台湾に米軍が「再び」駐留する日は本当に来るか 米台間の壁は低くなりつつあるが、一線はある

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最大16トンの運搬能力をもつ米海軍のヘリコプターMH-53Eとそれよりも小型のMH-60Sのそれぞれ2機が、かつて米空軍が駐留していた台南基地で燃料を補給し、同基地に集積された重機や救援物資を被災地に運ぶ活動を数日間繰り返した。この間、台湾のヘリコプターも災害救援活動を行っており、災害時の飛行安全を確保するため、台湾のE-2C早期警戒機がLink-16で米海軍ヘリコプターとデータ交信し、被災地への誘導を行った。

2011年の東日本大震災で日本の自衛隊は、米軍と初めて「実戦」での共同作戦が展開された。その1年半前に台湾で起きた大規模災害では、1979年の断交後、人道的見地から初めて米軍が任務遂行のために台湾に派遣され、小規模ながらも米台共同の「実戦」が繰り広げられていた。

2009年の大規模災害では、米台が共同作戦を遂行できる基盤がゼロではないことが実証された。2015年には、岩国基地からシンガポールに向かう途中の米海兵隊F/A-18C戦闘機がエンジントラブルのため、台湾に緊急着陸した。米海兵隊はC-130H輸送機で整備員を派遣し、2日後には修理を終えて台湾を離れた。これに中国外交部は、不快感を表し、アメリカ政府に対して中台関係にかかわらないようクギを刺した。

2017年に入ると、中国人民解放軍は台湾周辺の海・空域での活動を活発化させる。中国が台湾に外交面で圧力をかけていくなか、アメリカでは中国への強硬意見が強まった。そして2018年7月、米海軍の駆逐艦2隻が台湾海峡を通過。2007年に香港への寄港を拒否された空母以来の通峡であり、これ以降、米海軍艦艇による台湾海峡の通過が続いている。

現状通りならばないが、壁は低くなりつつある

2021年1月にバイデン政権が発足すると、台湾をめぐる米中の緊張が高まりを見せた。3月の全人代で王毅外交部長がバイデン政権に「トランプ政権の線を越え、火遊びをする危険なやり方」を改めるよう要求すると、インド太平洋軍司令官のデービッドソンが「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する恐れがある」と示した。

同年4月にアメリカ国務省は、台湾との政府間交流を奨励する新たな指針を示した。2カ月後には、上院議員を乗せた米空軍C-17戦略輸送機が台北松山空港に着陸した。前年夏には死去した李登輝の弔問でアザール厚生長官など閣僚や国会議員が訪台していたが、その際は要人輸送で用いられるC-40B輸送機だった。M1A2戦車も輸送できるC-17が台湾に飛来したことは、中国に対して強烈なインパクトを与えた。これ以降、アメリカ議員団はC-17に乗り、かつて米軍基地であった松山空港から台湾入りしている。

外国軍隊の駐留については、駐留にかかる諸問題に対応するため「地位協定」が必要となる。米台間には外交関係がないため、協定を結ぶことは簡単ではない。だが、2020年に厚生長官が訪台し、断交後初めて覚書(MOU)を締結しているように米台間の壁は低くなりつつある。

ただ、中国が台湾に対して武力侵攻に踏み切る条件のひとつとして、台湾の国防部もアメリカの国防省も「外国軍隊の台湾駐留」を見積りに挙げている。たとえ中国が台湾に対する軍事的圧力を強めようとも、台湾海峡の現状が維持されている限り、米軍が台湾に再駐留する日が来ることはないだろう。

逆説的に言えば、仮に中国が台湾の保持する離島を侵攻・占領し、台湾海峡の現状が武力によって変更されることがあれば事態は変わるだろう。アメリカ政府は中国に対して台湾防衛の断固たる決意を示すため、米軍の台湾本島駐留に踏み切る日が来るかもしれない。

五十嵐 隆幸 防衛研究所専門研究員

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いがらしたかゆき / Igarashi Takayuki

1975年生まれ。2020年防衛大学校総合安全保障研究科後期課程修了。博士(安全保障学)。防衛大学校防衛学教育学群准教授や防衛研究所地域研究部中国研究室所員を経て、2024年1月から現職。主著に『大陸反攻と台湾--中華民国による統一の構想と挫折』。大平正芳記念賞、国際安全保障学会最優秀出版奨励賞(佐伯喜一賞)、猪木正道賞、地域研究コンソーシアム賞。

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