北朝鮮の核に対抗して韓国が核武装する可能性も 北朝鮮専門家アンドレイ・ランコフ教授インタビュー

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2022年12月28日、朝鮮労働党中央委員会総会に出席した金正恩総書記(写真・AFP=時事)
北朝鮮は2022年末に朝鮮労働党中央委員会総会を開催、最後に報告を行った金正恩総書記は核兵器の量産や軍事衛星の打ち上げといった目標を掲げた。2022年には70発超の弾道ミサイル試射を行うなど軍事的脅威を誇示した北朝鮮。2023年にはどういった行動を見せるか――。
北朝鮮の専門家として世界的に著名な韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授は、北朝鮮は今後も核開発を止める必要性を感じていないとする一方で、アメリカも韓国も北朝鮮と対話をする必要性はないと感じていると指摘する。

 

ーー2022年末に朝鮮労働党中央委員会総会が開かれ、金正恩総書記が報告したと北朝鮮メディアが報道しました。

現段階ではよくわかりませんが、確かなことが1つあります。故・金正日総書記時代に非常に軽視されていた朝鮮労働党の統治メカニズムの多くが復活しました。金正恩時代に入り、約35年間一度も招集されなかった党大会も開かれ、代表者会議もひんぱんに開催され、党中央委員会や政治局の活動も大きく正常化しました。

言い換えれば、金総書記が朝鮮労働党の役割を重視する理由は2つあると思います。1つは、金正日時代の「先軍政治」を中心とするスローガンが示すように、北朝鮮を軍事独裁政権に変えようとする考えがなくはなかった父とは異なり、金総書記は「朝鮮労働党を中心とする統治システム」を好んでいます。

アメリカとの対話も難しい

次に、金総書記は個人による統治方式よりも、形式化された統治方式を好みます。彼は複数の委員会や国家機関などをきちんと稼働させ、国の統治をある程度自動化させるという考えがあるようです。自由奔放、自分の思いのままといった世界観が強かった父と違って、金総書記はある程度、官僚主義的な考え方があると言えるでしょう。

そのため、金総書記は朝鮮労働党の大会や会議、各級の委員会を体系的に開催・招集して指示を下すなど、重要な宣言をするための舞台として利用しています。

ーー2022年には弾道ミサイルを70回以上試験発射するなど、軍事的な示威を多く行いました。総会でも2023年度の「核武力および国防発展の変革的戦略」を示し、核兵器の量産や軍事衛星の打ち上げなどを目標にしました。

当然、予測可能な将来において、軍事的路線には変化はないでしょう。アメリカのバイデン政権は北朝鮮との会談を行う考えすらないですし、韓国政府は対北朝鮮政策では「強い行動には強い行動で対応する」という政策を示しています。

北朝鮮は少なくとも、アメリカをはじめとする国際社会で核保有国として認められるまで、核開発の速度を緩める考えはありません。彼らがもともと、核開発を進めた理由は抑止力、すなわち自らの政権と国家を保護するためでした。しかし、こんにちの北朝鮮は戦術核の話を取り出すことからわかるように、「防衛よりも攻勢」という、いわば夢を見始めた兆しが見られます。

言い換えれば、北朝鮮は近いうちにアメリカ大陸を攻撃できる武器を十分に保有できれば、アメリカを恐喝し再度の韓国侵攻(南侵)、第2次朝鮮戦争を起こそうとする野心を持つこともありうるということです。

しかし、政権と国家を守るため、さらには朝鮮半島の武力統一を果たすためには核兵器とその運搬手段を必要とします。そのため、彼らは今、武器開発を止める必要はないのです。

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