう疑いたくなるのである。

(文:武田 砂鉄/ライター・編集)

【幻冬舎plusの関連記事】
芥川賞作家・羽田圭介(前編)「挫折とは自分ではなく他人が決めるもの
藤田 晋/桜井 章一「勝負でたまにしか勝てない人と勝ち続ける人。何が違うのか?」
北野武「“輝ける明日”なんてもののために今を犠牲にしちゃうのかね」

 

ライフの人気記事
トピックボードAD
関連記事
  • コロナ後を生き抜く
  • ブックス・レビュー
  • 自衛隊員も学ぶ!メンタルチューニング
  • あの日のジョブズは
トレンドライブラリーAD
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
トレンドウォッチAD
現場に厳しく、幹部に甘い<br>日本郵便・社員大量処分の杜撰

かんぽ生命の不適正販売をめぐって、社員の大量処分が進んでいますが、その現場からは不満の声ばかり聞こえてきます。営業現場に責任を押し付けるのではなく、日本郵便の本社・支社、かんぽが自らの非を認める日はいつ訪れるのでしょうか。

東洋経済education×ICT