5回目の自民党総裁選で悲願の勝利「石破茂の素顔」 "目つきが悪いんですよ" "もう後がない"

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若手論客の宇野常寛(評論家)は11年秋、NHKの討論番組「政権交代2年」に生出演し、与野党の政治家たちと議論した。本質論まで踏み込み、漂流する政治はもはや大きな政界再編でしか打開できない、と主張したが、石破を除く他の出演者とは話がかみ合わなかった。

後に石破との共著『こんな日本をつくりたい』で書きつづっている。

「何度繰り返しても僕の問題提起は無視され続けた。ただ一人、石破茂議員を除いては。 『具体的に何をするのか。そのために何が必要か、国民の前に示しますから、嘘を言った人間は次の選挙で落としてください。(中略)』 石破茂だけが、あの時僕の話に耳を傾け、真摯に正面から応答してくれた」

異色の人材。古い自民党を突き破れるか

安倍政権の将来が不透明となり、石破の「次の一手」に視線が集まり始めた。来秋の次期総裁選への対応は今後の判断だが、「将来の首相」は間違いなく視野に入れている。

現在の地方創生相の役割をどう認識しているのか。石破は唱える。

「今まで田中首相の日本列島改造や大平正芳首相の田園都市構想、竹下首相のふるさと創生など、斬新な発想はあった。それらと何が違うかといえば、もう後がないという危機感です。だから、従来の政策の延長線上ではやらない。世論を啓発し、国民の意識が加速度的に高まっていけば、大きな制度改革もできる。在任中に流れと方向性を示して逆戻りしないところまで持っていきたい。

「理の政治家」の石破は、理に基づく発想と思考と論理で精緻に主張を組み立て、実現可能な具体的ビジョンを掲げて挑戦する。最後は「足して2で割る」が伝統的手法の自民党にあって、異色の人材である。

3年余の「本格野党」の後、政権に戻った自民党では、「野党転落絶対阻止・長期政権維持」が圧倒的な党内世論だ。仮に安倍が「自民党よりも安倍政治」という路線に傾斜すれば、「安倍切り捨て」が党内世論になる可能性が高い。その場合は、石破がもう一つの選択肢として浮上しそうだが、「野党転落阻止・長期政権」という党内世論の束縛を、石破はどうやって突破するのか。

長期政権を築いた小泉が引退した後、石破は「どうしたら5年も総理を続けられるのですか」と直接、尋ねたことがある。小泉は明言した。

「それは、聞いたことはその場で忘れることだ」「悩んでいてどうするのだ。その場で決める。責任は自分が持つ。そういうことだ」

「小泉流」で高人気を誇った小泉の後任に、自民党は安倍、福田、麻生太郎を担いだが、石破は「誰を選挙の顔にすれば、自民党が、つまり自分が勝てるのか」ということで選んだと分析し、「長期政権を築いた与党として、……いつの間にか『与党でいること』自体を目的化していた」のが「失敗の本質」だったと説いている(以上、石破茂著『日本を、取り戻す。憲法を、取り戻す。』より)。

石破の将来について、幹事長時代が絶頂で、この先は下り坂、と見る人も多い。反対に、自民党の新型リーダーとして、これからが頂点への上り坂、と期待を寄せる声もある。

「理」を超える武器、非合理や矛盾を許容する懐の深さ、幅広い視野と複眼思考を備えなければ、総裁選での「国会議員票の壁」を越えられないという指摘は多い。だが、最大のハードルは、今も党内に蔓延する「与党でいること自体が目的化」という自民党の体質と構造だろう。

「嫌われることを恐れず、本当のことを言う」を信条とする「民意重視」の石破は、90年代の政治改革運動以来、「自民党の生まれ変わり」に挑み続けてきたが、「民意との結託」によって高いハードルを乗り越えられるかどうか。戦いはこれからが本番である。

=敬称略=

塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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