中から「政府のコロナ対応」見た経済学者の課題感 科学的知見を活用して将来の危機に備えるために

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6月中旬に決定してその後変えられない場合と、6月中旬には何らかのアナウンスをしておいてその後変更することが可能な場合とでは、意思決定の質がまったく異なります。結局、6月中に何かしらの指針は出す必要はあるが、いざとなったら前日にでも無観客にできる、ということがわかりました。

そういった現場とのやりとりを私たちの五輪分析に関する第2弾レポートにも反映させて 、「現時点での観客数制限の指針にかかわらず、感染状況が悪くなったらいつでも無観客にすること、そしてそういった柔軟性があることを人々に理解してもらうこと」の重要性を強調しました。

第2弾レポートを公表した次の日に加藤勝信官房長官(当時)が電話をくださったのですが、そのときにも、観客数の決定には柔軟性があることをはっきりと伝えることの重要性を最も強調しました。その直後のオリパラ専門家会議で一番強調した点もこの部分です。この点には、参加していた多くの感染症・公衆衛生専門家の方々からも賛同が得られました。

そして、その後の関係者の発信を見るとはっきりと「状況に応じていつでも無観客にする」と明言してくれたケースも多く、できるだけ観客を入れたいと考えていた方々も含めてこのような発信をしてくださったことから、私たちのレポートが多少は貢献できたのかもしれないと考えています。

6月のオリパラ関係者は、開催を1カ月後に控え準備等で疲労しており、また多くの感染症専門家が中止や無観客を訴えている中、さまざまな気持ちが交錯していたと思います。そういった環境で、課題に直接対応している現場の人々だけでは議論が煮詰まってしまうことや、細部に意識が集中してしまって他に潜んでいるかもしれない重要なポイントにまで目が届かなくなるといったことが起こりえます。

そんなときに、外部の人間が、客観的かつ大きな視点で新たな論点を提供したり、見落とされている問題を指摘したりすることで何かしらの貢献ができるのかもしれません。たとえ「言われてみれば当たり前」と思われるような指摘であっても、こうした役割は意外に重要です。この点は、私たちのような外部の研究者という立場だからこそ果たせる役割だと思います。

政策現場は科学的知見を求めている

――実際にコロナ分析を通じて政策現場と密接に関わってきて、お二人は率直にどんなことを感じたのでしょうか。

藤井 大輔(以下、藤井):政策現場の方々との対話を通じて感じたのは、彼・彼女らは多忙をきわめる状況に置かれているということと、その中でもさまざまな分析に向き合い、自分たちもトライしながら、検討を深めているんだということです。この点は、本当に尊敬しています。私たちも外部の研究者として、そういう方々をうまく援護したいと思って取り組んできました。

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