大久保利通、官僚に「爺さん」と呼ばれた納得の背景 驚く「頑固」な粘り、木戸孝允は「婆さん」と呼ばれた

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 明治新政府の成立に大きく貢献した維新三傑の大久保利通(左)と木戸孝允(右)(左写真:photo123/PIXTA、右写真:SUYA/PIXTA)
倒幕を果たして明治新政府の成立に大きく貢献した、大久保利通。新政府では中心人物として一大改革に尽力し、日本近代化の礎を築いた。
しかし、その実績とは裏腹に、大久保はすこぶる不人気な人物でもある。「他人を支配する独裁者」「冷酷なリアリスト」「融通の利かない権力者」……。こんなイメージすら持たれているようだ。薩摩藩で幼少期をともにした同志の西郷隆盛が、死後も国民から英雄として慕われ続けたのとは対照的である。
大久保利通はどんな人物だったのか。実像を探る連載(毎週日曜日に配信予定)第49回は、立憲制樹立の道筋を示した「大阪会議」のやりとりから浮かび上がる大久保の真骨頂に迫る。
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<48回までのあらすじ>
薩摩藩の郷中教育によって政治家として活躍する素地を形作った大久保利通。21歳のときに父が島流しになり、貧苦にあえいだが、処分が解かれると、急逝した薩摩藩主・島津斉彬の弟、久光に取り入り、重用されるようになる。
久光が朝廷の信用を得ることに成功すると、大久保は朝廷と手を組んで江戸幕府に改革を迫ったが、その前に立ちはだかった徳川慶喜の態度をきっかけに、倒幕の決意を固めていく。大久保は閉塞した状況を打破するため、島流しにあっていた西郷隆盛の復帰に尽力。その西郷は復帰後、勝海舟と出会い、長州藩討伐の考えを一変させ、坂本龍馬との出会いを経て、薩長同盟を結んだ。
武力による倒幕の準備を着々と進める大久保と西郷に対し、慶喜は起死回生の一策「大政奉還」に打って出たが、トップリーダーとしての限界も露呈。意に反して薩摩藩と対峙することになり、戊辰戦争へと発展した。
その後、西郷は江戸城無血開城を実現。大久保は明治新政府の基礎固めに奔走し、版籍奉還、廃藩置県などの改革を断行した。そして大久保は「岩倉使節団」の一員として、人生初の欧米視察に出かけ、その豊かさに衝撃を受けて帰国する。
ところが、大久保が留守の間、政府は大きく変わっていた。帰国した大久保と西郷は朝鮮への使節派遣をめぐって対立し、西郷は下野。同じく下野した江藤新平は「佐賀の乱」の首謀者となった。大久保は現地に赴き、佐賀の乱を鎮圧する。次に大久保が進めた「台湾出兵」でも粘り強い交渉の末、清から賠償金を得て、琉球も併合した。そして、今後は日本の大改革に取りかかる。

木戸孝允との関係修復を急いだ大久保利通

目的を成し遂げるにあたって、同志の存在ほど心強いものはない。しかし、同じ方向を目指す仲間がゆえに差異が気になり、仲違いしてしまうことは、どんな組織でもよく起こる。

そんなときに、自分の方針を曲げて相手の意見を尊重するか、それとも、己を貫いて決裂もやむなしとするか。運命の分かれ道である。

大久保利通と西郷隆盛の2人は決裂する道を選んだが、さらにもう1人、重要な人物が明治政府から抜けようとしていた。西郷や大久保と並んで「維新の三傑」の1人とされる、木戸孝允である。

木戸は、大久保の台湾外征に対して、強い反発を示した。なにしろ、大久保は「内治を優先するべき」という理屈で、西郷の朝鮮派遣を強引に押しとどめたばかりである。いつでも筋を通そうとする木戸が「征韓派に謝罪してから決行せよ」と、大久保に憤るのも無理からぬことだった。

木戸は明治7(1874)年4月18日に辞表を提出。参議を辞職している。清との外交に成功し、大久保が帰国したのは11月26日。木戸が離脱してから、半年以上の月日が過ぎている。

国内の改革を断行するにあたって木戸は必要だ。そう考えた大久保は、木戸との関係修復を急いだ。

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