アメリカが中国に圧勝したフィリピン争奪戦 大統領選勝利から1年、ボンボン・マルコス氏変身の理由

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2023年5月1日、ホワイトハウスでバイデン大統領と会うフィリピンのマルコス大統領(左、写真・2023 Bloomberg Finance LP)

フィリピンのフェルディナンド・マルコス・ジュニア(ボンボン・マルコス)氏が2022年5月9日に実施された大統領選で当選を決めてから1年が過ぎた。この間、地政学的な重要性が増すフィリピンの新たな権力者を取り込むべく、アメリカと中国が熾烈な綱引きを展開してきたが、ここにきて勝負あり、アメリカ圧勝の観がある。恩讐を超えて猛烈に言い寄ったアメリカのバイデン政権に対し、中国は自責点を重ね自滅した。

台湾、ウクライナを盛り込んだ共同声明

2023年5月1日、バイデン大統領はマルコス氏をアメリカのホワイトハウスに招き、大統領執務室で首脳会談を行った。反米感情をあらわにしていた前任者のドゥテルテ氏は訪米したことがなかった。フィリピンの大統領がホワイトハウスを訪れるのは11年ぶりだ。

バイデン氏は冒頭、「われわれが直面する新たな課題に対処するにあたり、あなた以上のリーダーはいない」と持ち上げ、「南シナ海を含め、フィリピン防衛に対するアメリカの関与は鉄壁だ」と話しかけた。

これに対して、マルコス氏は「フィリピンは現在、おそらく世界で最も複雑な地政学的状況に置かれている」としたうえで、「こうした状況下で、フィリピンが唯一防衛条約を結ぶ国に目を向けるのは自然なことだ。南シナ海・アジア太平洋で高まる緊張に直面するなか、両国関係を強化し、再定義したい」と答えた。

会談後に発表された共同声明では、フィリピンが中国などと領有権争いを抱える南シナ海について「フィリピンの軍、公船、航空機に対する武力攻撃があれば、米比相互防衛条約(MDT)が発動される」と記された。

1951年に締結されたMDT4条は「太平洋におけるいずれかの国への武力攻撃に対して行動を取る」と定められ、同5条は対象地域として「両国の大都市圏、太平洋における両国の管轄権内にある島嶼、領土、両国の軍隊、公船、および航空機」と規定されていたが、声明は南シナ海が対象に含まれることを明確にした。

声明は台湾情勢について「世界の安全保障と繁栄に不可欠な要素として台湾海峡の平和と安定の維持が重要だ」と踏み込んだ。そのうえで、アメリカ、フィリピン両国と日本、米比とオーストラリアでそれぞれ「3カ国の協力形態を確立する」と多国間安保協力体制の検討を明記した。

声明はまた、ウクライナ情勢にも触れ、「国際的に認められた国境におけるウクライナの主権、独立、領土一体性を支持する」との文言を盛り込んだ。

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