「呪術廻戦」制作会社が挑むアニメ業界の悪習打破 MAPPAが「チェンソーマン」に100%出資した狙い

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「呪術廻戦」などのアニメ制作を担ってきたMAPPAの大塚学社長。人気漫画「チェンソーマン」のアニメ化にあたり、制作会社として自ら100%の出資を行った(撮影:梅谷秀司)
5月22日発売の『週刊東洋経済』は「アニメ 熱狂のカラクリ」を特集。アニメ産業において、作り手である制作会社は「儲からない」立場と言われている。現在主流の「製作委員会」方式ではテレビ局や広告代理店が出資者となる一方、制作会社はあくまで製作委員会からお金を渡されて制作を請け負う下請けであることが一般的なためだ。
しかし、その立場の変革を試みる制作会社がある。2011年設立のMAPPAは、「呪術廻戦」や「進撃の巨人 The Final Season」などを手がけ、現在、最も勢いに乗る制作会社の1つである。
同社が集英社「少年ジャンプ+」で連載中の人気漫画「チェンソーマン」アニメ化にあたっての製作費を100%自社で出資すると表明すると、その異例の挑戦に業界はざわついた。MAPPA代表取締役の大塚学氏に、その狙いや背景にある業界への問題意識を聞いた。

――MAPPAは、人気漫画「チェンソーマン」のアニメ化にあたって、制作だけでなく製作費の100%を自社で出資しました。その狙いは。

週刊東洋経済 2023年5/27号[雑誌](アニメ 熱狂のカラクリ)
『週刊東洋経済 2023年5月22日発売号は「アニメ 熱狂のカラクリ」を特集。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。※表紙画像は校了前のイメージです

今は世界中でアニメがビジネスとして注目されている。ただアニメの製作委員会などでグッズや配信の権利を持つ会社はかなりの利益を稼いでいる一方、制作会社は業界内で一番稼げない構造になっている。そんな中で、制作会社が利益を得るために必要な手段として「100%出資」にチャレンジした。

MAPPAでは年間6~8本程度、シリーズ作品か劇場作品かを問わず作りたい作品に力を注いできた。そうして培った当社の生産力とブランディングによって有名原作のアニメ化を手がける機会が得られるようになり、今回の100%出資に結びついた。

制作を受注するだけではなく、今後は権利運用を見据えた経営をやっていくぞという内外への意思表示にもなっている。

異例の「100%出資」は成功したのか

――大きな挑戦だったと思いますが、現在までの結果をどう振り返っていますか。

今まで、作品を世の中に出す前の段階でここまで注目されたことはなかった。当社は若い会社なのであのプレッシャーをどうやって受け止め、ベストなパフォーマンスを出していくのかに苦心した。

権利の細かい手続きやライセンシング、商品企画など、従来は製作委員会側がやってくれたような仕事を経験したのは良い勉強になっている。大きな制作会社だったら、そうした経験はすでにあるのだろうが。

収支においては完全に成功だったといえる。ただ直近に手がけた『呪術廻戦』と同じようなインパクトが出せているかというと、まだ満足はできていない。

(DVD・ブルーレイ)パッケージがたくさん売れる作品もあれば、配信でたくさん見てもらえる作品もある。パッケージにお金を払うお客さんの層までこの作品が届いたかというと、もっと行きたかったというのが正直なところだ。

『チェンソーマン』の作品性の中で、お金を払ってくれるターゲット層に向けてどうアプローチしていくか、模索していく。

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