「軽減税率は低所得者を救う」は大きな誤解だ

経済学者が導入に賛成しない理由

一般の食料品に軽減税率を適用し、外食に高税率を適用している国は多いが、その結果、フードコート方式(形式上はテイクアウトだが、実際は店のすぐ横で食べられる)での商品提供が増えている。単一税率であれば必要のなかった小冊子やフードコートは、社会的には単なる浪費である。

低所得者対策なら、給付金やクーポン支給のほうがよい

政治的にも軽減税率には問題が多い。軽減税率の適用を受ける品目は、ほかの商品に比べ取引上有利になる(消費者にとってそのほかの商品よりも安くなるのだから当然だ)。すると、どの業界も「自分の商品に軽減税率の適用を」と主張することになる。つまりは軽減税率に向けた陳情合戦がはじまるのだ。政治家にとっては、これはありがたいことかもしれない。業界団体に軽減税率の適用をチラつかせることで、支持をつなぎ止める手段になる。しかし、1時間働くよりも1時間政治活動をした方が儲かる社会に経済発展はない。軽減税率の存在は、各業界の資源(カネと時間)をビジネス上の努力から政治活動にシフトさせる危険性がある。実際にこの動きはすでに一部業界で始まっている。

かくも問題の多い軽減税率の数少ない根拠が、「低所得者層支援策になる」というものだ。これはエンゲルの法則――低所得者ほど支出に占める食費の割合(エンゲル係数)が高い、に基づいている。しかし、日本は所得階層ごとのエンゲル係数に大きな差がないことが知られている。最も貧しい2割の家計のエンゲル係数は25%であるが、最も豊かな2割のエンゲル係数もまた20%である。

日本人にとっての「食」は趣味・嗜好品的な要素が強い。その結果、食費の絶対額の多い富裕層の方が、絶対額に直すと2倍以上の「軽減税率の恩恵」にあずかることになってしまう。この傾向は、軽減対象から外食やアルコールを除いても大きく変わらない。高級食材には軽減税率を適用しなければよいと思うかもしれないが、その線引きはきわめて困難だろう。むしろ前述の政治的な問題を深刻化させるだけである。低所得者対策としては、給付金やクーポン支給の方がはるかに実効性が高く、事務コストが低い。

これらの論点は多少論理を解する者ならば、簡単に理解できる話だ。にもかかわらず、74%もの人が軽減税率に賛成しているのはなぜだろう。ここに、経済政策の民主的決定と多数決民主主義にまつわる問題がある。

確かに、税は安いに越したことはない。そして軽減税率が導入されても、店舗運営や税務に携わる者以外にとっては直接困ることは少ない。まったくの個人的な損得から勘案すると、「軽減税率の方が差し引きで得」という人の方が多いだろう。ちなみに、生鮮食品のみの軽減適用ならば、平均的な家計で年4000円ほど得になる。大多数の人の(一家で!)4000円程度のお得感と一部の人の大幅な負担増――多数決では、少数の大きな苦しみは大多数の人のちょっとした賛成に勝つことは出来ない。経済政策の問題は単純な多数決によって決定することはできないのだ。

筆者は、現在の景気動向や国際経済のリスクから考えると、2017年の消費増税自体が時期尚早であると考えている。しかし、やむをえず引き上げが行われるならな、その際の負担軽減策は、軽減税率以外の方法で行うべきだ。もっとも、全品目に対して軽減税率が適用されるというのなら賛成ではあるが。

(文:飯田 泰之/エコノミスト・明治大学准教授)

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