規制緩和が打撃「仙台」タクシー、今も残る傷の深さ 2002年の構造改革がもたらした台数急増の苦悩

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仙台駅
仙台のタクシー事情に迫ります(筆者撮影)

「タクシーの数が日本一多い場所は仙台だ」

そんな格言が、かつてタクシー界には浸透していた。この現象をひもといていくと、タクシー業界にとっていまだかつてない“悪法”と評された規制緩和の影響が大きい。

小泉純一郎政権時代の2002年に実施された規制緩和で、タクシー業界は混乱に巻き込まれた。事業者や台数は急激に増加し、それに伴いドライバー1人ひとりの売り上げは急降下した。「タクシー破壊法」とも言われた同法だが、中でもとくに強い“被害”を受けたとされる地域が仙台だ。

人口当たりの台数は東京都内を超えるともいわれる水準となり、現場は疲弊していく。

筆者が仙台駅を訪れた10月末は、鉄道開業150周年企画の新幹線、特急列車3日間乗り放題期間の影響もあってか、観光客でごった返していた。タクシー乗り場には30台以上のタクシーが並ぶが、大型のスーツケースを引く人々の多くは、タクシーを横目に通り過ぎていく。西口で拾った運転手の河野さん(仮名・60代)が、当時の様子をこう振り返る。

「昔の仙台は、タクシー運転手にとってはいい環境でしたね。1回の隔日勤務で5万円近くは稼げる市場があったんです。ところが、規制緩和により台数が爆増したことにより、営業収入は一気に3万円以下まで落ち込んだ。台数が増えたということは、それだけタクシーを利用する人が多い街だったということですが、需要と共有のバランスが一気に崩れてしまったんです。当然運転手は食えなくなり、生活は激変した。今なお、当時の流れを引きずっており、需要に対して供給過多の状態が続いています」

規制緩和後にタクシー台数が急増

はたして規制緩和がもたらした余波はどんなものであったのか。宮城県タクシー協会・仙台地区総支部が発表するデータを見ると実情がわかりやすい。規制緩和前の2001年は仙台市のタクシー台数は2041。ところが2006年には一気に3003へと急増した。

これに対して地域の総営業収入は、2001年の242億円から2006年には231億円となり、日車営収(1日当たりの1車の平均営業収入)は、2001年の3万5887円から、2006年は2万5955円と1万円近い下げ幅だ。

20年以上が経過した現在、昨年度の車両数は2246台、総営業収入は約105億円、日車営収は2万0748円と大きくその規模を縮小する結果となっていた。もちろんこれは、近年の新型コロナウイルスや仙台市が国の特定地域、その後準特定地域に指定され、事業の適正化が進んだことなど、外的な要因もあるが、規制緩和の影響も明らかに大きい。

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