習近平の中国、「思想」が権力を正当化し維持する 「指導」と「監視」で14億人が無言になる国家

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党大会で習近平の独裁が名実ともに実現した(写真:Bloombaerg)

かなり前の話になるが2007年の年明け、駐日中国大使だった王毅氏に声をかけられ東京・港区の中国大使館に出かけたことがある。王毅氏から持ち掛けられたのは、4月に来日予定の温家宝首相が日本の国民との距離を縮めるために滞在中のイベントにいいアイデアはないかという相談だった。

当時の日中関係は東シナ海のガス田問題などが横たわり必ずしも良好とは言えなかっただけに、王毅氏の対応から中国が温首相訪日を機に日中関係を改善したいという意欲を感じた。

日本国民はもちろん日本の大半の政治家やマスコミにとって胡錦涛主席ら中国のトップクラスの政治家は限りなく縁遠い存在だった。私は来日中、温首相が記者会見を行いフランクに質問に答えたり、マスコミの個別のインタビューに応じて肉声を伝えてみてはどうかと提案した。

その時、王毅氏は驚いたように目を開き、私の提案に直接答えることはしなかった。駐日大使にとって温首相は雲の上の存在であり、記者会見などとても提起できる立場ではなかったのだろう。

西側諸国との外交関係に比較的柔軟だった胡錦涛主席や温家宝首相でさえ、中国国内においては圧倒的存在だった。今月、開かれた中国共産党大会で異例の3期目に突入するとともに、党幹部の大半を自派で固めて一気に権力の集中を実現した習近平主席がどれほど圧倒的な存在となったかは想像に難くない。

習近平の「思想」を前面に出した

その習近平氏が党大会で行った活動報告の演説には、5年前のものと比べるといくつかの変化があった。その最たるものはこれまで以上に「思想」を前面に出し比重を置いていたことだった。

いうまでもなく最も重要なキーワードは「新時代の中国の特色ある社会主義」だ。このほかにも「社会主義現代化強国」「小康状態」「共同富裕」「生態文明建設」「愛国統一戦線」「人類運命共同体」などなど、われわれにとっては耳慣れない用語が頻繁に登場する。しかし、過去の習近平氏の演説などによほど精通していなければ、その意味を理解することは難しい。

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