ロシア進出の自動車会社が面した2大リスクの罠 カントリーとレピュテーションの板挟みに苦悩

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ロシア 国旗 地図
日系自動車メーカーの相次ぐロシア撤退が意味することは?(写真:chormail/PIXTA)

古くは冷戦期のソ連圏に進出したフランスのルノー(後のラーダ)やイタリアのフィアット(アフトワズ)のケースのように、ロシアは未開のフロンティアであると同時に、つねにカントリーリスクを意識する市場だった。カントリーリスクとは、特定の国・地域における政治・経済・社会情勢の変化により企業が損失を被るリスクのことを指す。

2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻して以降、米欧企業のロシア撤退や生産停止、輸出入停止が相次いだが、これは西側諸国の消費者、有権者がロシアで事業を続ける事業者を非難して事業継続を困難にする、レピュテーションリスクに一因がある。これら2つのリスクが同時に顕在化した現在、多国籍企業が自由にグローバルに事業を展開する時代は終わりを告げているのだろうか。現地でいったい、何が起きているのか。

地経学で読むロシア自動車市場

まずはロシア市場について概観しよう。2021年、ロシア市場での自動車販売台数は、コロナ禍を受けて落ち込んだ前年に比べ4.3%増え、約166万台だった。ブランド別のシェアでは、首位がアフトワズ傘下のラーダで21%、2位が韓国の起亜で12.3%、3位も韓国の現代で10%、4位がフランスのルノーで7.9%、5位が5.9%のトヨタだった。日本勢では、9位が日産自動車の4.2%、15位がマツダの2.4%、16位が三菱自動車の2.3%、19位がレクサスの0.9%、すでに撤退の準備を進めていたと言われるホンダが0.1%だった。

グループ別では、アフトワズを含むルノー・日産・三菱が約56万(アフトワズが約35万台、ルノーが約13万台、日産と三菱を合わせて約8万台)、次いで起亜が約20万台、アウディやシュコダを含むフォルクスワーゲンが約19万台、現代が17万台、レクサス含むトヨタ自動車が約11万台の順となった。日本車の主力商品はトヨタ「ランドクルーザー」などのヘビーデューティな大型SUV(スポーツ多目的車)や、現地生産してきたSUVの「RAV4」、セダンの「カムリ」などであり、比較的所得が多い世帯をターゲットにしてきた。

冷戦終結後にロシアの自動車市場が活況を呈したきっかけの1つが、アメリカビッグ3の一角、フォードの進出だった。フォードはソ連政府と合弁で1929年にロシア工場を立ち上げ、これが後に国を代表するメーカー、ガズとなるなど、ロシアの自動車産業の礎を築いた立役者でもあった。フォードは2001年にサンクトペテルブルク郊外に工場を開設し、ルノーとトヨタがすぐに続いた。2007年に日系初となるサンクトペテルブルク工場を開設し、カムリを生産した。

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