源氏物語、巧みな「男同士の艶っぽい描写」の面白さ 読者サービスの一種?行間から膨らむ妄想

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二千円札に描かれた源氏物語
2000円札に描かれている源氏物語(写真:ニングル/PIXTA)
学校の授業では教えてもらえない名著の面白さに迫る連載『明日の仕事に役立つ 教養としての「名著」』(毎週木曜日配信)の第17回は、2024年のNHK大河ドラマの主人公、紫式部の『源氏物語』について解説します。
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男性同士の関係もかなり深く描いている源氏物語

『源氏物語』といえば、光源氏がたくさんと女性と恋愛する話として有名だが、『源氏物語』に登場する人間関係は男女のカップルばかりではない。実は『源氏物語』、男性同士の関係もかなり深く描いているのだ。

例えば、ヒロインの1人である空蝉の弟・小君。彼は、空蝉に迫ろうとする光源氏に、あれこれと夜這いの手引きをおこなう。空蝉に源氏からの和歌を渡したり、家へ行く手助けをしたりする。しかし空蝉は光源氏を拒み続ける。そんななかで、光源氏が「空蝉の代わりに……この子でもいいんじゃないか?」とかなり気に入っていたのが、弟・小君だった。

光源氏は空蝉に拒まれた夜、このように語っている。

<原文>
寝られたまはぬままには、「我はかく人に憎まれてもならはぬを、今宵なむ初めてうしと世を思ひ知りぬれば、恥づかしくてながらふまじうこそ思ひなりぬれ」などのたまへば、涙をさへこぼして臥したり。

いとらうたしと思す。手さぐりの、細く小さきほど、髪のいと長からざりしけはひのさまかよひたるも、思ひなしにやあはれなり。あながちにかかづらひたどり寄らむも、人悪ろかるべく、まめやかにめざましと思し明かしつつ、例のやうにものたまひまつはさず、夜深う出でたまへば、この子は、いといとほしくさうざうしと思ふ。

※以下、原文はすべて『新編 日本古典文学全集20・源氏物語(1)』(阿部秋生・秋山虔・今井源衛・鈴木日出男訳注、小学館、1994年)

<意訳>なかなか眠れない光源氏は、横で一緒に寝ている小君に愚痴を言った。「私の人生で、こんなに嫌われたことなんてありませんでしたよ。今夜……はじめて人生がつらいものだと思い知りました。ああ、もう生きていけないくらい、つらい」。小君は、目を潤ませながら聞いている。

源氏は、彼がかわいくて仕方なかった。触るとわかる、ほっそりと華奢な体、髪が長くない感じ――なんだか空蝉とよく似ているから、ぐっと来てしまう。嫌がっている空蝉を無理強いしても、悪いうわさが立つかもしれない。そう考えてうだうだしているうちに、夜が明けた。源氏はいつものように小君に用事を言いつけることもせず、まだ夜が明けきってないうちに帰宅した。小君は「あんなふうに姉さんに拒否されて、かわいそうに……」と思いつつ、物足りない、と感じていた。

光源氏が小君を見る視線は、完全に艶っぽいもののそれである。そしてさっさと帰る光源氏に対して「さうざうし=物足りない」と感じる小君も小君である。

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