「コスパ」と「スマート」の行き着く先にある「疎外」 「他人から必要とされているのか否か」をやめる

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壁の落書きと道路
2008年5月3日土曜日、ヨルダン川西岸のベツレヘムの壁に描かれた英国のストリートアーティスト、バンクシーの「落書き」。映画『わたしは、ダニエル・ブレイク』でも「落書き」は「人間の尊厳を労働市場における有用性だけで測る社会に対する「異議申し立て」のシーンとして描かれています(写真:AHIKAM SERI/Bloomberg)

世の中が便利になることが良いことだと思えなくなっています。人間がテクノロジーを主体的に使うのではなく、使われてしまうことのほうに大きな危機感を感じているからです。どういうことでしょうか。

現代社会はテクノロジーの高度化に伴い、人間が主体性を手放し、考えることをやめ、大きな流れに身を委ねるだけになっています。そのように自らの生を手放すことを、僕たちは「便利になる」と言っている。そんな風に感じています。その「便利になる」ことを今の言葉で言い換えると、「スマート」になります。

コスパがいいスマートな「社会人」

考えることを手放して、何かに身を任せて生きていきたい。

その欲望を実現してくれるのが、スマートシティ構想です。国土交通省のウェブサイトによると、スマートシティとは「先進的技術の活用により、都市や地域の機能やサービスを効率化・高度化し、各種の課題の解決を図るとともに、快適性や利便性を含めた新たな価値を創出する取組」とあります。ICT(Information and Communication Technology)技術を生活の至るところに導入すれば、自動的に僕たちが幸せになるという設定です。

いや、便利になること自体を批判しているわけではありません。とにかく便利になれば、効率化すればオールオッケーだと思ってしまう、この思考停止状態が恐ろしいのです。

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