「お金盗ったでしょ」認知症の母が放つ言葉の裏側 「物盗られ妄想」のターゲットになりやすい人とは

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「物盗られ妄想」にどう対応すればいいのでしょうか(写真:hellohello/PIXTA)
「認知症は自分の家族にはまだ関係ない」と感じていても、ある日突然やってくることがあります。いきなり介護をすることになって戸惑わないために、事前に備えておくことが重要です。理学療法士の川畑智さんが認知症ケアの現場で経験したエピソードをまとめた『さようならがくるまえに 認知症ケアの現場から』より、一部抜粋してお届けします。

思いこそ妄想である

身の回りのものが見つからないとき、誰かに盗られたのではないかと思い込んでしまうことがある。

これは認知症の初期によくある症状の1つで、「物盗られ妄想」という。自分が認知症だと思いたくなかったり、家族に迷惑をかけたくないあまり、自分のものは自分で管理をしなければと頑張ったり、そうした中で、自分がしまった場所を忘れてしまうことが原因で起きてしまう。

認知症でなかったとしても、あるべきところから大切なものがなくなれば、誰しも不安になってしまうに違いない。例えば、出かけている最中に、さっきまであった財布がカバンの中からなくなっていたとしたら? どんな人でも盗まれたと思ってしまうのではないだろうか。認知症の方は、それが日常的に起きやすい状態であるということを覚えておいてほしい。

ある日、フランス在住の平井さんから、SOSのメールが届いた。日本の実家に住んでいる認知症の母と、その介護をしている妹との喧嘩が絶えず心配だ、という相談内容だった。

メールによると、妹さんの疲弊がもう限界まできていて、平井さんは見ていられないらしい。そこで、フランスの平井さんと、神戸に住んでいる妹さん、そして熊本にいる私との3人をオンラインでつないで、一度話をすることにした。文面だけでは状況がわからないことがあるのはもちろんのこと、私自身も伝えきれないことがたくさんあるからだ。

平井さんからのメールでの前情報では、平井さん一家は貿易商を営んでいるそうだ。平井さんはフランスで商品の買い付けや管理を行い、そして妹さんは経理面で家業をサポートしている。

お母さんは、1年ほど前から認知症を患い、現在では経営の第一線から退いたのだが、それ以来、お母さんの身の回りのことは妹さんが見るようになった。そして今回、妹さんがもう耐えられないとお姉さんに泣きついたのだ。

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