草彅剛「罠の戦争」"ライト化"しても評価される訳 「復讐シリーズ」は"国民的ドラマ"を意識した?

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下々の者が権力者の鼻をあかすドラマは古今東西、愛されてきた。「復讐シリーズ」も多くの視聴者の大好物で、『罠の戦争』も概ね好評なのだが、過去作と比べると表現がマイルドになった印象が拭えない。

草彅剛の演技は変わらず心情をビビッドに見せてくれている。

いやむしろ、この数年で映画『ミッドナイトスワン』(2020年)のトランスジェンダー役の演技で日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したり、NHK大河ドラマ『青天を衝け』(2021年)で孤独な最後の将軍・徳川慶喜を好演したり、最近では『拾われた男』(22年)で、主人公にとってやっかいな存在であり、主人公を映しだす鏡のような存在でもある兄を説得力を持って演じ、ますます俳優としての信頼性を確かなものにしているのだ。

だからこそ、今回、パワーアップした復讐ものを期待したのだが、なんだか内容がライトなのである。

(以下、一部ネタバレを含みます)

第1回は、蛯沢が犬飼に生卵をぶつけようとするという、随分、おとなしめな復讐(しかも結局やらない)からはじまって、クライマックスは、犬飼が記者会見で読む原稿をすり替えて、恥をかかせるというもの。

第2回は徐々に犬飼を引きずり下ろすため、まずは虻川を失脚させようと彼が持っている裏帳簿を見つけ追い込む。政治家の不正を追う週刊誌の記者・熊谷由貴(宮澤エマ)を利用するなどして、まんまと虻川を辞めさせることに成功するなど、いろんなことが容易に行き過ぎる。罠にかかる犬飼や虻川の脇が甘過ぎて、“すっきり感”が弱めなのだ。

あの「国民的ドラマ」との共通点

この感覚には既視感がある。『ドクターX ~外科医・大門未知子~』(2012年〜、テレビ朝日)や『半沢直樹』の第2弾(2020年、TBS)、『コンフィデンスマンJP』(2018年〜、フジテレビ)に似ているのだ。

主人公に“けちょんけちょん”にされる人物がややおバカさんな感じで、悪者というよりもいかに面白いキャラになるかに比重がかかっている。どんな安易な流れでも、最終的には俳優の力技でおなかいっぱいにして、ねじ伏せてしまうという演劇的な見せ方である(それはそれである種の伝統芸なのでいいのだが)。

「教えてやる 踏みつけられたらどれだけ痛いか」という鷲津のセリフは、「やられたらやり返す 倍返しだ」にちょっと響きが似ているような気がして、意識しているのかなとも思える。

『半沢直樹』は、2013年に放送された第1シリーズのときは、もう少し緻密なストーリーを楽しめたが(これもドラマは原作と違って復讐ものの要素を付加していた)、2020年の第2シリーズからキャラの濃さが売りになってコメディ化していった。

今回の『罠の戦争』で「わしづ〜」と主人公を粘っこく呼ぶ犬飼は、『ドクターX』の悪者医者や『半沢直樹』の悪者銀行員のようである。そして鷲津たちが犬飼や虻川たちを陥れるやり方が、「コンフィデンスマンJP」的なアニメっぽいチームプレーの雰囲気なのである。

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