薄れる2027年台湾有事説、中国が離島奪取の虚実 台湾侵攻の時間表はないが、明日かもしれない

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なぜそのような判断をしたのか。それは、金門と馬祖が「福建省」だからだ。今日、「台湾」と称されることが多い政治体は、正式な国号を「中華民国」としている。「中華民国憲法」に依ると、その領域は台湾のみならず、中国全土に及んでいる。だが、現実として統治しているのは、台湾省(台湾本島および澎湖諸島)のほか、金門や馬祖など「福建省」の一部である。

もし、中国が中華民国の保持し続ける金門と馬祖を奪取し、台湾の中華民国が「台湾省」のみを統治する状態になると、中国大陸との結びつきが失われ、中華民国イコール台湾という独立状態になってしまう。それゆえに、毛沢東は、金門と馬祖を台湾側にとどめておく決定を下したのである。

仮に、2027年までに中国が金門や馬祖を侵攻したとしよう。それを見て、アメリカが台湾防衛策をより強化するかもしれない。それをきっかけに米軍が常駐してしまったら、それこそ中国が台湾を統一するのは不可能になる。

また、近年、中国軍の活動領域は、台湾本島を取り囲めるほど拡大している。軍事的な観点から見れば、金門や馬祖にコストを割くよりも、一気に台湾本島を奪取したほうが効率的である。金門や馬祖は、それからでも奪取できるし、台湾本島が陥落してしまえば、金門や馬祖は無血開城となるだろう。

将来、中国が台湾への大規模な軍事侵攻に踏み切る日が訪れた時、金門や馬祖は、中国が手を出さない「究極の安全地帯」になる可能性もあるのだ。地図だけを見て「金門や馬祖は危ない」と言うことはできない。

「台湾侵攻の時間表は存在しない」、明日かもしれない

本稿を読み、「2027年に中国は台湾を侵攻しないんだな」と胸を撫で下ろす読者がいるかもしれない。いや、筆者は「中国は台湾を侵攻しない」とは言っていない。中国共産党最高幹部が「台湾侵攻の時間表は存在しない」と言うように、「いつ」それを発動するかを明言していないだけで、着々と準備を進めている。だが、究極的には「戦わずして勝つ」ことを目指している。

台湾海峡を挟んだ中台の対峙は、3四半世紀にわたって続いている。大切なことは、特定の年に起きうると喧伝したり、「〇〇年」に発火するか否かを占ったりすることではない。「いつ」起きても対応できるように、準備を万全にしておくことだ。中国を刺激しかねない過剰な議論も戒めるべきだ。

だが、最後に警鐘を鳴らそう。中国は、いつ台湾を軍事侵攻するとは明言していない。それは、明日かもしれない。

五十嵐 隆幸 防衛研究所専門研究員

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いがらしたかゆき / Igarashi Takayuki

1975年生まれ。2020年防衛大学校総合安全保障研究科後期課程修了。博士(安全保障学)。防衛大学校防衛学教育学群准教授や防衛研究所地域研究部中国研究室所員を経て、2024年1月から現職。主著に『大陸反攻と台湾--中華民国による統一の構想と挫折』。大平正芳記念賞、国際安全保障学会最優秀出版奨励賞(佐伯喜一賞)、猪木正道賞、地域研究コンソーシアム賞。

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