北朝鮮「ロシアに兵器は売らない」の本当の意味 ウクライナ戦争で変化するロシアと北朝鮮

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2022年4月25日、朝鮮人民軍創建90周年を祝う軍事パレードで登場した大陸間弾道ミサイル「火星17」(写真・EPA=時事)

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化し、兵器や弾薬などロシア軍の軍事力不足が指摘されるようになった。経済制裁を受けるロシアにとって、兵器などをどう補充するかが問題として取りざたされるようになった矢先、北朝鮮が奇妙な談話を発表した。

2022年9月22日、北朝鮮の朝鮮中央通信は国防省装備総局の副総局長が同月21日に談話を発表したと報道した。ロシアと北朝鮮が兵器取引を行っているとの情報をアメリカなどの敵対勢力が流しており、さらに国連安全保障理事会の決議違反について言いふらしているとの内容だ。

「今後もロシアには武器を輸出しない」

「今回の機会に一つだけ明白にしようと思う。われわれは、かつてロシアに兵器や弾薬を輸出したことがなく、今後もそのようにする計画がないということである」。談話でこう述べていることが注目される。北朝鮮とロシアの間での武器取引説のうわさの機先を制するかのような談話内容だ。

今回の談話発表は、9月6日にアメリカ国家安全保障会議(NSC)のジョン・カービー戦略広報調整官が「ロシアが北朝鮮に対し、弾薬の調達を申し入れた事実がある」と明らかにしたことが直接のきっかけだろう。しかし、軍事面での対外関係をほとんど口にしない北朝鮮にとって談話はきわめて異例のことだ。これには、ウクライナ戦争によるアメリカとロシア、中国との関係変化と、北朝鮮のアメリカに対する姿勢の一端が垣間見える。

「談話で発表された内容を真に受ける必要はない。一方で、武器取引という疑惑にはノーと表明することで、アメリカとの決定的な対立を避けたい意向かもしれない」。北朝鮮の対外取引に詳しい古川勝久・元国連安保理北朝鮮制裁員会専門家パネル委員はこう分析する。

古川氏は、もし武器輸出が発覚した場合、「武器輸出相手国はロシアではなく、自らが一方的に国家承認したドネツク、ルハンスク両人民共和国だと開き直るつもりかもしれない」とも指摘する。「両国は、すでにロシアが一方的に併合したが、国連加盟国ではなく国連の制裁には該当しない、などと法的に間違った言い訳を主張する可能性もある」と付け加える。

これまで北朝鮮の核・ミサイル開発に対するアメリカ主導の経済制裁に際して、中国とロシアは北朝鮮をかばうような姿勢を見せ続けた。露骨な制裁違反までには至らないが、人道支援や密貿易の見逃しといった形で、食料や生活必需品、原油やガソリンを北朝鮮に小規模だが継続的に支援してきた。

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