捕鯨からテックまで「ロングテール投資」の進化 ベンチャーキャピタル、アメリカなど書評3冊

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ブックレビュー『今週の3冊』

 

[Book Review 今週のラインナップ]

・『ベンチャーキャピタル全史』

・『アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋』

・『アメリカの政治任用制度 国際公共システムとしての再評価』

ベンチャー キャピタル全史 トム・ニコラス 著
『ベンチャーキャピタル全史』トム・ニコラス 著/鈴木立哉 訳(書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします)

評者・慶応大学総合政策学部准教授 琴坂将広

過去を知ることは、前に進む力になる。その過去が偉大な先人たちの苦闘や偉業であればなおさらである。

創業初期の事業に対する投資は、失敗の確率が高い一方、成功すれば大きなリターンをもたらしうる。本書は、その中でもとくに洗練された手法、著者が「ロングテール投資」と呼ぶ手法の歴史を描く。

この手法は、多くの投資先を組み合わせた「ポートフォリオ」によって、一定以上の収益を上げることを投資家に約束する仕組みだ。タイトルにある「ベンチャーキャピタル」は、ロングテール投資を行う組織の代名詞である。

著者は、起業家論、ファイナンス、イノベーションを専門とする研究者。歴史研究の手法を用いることもあり、多数の研究実績を誇る。また、米ハーバード・ビジネス・スクールの教員として多くの事例研究教材を執筆する。

「ロングテール投資」に挑む起業家、投資家たちの物語

本書は著者初の一般向け単著だ。植民地時代の米国で行われていた遠洋捕鯨から現代のテックビジネスまで、多くのロングテール投資事例と、各時代を彩る伝説的な起業家・投資家の物語を描く。

教科書的に淡々と解説するのではなく、ストーリーを深く掘り下げる。英雄譚を積み重ねることで、ロングテール投資の進化を時代の潮流として描き出す。語られるのは米国の、しかも過去の事例だが、具体的な記述が想像をかき立てる。卓越するところは、膨大な研究蓄積や事実の収集に基づく描写、学びにあふれる多くのエピソードだろう。

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